2023-24年秋冬ショーは、コムアイがモデルとして登場
東京・新宿の西武珈琲で行われた、ユェチ・チ(Yueqi Qi)の2023-24年秋冬コレクション。昭和39年創業の昭和レトロな空間で、まるで宇宙人のような奇抜でダイナミックな装飾に身を包んだモデルたちが闊歩した。当時妊娠中だったミュージシャンのコムアイがモデルとしてフィナーレに登場し、話題を集めたのも記憶に新しい。その迫力あるルックに目を凝らすと、ニットのデザインやビーズのディテールが実に巧妙で、奇抜さだけでなく細かな手作業に見入ってしまうほどの強い衝撃を受けた。
「時を、一枚の紙のように半分に折り曲げることができたなら、折り目には頂点が生まれる。未来と過去は流れ、落ちる、永遠に」──これは2023-24年秋冬コレクションで中国出身のデザイナー、ユェチ・チが記したメッセージだ。夢見る幻想と現実を繋ぐファッションの面白さを改めて教えてくれたような気がした。
幼少期から手工芸に惹かれていたというユェチ・チは、その思いを抱きながら、2018年にセントラル・セント・マーチンズ美術学校のニットデザイン科を卒業。その後、シャネル(CHANEL)の刺繍アトリエで経験を積み、2019年に自身の名を冠したブランドを設立し、2020年春夏シーズンの上海ファッションウィークでコレクションデビューした。そんな彼女の手工芸へのこだわりや今後の展望について話を聞いてみると、純粋なものづくりへの情熱に満ちていた。
──少し遡りますが、東京・新宿の喫茶店で行われた2023-24年秋冬コレクションのショーでは、細かなビーズ使いとニットのデザインなど、斬新な発想が詰め込まれていました。ビーズやニットのアイテムに着目しようと思ったきっかけ、その魅力はなんでしょうか。
若い頃からすでに、私はビーズの手工芸に魅了されていたのを覚えています。平凡な日常から興奮と創造性の世界へ逃避する方法だったんです。 私は常に探求し、新しい何かを発見しようと努めています。 私が考える「発見」とは、答えはすでにそこにあり、少し視点を変えたり操作したり強化したりして形を変えること── これが私のデザインに対するアプローチであり、ビーズやニットの作品にもこの考え方を取り入れています。
未来への“逃避”がもたらす唯一無二の創造性
──デザインする上で何がインスピレーション源となっていますか?
日常生活の風景がクリエーションに影響を与えているのは確かですが、私のモチベーションを高めているのは、身近な環境からの「逃避」が大きいかもしれません。私のアプローチは常に前傾姿勢。ここ数シーズン、未来がもたらすかもしれないものにとても興味を持っていますね。それは未来がより良くなることに偏った理想主義とも言えるかもしれません。でもこの逃避が、時に未来を明るくしてくれると思っています。
──ブランドの設立前に、シャネル(CHANEL)の刺繍アトリエで経験を積まれていたそうですが、そこで学んだことは今どんな風に生かされていますか?
シャネルでは、ビーズや刺繍の伝統的なテクニックや手法をたくさん学びました。チームのスタッフも私をサポートしてくれたり。とても自由に探求することができたこの経験は、私自身のアトリエでの作業にも影響を与えています。
BLACKPINKのリサが着用したハートのルックも話題に
──ビーズのアイテムはすべて手作業で作られていると伺いました。デザインから完成までどれくらいの時間をかけて作られているのでしょうか。
ビーズの作品はとても手間がかかります。作業に近道はありません。例えばネックレスなら、アイテムの複雑さによっては1つ作るのに丸1日以上かかることもあります。また、レーザーカットのハートの作品もとても時間を費やします。
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BLACKPINKのリサがコーチェラで着用したハートのルックは、レーザーでハートモチーフにカットするところから始めました。ハートを対照的な色で折り合わせて、金属製のリングで結合した後にペンチを使って一つ一つ繋ぎ合わせます。型紙はなく、トルソーの上で直接作るため、一つの作品を完成させるのに数人がかりで何日もかけていますね。
──2024年春夏コレクションでは、ミュージックイベント形式で発表されました。東京・表参道の街を闊歩するモデルとともに、観客が音楽を楽しむ姿も他にはない演出だったと感じました。
2022年春夏シーズンでは、2017年に私がインスパイアされた東京の音楽シーンを元に「Bright Lights, Big City」というコレクションを発表しました。音楽への深い愛を共有するミュージシャンがたくさんいて、とても刺激になりました。しかしコロナ禍の影響で、残念ながらライブミュージックを演出に取り入れることができなかったんです。
そういった経緯があり、2024年春夏コレクションで実現したいと思ったんです。典型的なファッションショーでは、モデルと観客の間に壁があるように感じていたため、今シーズンはその壁を取り払い、モデルがゲストと一緒に歩けるようにしました。ショーが表参道の交差点で行われることは、ゲストが会場に到着する時点では伝えませんでした。その結果、モデルは自由に歩き回りゲストとともに音楽や会話を楽しんだり。新しいファッションショーの形を表現できたのではないかと思っています。私たちはまだ小さなブランドですが、このプロジェクトに賛同してくださる方々に感謝したいですね。
ユェチ・チ流の装飾が光る、アグとのコラボシューズ
──アグ(UGG)とのコラボブーツも登場しました。大胆な装飾が印象的でしたね。
私はアグのシューズが大好きで、コラボするならオリジナルデザインに忠実でありたいと思い、アグのブーツと私たちの世界をつなぐ装飾に焦点を当てました。ビーズや貝殻、レーザーカットしたハートのロゴ、リボンなどを使ってカスタマイズするのは本当に楽しいです。カジュアルな印象から逸脱した作品になったと思います。
──ユェチ・チさんにとって東京はどんな街ですか?
東京はルールを重んじる街ですが、いつ、どのようにルールを破るかを知っている面白い街だと思います。細部にまで気を配り、工芸品を愛する人々が住む場所でもありますね。素朴な楽しみを大切にし、見知らぬ人にも親切である部分も大好きです。
──今後のヴィジョンについてお聞かせください。
尊敬する人たちとのコラボレーションや、クールな服作りを継続していきたいです。次回のショーは、数年ぶりに上海で行うので楽しみにしていてください!
Photos: Courtesy of Yueqi Qi Interview&Text: Saki Shibata Editor: Mayumi Numao