HBOが手がけるTVシリーズ「Euphoria」は、ティーンのドラッグやセックス、不安障害などといった社会問題を描くダークな青春ストーリーが全米で話題をさらっているが、もう一つ、Z世代を中心に「ユーフォリア」現象を巻き起こしているのが、登場人物たちの退廃的でグラマラスなメイクだ。
同作でメイクを担当するドニエラ・デイヴィーのインスタグラムを覗いてみると、彼女が本シリーズのために考案したアイコニックなメイク画像が多数投稿されている。グリッターで描かれた涙が頬をつたうルー(ゼンデイヤ)に、目がチカチカする蛍光のシャドウをまとったジュールズ(ハンター・シャファー)、グロスをたっぷりと唇にのせ、星空のごとくスワロフスキーのフェイスクリスタルを顔に散りばめたマディー(アレクサ・デミー)、そして、光沢ある真っ赤な口もととスモーキーな目もとでゴスっぽく仕上げたキャット(バービー・フェレーラ)……。
面白いのは、さらにそこに、これらのメイクと色使いからクリスタルの用い方までそっくりな「Euphoria」ファンたちの写真(もちろんデイヴィーがタグづけされている)が並んでいること。つまり「Euphoria」のメイクが、ジェネレーションZのあいだで大きなムーヴメントになっているのだ。
煌めきとニュアンスのあるデイヴィーのメイクは、ティーンのリアルと現実逃避のファンタジーが融合していて、彼らのメイクに対する自由な冒険心を掻き立てているようだ。デイヴィーは語る。
「ティーンたちは常に新しいことを試している。彼らは自分を表現するためだけにメイクをするのではなく、その日、自分が何になりたいかをメイクで表現しているの」
それにしても、本作のメイクは「日常」というにはあまりにも過剰だ。デイヴィーはメイクを考案するにあたり、ティーンたちの危うい行動の背景にある動機を学ぶべく行ったリサーチから、彼らの苦しみやリアリティのあまりにダークさに驚きを隠せなかったという。
「監督のサム・レヴィンソンは、メイクを新しく自由な自己表現方法として捉えることで、キャラクターの成長を際立たせたいと考えていた。だから私も、定型的な美の定義やメイクアップの常識を超えて、普段テレビでは見ないようなまったく新しいスタイルを打ち出すことに挑戦したわ。まさに、リアルなジェネレーションZのインスタグラムでしか見られないような『新しい美しさ』をね!」
ここ数年、ジェネレーションZの追っかけをしてきた甲斐があったと笑うデイヴィーは、本作を手がけるまで、映画『ムーンライト』(2016)のような自然体で気骨のある人物像をつくりだす仕事が多かった。だから本作のオファーを受けたときには、思わず「オーマイゴッド、これが私のチャンスよ!」と飛び跳ねたそうだ。
「アーティストとして新しいメイクをオーディエンスに提案するため、ジェネレーションZの美的感覚に自分なりのアレンジを加えているの。私はグラムロックが大好きだから、1960年代後半や70年代など、メイクの歴史からも多くのインスピレーションを得ているわ。例えば、歌手ニーナ・シモンが60年代後半に、眉に大きなラインストーンを載せている写真を見つけたの。そのメイクをマディーの激励会のシーンに取り入れたの」
デイヴィーはまた、それぞれのキャラクターに、周囲の女の子たちとはまったく違う「個性」を付与することにこだわった。ただ、それが新たな「個性の型」になることを避けるため、定義し難いニュアンスを出したり、ときには期待を裏切るようなアプローチをとったそうだ。
「シーンごとに、このルックは物語の意図と合っているか、メイクは今回のストーリーを語れているか、というふうに常に自問したわ。ただ着用する衣装に合っているからクール、というのではいけないと思ったの」
メイクを始めたばかりの10代の頃は、おしゃれするという行為そのものが楽しい。デイヴィーは、そうした浮き立った感情もメイクに投影したいと考えたそうだ。
「例えば、マディーは美人コンテストに出場しはじめた5歳の頃からメイクをしてるから、他の女の子たちよりも完成度が高い。一方、他の女の子たちは仕上げが雑だったり、あえて完璧にしないことでリアリティーを追求したの」
「Euphoria」のレビューにメイクを絶賛するコメントが多いことに、彼女自身、とても驚いている。登場人物にインスピレーションを得て、似たようなコスメを買ってそのメイクを再現するオーディエンスは、とても多いのだ。
「メイクを通して自己表現をする勇気を与えられるのは、特別な体験よ。何より、私のメイクが他のメイクアップアーティストではなく一般のオーディエンスの感情に影響を与えているという事実が、嬉しくて仕方ないわ。そのほとんどが、常に誰も見たことのないようなスタイルを追求しているジェネレーションZだということにもね」
「Euphoria」には、定型美の基準を壊していく革新性がある。誰かに咎められることなく、純粋にさまざまな色やテクスチャーを実験する楽しさを画面を通じて教えてくれるのだ。
私たちは、いつの時代もあの手この手で顔や体の美しさを引き立てる方法を見つけてきた。それはこれからも変わらない。
「このシリーズには、誰もが妥協することなく思い切り自己表現することを全面的に肯定し、勇気づけてくれる力強さがある。そしてそれを、オーディエンスの皆が支持してくれていることが、最高に嬉しいわ」
Text: Lauren Valenti