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睡眠の質を上げるには? 冬の快眠をさまたげる3つの要因

一年を通して寝苦しいといえば夏、というイメージがあるが、冬もまた寒くて朝起きられないなど、睡眠にまつわる悩みが起きやすい季節。今、私たちが抱える睡眠課題、それから“冬の寝苦しさ”の理由とその解決方法を睡眠の専門家に聞いた。

睡眠の重要性が周知されてきた一方、満足度は世界13カ国中最下位という結果に

「冬は、実は睡眠環境を整えるのが難しい季節なんです」と話すのは、スリープテック企業として寝具やスリープトラッキングディバイスなどを展開するブレインスリープの取締役、松井大樹氏。「みなさん、寒さ対策のために、厚着や布団の重ね使いなど必要以上に温めすぎる傾向にあります。それによって、寝床内温度・湿度が高くなりすぎてしまい、中途覚醒を引き起こすなど睡眠の質が低下しがちです」

確かに足先などが冷えやすいことから、布団の中をいかに温めるかを対策しがちだが、どうするのが正解?「冬の睡眠についてお話しする前に、まず、私たちが直面している睡眠課題について触れさせてください。なんと日本はとうとう世界一眠らない国になってしまったのです」(松井さん)

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経済協力開発機構(OECD)が2018年に行った調査では平均睡眠時間の長さは7時間22分とOECD加盟国中最下位。どうしてそこまで“眠らない国”になったのか? 「50〜60年前の睡眠を削ってでも働くことを美徳するような高度成長時代の影響が大きいのでしょう」(スタンフォード大学医学部精神科教授/同大学睡眠生体リズム研究所所長/ブレインスリープ最高研究顧問 西野精治先生)。だが、現在では5、6年前に比べ平均+14分という調査結果もあり、“眠らない国、日本”の現状も改善されつつある。その理由について、西野先生はこう話す。「これまで睡眠時間は短くなる一方でしたが、コロナ禍の外出制限下では寝具にこだわる人が増え業界の売上が上がるなど、最近では睡眠への意識が高まる傾向にあります」

日本人は平均寿命が長いことで知られているし、最下位とはいえ平均が7時間以上なら十分な気も。そもそも、私たちは睡眠時間が多少短めでも平気、なんてことはありえるのだろうか?

 「確かに、人によって適切な睡眠時間というのは異なります。日本人がショートスリーパー、つまり短い睡眠時間でも支障ない民族かどうかというのは調査としてありませんが、満足しているかどうかというのは一つ指標になるのでは。フィリップス社が2021年に世界13カ国、1万3000人の成人を対象に行った『世界睡眠調査』では、満足度においても29%と最下位となっています」(西野先生)

「日本は諸外国に比べて社会保険制度が充実しており、また和食を中心とした食生活などといった要因により平均寿命が長いと考えられるため、あくまで仮設ではありますが、睡眠時間が現在より長くなり、かつ睡眠の質が高まれば、さらに寿命が延びる可能性があるかもしれません。また、睡眠時間と労働生産性の関係性についても近年着目されています。私たちは、企業の生産性向上の観点でも睡眠は非常に重要であると考えています」(松井さん)

生産性の観点から、西野先生はこう続ける。「昨今、プレゼンティーズム(健康問題が原因で生産性が低下している状態)という言葉がよく話題にのぼりますが、睡眠不足はまさにプレゼンティーズムに深く関わっていると言えます。2016年に発表された米国シンクタンクのランド研究所の調査によると、睡眠が十分にとれていないことに起因する働き手の減少、パフォーマンスダウンといったネガティブな影響がGDP比で最も深刻とされたのは日本。GDP比2.92%が、睡眠不足により損失されているとの結果が出ており、その影響の大きさは金額にすると最大で年間1380億ドル、つまり約15兆円にまで上ると試算されました」

あなたは睡眠不足? まずは自分の快眠度をチェック

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一番の問題は、あなた自身が今の睡眠で問題ないか、満足しているか、ということ。まずは、日中の自覚症状で分かる、自分の睡眠の質をチェックしてみよう。西野先生によると、1、2つだけでも当てはまるなら要注意なのだそう。

  1. 朝、目覚めるのが辛くスッキリ感がない。
  2. 寝ても疲れが取れていない気がする。
  3. 日中、ぼんやりして集中できない。
  4. イライラしがち。
  5. 午前中に眠くなることがある。

※『スタンフォードの眠れる教室』(幻冬舎)/西野精治著より。

加えて、「休日の睡眠時間が平日より2時間以上長い」というのは、“睡眠負債”が蓄積されている分かりやすいサイン。「特に予定がなく、時間に制限なく寝られるという日に、いつもより2時間以上遅く起きる人は、慢性的な睡眠不足の可能性が高いと思います」(西野先生)

実は冬も睡眠の質が低下しやすい季節

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「先ほどお伝えした通り、確かに日本人の睡眠時間は短い。とはいえ睡眠時間の確保は忙しいと難しいこともありますし、必ずしも長さが重要なわけではありません」と、松井さん。確かに一日が24時間なのは変えられないし、劇的に睡眠時間を延長できる人ばかりとは限らない。「大事なのは睡眠環境を整えて、質を上げること。ここからは、意外と知られていない冬の睡眠をさまたげる3つの要因を整理したいと思います」

  1. 深部体温が下がりづらい。
  2. 日照時間が短い。
  3. 乾燥する、室温が低いなど、寝室の環境が低下しやすい。

Factor 1. 深部体温が下がりづらい。

「人は眠りにつくとき、皮膚温度が上がり深部体温が下がることで良質な睡眠を得ることができます。ですが、手足が冷えがちな冬は、体を温めようとして暖房や厚手の布団、厚着をする人が多くいます。そうすると、熱がこもって皮膚温度だけでなく深部体温まで上昇してしまって睡眠の質が下がってしまうのです」(松井さん)。入眠前に入浴で体温を高めるなどして、眠りにつきやすいコンディションに整えつつ、睡眠時の温めすぎは避けること。

Factor 2. 日照時間が短い。

「人は光を浴びることで、体内時計を調整するようにできています」(西野先生)。日光を浴びるとメラトニンが抑制され、セロトニンが分泌されるというメカニズムにより体内時計を調整しているが、冬は日照時間が短くなることによりセロトニンが十分に生成されず、バランスを崩しがちに。冬はタイマーで点灯する照明にするなど、一工夫必要かも。

Factor 3. 乾燥する、室温が低いなど、寝室の環境が低下しやすい。

体感など個人差はあるものの、冬場は20℃前後、湿度は50%前後が望ましい。温湿度計を使う、暖房器具や加湿器を工夫するなどして、睡眠に適した環境づくりを心がけて。

「最近発表した私たちの発表した研究論文で行った疫学調査では、睡眠時無呼吸症候群(以下SAS)の人の方がそうでない人よりCOVID-19罹患リスクが16.6倍高いという結果が出ました。おそらくSASの方は上気道感染しやすい、つまり口呼吸になっていることが理由の一つだろうと考えます」と、西野先生。冬は10℃以下など低い室温のなか寝ている人も多く、また乾燥しがちなのでウイルスが増殖しやすい環境に。さらに、口呼吸になっていると乾燥した冷たい空気により粘膜が刺激に弱くなり、感染リスクが高まることになる。「不眠症状のある人も、COVID-19の罹患率が比較的高いという結果も出ています」

つまり、寝室を適度な室温・湿度にするなど冬に快眠のための環境を整えることは、感染症の対策にもなるということ。もちろん睡眠の質を上げれば健康な体を手に入れることにもつながるし、一石二鳥というわけだ。睡眠時間を大幅に増やせなくても、寝室の環境、パジャマなど着衣を心地よいものに工夫するなど、快眠のために自分でコントロールできることはいくつもある。この冬は今一度、睡眠のための環境づくりに注力してみてはいかがだろうか。