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ワケありの(元)暗殺者が主人公のスパイ映画7選

裏社会や巨大な組織と契約を結び、標的を倒していく暗殺者は総じて非情なアウトローだが、予想だにしないバックグラウンドを持つ。ラミ・マレックが最新作『アマチュア』で演じるのは、銃も上手く扱えないどころか、格闘や殺しの訓練を一切受けたことのないCIA分析官だ。そんなワケありのキャラクターたちが、ストーリーに深みを与えるスパイ映画にフィーチャー!
ワケありの(元)暗殺者が主人公のスパイ映画7選
Photo: ©2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.

チャーリー・ヘラー 復讐に燃えるCIA分析官

『アマチュア』は4月11日より日本公開。

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ラミ・マレックが、愛妻の命を奪ったテロ組織への復讐にたった1人で挑むCIA分析官を演じる『アマチュア』。主人公のチャーリー・ヘラーはサイバー捜査を専門とし、典型的なスパイアクション・ヒーローとは大きく異なるキャラクターだ。仕事は本部でのデスクワークで、殺しや格闘のスキルもない。地味で内向的な彼は愛する妻と平穏に暮らしていた。

そんなある日、ロンドンに出張中の妻サラ(レイチェル・ブロズナハン)がテロ事件に巻き込まれて命を落とす。失意の中、持ち前の技能を駆使して犯人の情報に迫っていくチャーリーは自らの手で復讐する決意を固める。だが、CIAの特殊任務の訓練に潜り込むものの、人を殴ることも銃の扱いさえもままならない。戦闘能力はアマチュアレベルで従来のヒーロー像から大きく外れるが、暗号解読や情報解析に長けたチャーリーはテロリストに策略を仕掛け、アメリカからヨーロッパへと飛び、ロンドン、パリ、マルセイユ、そしてイスタンブール、マドリードと渡り歩く。

ローレンス・フィッシュバーンが演じるのは、チャーリーに殺しの術を教えるCIA教官ヘンダーソン。

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チャーリーの復讐の鍵を握る謎の女性インクワライン役は、カトリーナ・バルフ。

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ラミ・マレックの起用は、彼が『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』(2021)でヴィランを演じたことがきっかけだという。だが、チャーリーの人物像はTVシリーズ「MR. ROBOT /ミスター・ロボット」の天才ハッカー、エリオット・オルダーソンとも共通する。どちらも頭脳と機転を利かせて危機に立ち向かい、肉体のタフさよりも知力で闘うキャラクターだ。爆発の現場から立ち去ろうとする際、爆音に思わず怯む姿をはじめ、リアリティあふれる演技も見どころ。監視カメラやAIを駆使した分析など、高度なものから日常的な技術までが融合した現代社会の実態も垣間見える。

ジョン・ウィック 独特の美学を持つ孤高の元殺し屋

『ジョン・ウィック』(2014)より。Photo: Summit Entertainment/Everett Collection/amanaimages

Photo: Summit Entertainment/Everett Collection

『ジョン・ウィック』は、愛犬の仇討ちのために立ち上がった元殺し屋の壮絶な復讐劇として始まったシリーズだ。『マトリックス』シリーズに続くキアヌ・リーヴスの新たな代表作となり、現在も第4弾と5弾の製作が進められている。引退して静かな生活を送っていた伝説の殺し屋ジョン・ウィックのミステリアスな佇まい、病気で亡くなった愛妻からの最後の贈りものの仔犬だけが友だちという設定は、当時のキアヌがプライベートを1人ぼっちで過ごす姿をたびたび目撃されて「Sad Keanu」と呼ばれたパブリック・イメージとリンクし、荒唐無稽スレスレのストーリーにも説得力を持たせた。

『ジョン・ウィック:パラベラム』(2019)には、ジョン・ウィックがNY市内を馬とバイクでチェイスするシーンもある。

Photo: R, TM & c 2019 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.

本シリーズは『マトリックス』シリーズでスタントを担当していたチャド・スタエルスキとデヴィッド・リーチを監督に迎え、CGに頼らず実写でリアリティ重視のアクション・シーンが特徴だ。キアヌが50代を迎えるのに合わせたかのように始まったシリーズは、回を追うごとにアクションシーンがエスカレートしている。カンフーと銃撃をミックスしたり、第3作『ジョン・ウィック:パラベラム』(2019)ではジョンが馬に乗ってブルックリンの路上や地下鉄高架下を疾走。繰り出される独創的なアクションにスタント出身の監督のプライドを感じる。戦闘服はスーツ、裏社会の厳しい掟、殺し屋たちのオアシスである「コンチネンタル・ホテル」など、作り込まれた作品世界も魅力的だ。

ジェイソン・ボーン 記憶を失った元CIAエージェント

『ボーン・アイデンティティー』(2002) より。Photo: Universal Pictures/Everett Collection/amanaimages

心因性健忘で自分の名前すらわからなくなった男が、自らのアイデンティティを探っていく『ボーン』シリーズ。マット・デイモン演じる主人公ジェイソン・ボーンは、元CIAのエージェントだ。ロバート・ラドラムの原作小説を大胆に脚色したストーリーは、暗殺任務に失敗し、記憶を失ったボーンが逆にCIAから証拠隠滅の目的で命を狙われ、逃亡を続ける中で事件の真相に迫っていく過程を描く。厳密に言えば、ジェイソンが暗殺者だったのは、記憶を失う前のこと。だが、記憶はないのに身体が反応し、危機に直面すると瞬時に複数の相手を倒す。

そんな自分の能力に戸惑う男を演じたマットといえば、それまではアカデミー賞で脚本賞を受賞した主演作『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(1997)など、人間ドラマや文芸作のイメージが強かった。だが、この作品ではジェイソン・ボーンを演じるために肉体改造とハードなトレーニングを行い、接近戦闘術のクラヴマガやフィリピンのカリを取り入れたフィジカルなアクションシーンを力強く演じたのが印象的だ。

『ボーン・アイデンティティー』(2002) より。Photo: Universal Pictures/Everett Collection/amanaimages

小説のジェイソン・ボーンは映画のキャラクターより年長のイメージだが、第1作『ボーン・アイデンティティー』(2002)のダグ・リーマン監督は、ボンド映画や『ニキータ』(1990)のような作風を目指したそうのだ。ちなみに監督の父親は元CIA職員で、80年代にイラン・コントラ事件を調査した特別検査官のアーサー・L・リーマンだ。

手持ちカメラで揺れ続ける映像もシリーズの特徴。大画面で見ると乗り物酔い状態になりそうな臨場感だが、第1作ではこの手法でゲリラ撮影も敢行している。パリの北駅でのシーンは、マットとカメラマンだけが現場に赴き、警察に見つかる前に60秒で切り上げるという荒技で撮影。駅の利用客が撮影に気づいた素振りを見せる瞬間もある。

『ジェイソン・ボーン』(2016)より。Photo: Universal Pictures/Everett Collection/amanaimages

その後、ジェイソンが失われた記憶を取り戻していくまでを『ボーン・スプレマシー』(2004)、『ボーン・アルティメイタム』(2007)で描き、スピンオフ作の『ボーン・レガシー』(2012)を挟んで、3部作から9年を経た『ジェイソン・ボーン』(2016)でも新たに彼の過去が明かされた。現在もシリーズ最新作の企画は進められているが、マットが続投するかは明らかにされていない。

ローレン・ブロートン 冷戦時代の二重スパイ

『アトミック・ブロンド』(2017)

Photo: ©Focus Features/courtesy Everett Collection

『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015)で片腕の戦士フュリオサを演じ、主人公に勝る存在感を示したシャーリーズ・セロン。怒りや葛藤をパワーに戦うタフな女性像をさらに進化させたのが、製作総指揮も務めた『アトミック・ブロンド』(2017)だ。自身の製作会社に持ち込まれたグラフィックノベル『The Coldest City(原題)』をもとに、『ジョン・ウィック』をチャド・スタエルスキと共同監督したデヴィッド・リーチを監督に起用。シャーリーズは、1989年のベルリンで機密リストの奪還と二重スパイを探し出すという2つのミッションを与えられたMI6のスパイ、ロレーン・ブロートンを演じた。

プラチナブロンドの髪に隙のない装いのロレーンは、数々の危険な任務の中で悲劇も経験しているようだが、ミステリアスな過去はどこまでが事実かもわからない。二重三重の裏切りの物語を牽引する彼女の真の目的は徐々に明らかになり、観客も彼女に裏切られながら真実へと近づいていく。

Photo: ©Focus Features/Courtesy Everett Collection

シャーリーズの身体性が多くを表現するのが本作の特徴。儀式のように氷風呂に浸かるシーンでは鍛え抜いたプロフェッショナルの肉体を誇示し、リアリズムを追求する格闘シーンでは長時間の戦いで積み重なる疲労や殴られる痛みが伝わってくる。製作が『ジョン・ウィック:チャプター2』とほぼ同時期で、シャーリーズとキアヌのトレーニング期間が重なり、2人一緒にトレーニングすることもあったそうだ。

写真家ヘルムート・ニュートンの1980年代の作品をインスピレーションにしたロレーンのファッションは、力強さと官能性、洗練を体現する。原作通りに白と黒の2色を基本にしつつ、時代を超えたスタイル。ジョン・ガリアーノによるカスタムメイドの白いレインコートは、ロレーンの強さとクールな美しさが強調する。シャーリーズがアンバサダーを務めたディオール(DIOR)のサポートを受けて、さまざまな衣装を提供。印象的な赤のスティレットや、真紅のコートもディオールのアーカイブから提供されたほか、バルマン(BALMAIN)のジャンプスーツやサンローラン(SAINT LAURENT)のブーツなども着用している。

ザ・ブライド 復讐に燃える暗殺団の元メンバー

『キル・ビル Vol.1』(2003)より。Photo: Miramax/Everett Collection/amanaimages

クエンティン・タランティーノ監督が、大好きな日本や香港、台湾のアクション映画へのオマージュをふんだんに織り込んだ『キル・ビル』の2部作は、ユマ・サーマン演じる殺し屋のザ・ブライドが主人公だ。暗殺組織の一員だった彼女は結婚式のリハーサル中に襲撃され、頭に銃弾を受けて4年間も昏睡状態に陥ることに。花婿や参列者が殺され、妊娠していた胎内の子も奪われ、目覚めたザ・ブライドは、首謀者である組織のボス、ビルとその手下たちへの復讐に立ち上がる。

『キル・ビル Vol.1』(2003)では来日して沖縄で刀鍛冶から日本刀を授かり、『キル・ビル Vol.2』(2004)では中国の高僧から拳法の必殺技を習得、それらを駆使して自分の幸せを破壊した5人を1人ずつ倒していく。彼女が着ている黄色のトラックスーツは、『死亡遊戯』(1978)のブルース・リーへのオマージュ。ユマによると、打ち合わせでタランティーノ監督と「主人公の殺し屋が花嫁だったら面白いよね」と何気なく話し合った内容から、ブライドというキャラクターが誕生したそうだ。

『キル・ビル Vol.1』(2003)より。Photo: Miramax/Everett Collection/amanaimages

女性中心のストーリーになったのは、監督が大好きな日本や香港の映画には女性のヒーローがいたからだという。例えば「Vol.1」のラストでザ・ブライドと雪降る中で対決するオーレン(ルーシー・リュー)は白い着物に長い黒髪で、梶芽衣子主演の『修羅雪姫』(1973)のヒロインにそっくり。2人は日本刀で斬り結ぶが、ユマとルーシーは刀鍛冶の服部半蔵を演じた千葉真一からトレーニングを受けた。

もう1人、強烈な存在感を見せたのがオーレンのボディガード、GOGO夕張。栗山千明が制服姿で鎖のついた鉄球を振り回すインパクトあるキャラクターを演じ、大人気を博した。実は本作のプロデューサーは、性暴力を告発されMeToo運動のきっかけとなったハーヴェイ・ワインスタインで、ユマは何度も危険な目に遭ったという。「Vol.2」の撮影では、カーアクションをスタントなしで演じるように強要され、道路脇の木に衝突する事故に見舞われ、首と膝を負傷した。当時、事故は揉み消されたが、ユマがMeToo運動の渦中で告発。タランティーノ監督は15年の時を経て、公に謝罪を表明した。

Mr & Mrsスミス 互いの素性を知らなかった暗殺者カップル

『Mr & Mrsスミス』(2005)より。Photo: 20thCentFox/Everett Collection/amanaimages

『Mr & Mrsスミス』(2005)は、のちに3児をもうけて結婚するも離婚したブラッド・ピットアンジェリーナ・ジョリーの出会いの1作としても有名だ。監督は『ボーン・アイデンティティ』を撮ったダグ・リーマン。郊外で幸せに暮らしていたジョンとジェーンのスミス夫妻は、実はともにプロの暗殺者、しかも互いの素性を知らずにいたという設定だ。

正体を知られないように生活してきた2人だが、別々に同一人物の暗殺を依頼されたことから、現場で出くわしてしまう。正体を知られたからには相手を始末しなければならない。愛する伴侶の命を狙う羽目になったカップルの戦いが、さらに巨大組織が絡む壮絶な争いへと発展するアクション・コメディとなっている。

Photo: 20thCentFox/Everett Collection/amanaimages

なんといっても、ブラッドとアンジェリーナのスターパワーが魅力。ユーモラスなやりとりも、銃撃戦あり殴り合いありの凄まじいバトルも、華やかに見せる。もちろん愛し合うカップルとしての表情も。手に触れるもの全てを武器に、家中めちゃくちゃに壊すほど戦った後は、生傷だらけのまま仲直りする命がけの夫婦喧嘩は、どこかコミカルで同時にセクシーでもある。

徹底的に争って、より愛情が深まる……というのは映画の中でのお話。実生活のブラッドとアンジェリーナの場合はそうはいかず、本作をきっかけに築いた家庭は壊れ、子どもたちの親権をめぐる法廷闘争を続けていた。ちなみに本作はAmazonでシリーズとしてのリブートが決定している。スミス夫妻を演じるのは、ドナルド・グローヴァーフィービー・ウォーラー=ブリッジ。どんなふうにアップデートされるのか、こちらも楽しみだ。

ブラック・ウィドウ スーパーパワーを持たないアベンジャーズの一員

『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』(2015)より。Photo: Walt Disney Pictures/Everett Collection/amanaimages

マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)のアベンジャーズの中で唯一、過去が明かされてこなかったブラック・ウィドウことナターシャ・ロマノフ。国際平和維持組織シールドの最重要エージェントであり、元KGBのスパイという情報しかない彼女が初めてMCUに登場したのは『アイアンマン2』(2010)。シールドのスパイとしてトニー・スタークのもとにセクシーな秘書として送り込まれ、その後に素性が明かされると気まずくなるも、敵を前にすると共闘。それまではインディーズ系の秀作を中心に活躍していたスカーレット・ヨハンソンが、黒のレザースーツで華麗なアクションを見せた。

ナターシャはずば抜けた身体能力で大柄な敵も倒す格闘技術があり、狙撃の腕も高い。マルチリンガルで、あらゆる武器を使いこなし、変装も得意。アベンジャーズの一員ながらスーパーパワーを持たない生身の人間だが、凶暴なハルクと心を通わせて暴走を抑えるなど、彼女にしかできない能力を誇る。どんどん増え続ける個性派揃いのアベンジャーズのコミュニケーションを支える存在でもあるが、その活躍はもちろん「内助の功」的レベルには留まらない。世界を救うために究極の決断も辞さないヒロイックな女性像は、スカーレットの演技力によって、10年という時間をかけて積み上げられていった。

『ブラック・ウィドウ』より。 Photo: (c)Marvel Studios 2021

スカーレットが製作総指揮に名を連ねた『ブラック・ウィドウ』では、ケイト・ショートランドを監督に迎え、『シビル・ウォー キャプテン・アメリカ』(2016)と『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』(2018)の間の時期を舞台に、アベンジャーズとは別の“偽りの家族”が存在した彼女の過去、幼少の頃から過酷な訓練を受けて超一流の暗殺者に育成されたナターシャ・ロマノフという自己との決別が描かれる。

Text: Yuki Tominaga

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