サンフランシスコを舞台に、妻を事故で亡くしたTVキャスターのダニー・タナー(ボブ・サゲット)が、義弟でミューシャンのジェシー(ジョン・ステイモス)、親友でコメディアンのジョーイ(デイヴ・クーリエ)と、娘3人の子育てに奮闘する「フルハウス」。ハグ大好きで潔癖症のダニーをはじめ、慣れない家事と育児に振り回される男性陣3人と、育ちざかりの女の子3人の毎日はハプニングの連続。8年間という年月をかけて、家族として大人も子どもも成長していく過程を、微笑ましくてちょっと泣けるエピソードで描いていく。
シーズン1でタナー家の長女D.J.(キャンディス・キャメロン)は10歳、次女のステファニー(ジョディ・スウィーティン)は5歳、三女ミシェルは生後8カ月という設定。ミシェルを2人1役で演じた双子のメアリー・ケイト&アシュレー・オルセン姉妹は、撮影開始時に9カ月だった。オーディションに10組ほど集まった候補の中で、彼女たちだけが泣き出さず、機嫌のいい赤ちゃんだったのが選ばれた理由だそう。番組スタート当初はまだ話すこともできない時期で、いるだけで可愛い存在だったが、シーズンを重ねるごとに名子役の才能も開花させ、末っ子の甘えん坊キャラとして番組最大の人気者になった。ミシェル本人とその分身としてメアリー・ケイトとアシュレーが揃って登場するエピソードもある。
しっかり者の長女を演じたキャンディス、怖いもの知らずで自由な次女を演じたジョディも含めて、タナー家の女の子たちの成長8年間のシリーズを通して、思春期に経験する恋愛や友情の悩みを等身大の演技で見せた。途中から、結婚したジェシーの妻レベッカと双子の息子、D.J.の親友キミーやボーイフレンドも加わった賑やかな群像劇は、血縁だけにこだわらない家族のあり方を明るく提示し続け、1995年にシーズン8で終了した。
2016年2月からは、Netflixでスピンオフ・シリーズ「フラーハウス」がスタート。俳優業を引退したオルセン姉妹を除くオリジナル・キャストが再結集し、今度は少女から大人になったD.J.とステファニー、キミーの子育て奮闘を描いている。
ジェニファー・アニストンをはじめ、ほとんど無名だった6人の若手俳優を一躍スターの座に押し上げ、今も世界中で根強い人気を誇る「フレンズ」。ニューヨークに暮らす男女6人の友情を軸に、なかなか大人になりきれない彼らが恋愛や仕事で経験するドタバタをテンポよく描いていく。物語は、働いたこともないお嬢様のレイチェル(ジェニファー・アニストン)が自身の結婚式からドレス姿のまま逃げ出してきたところからスタート。彼女は旧友のモニカ(コートニー・コックス)を頼ってルームメイトになり、同じアパートに住む俳優のジョーイ(マット・ルブラン)とチャンドラー(マシュー・ペリー)、モニカの兄のロス(デヴィッド・シュウィマー)、モニカの元ルームメイトでマッサージ師のフィービー(リサ・クドロー)との賑やかな日々が始まる。
シーズン開始時は、携帯電話もインターネットも普及していなかった時代。自宅で他の誰かにかかってきた電話を偶然取ってしまって、そこからドラマが始まったりする。セルフィーを撮るのは使い捨てカメラ。調べたいことがあれば百科事典を開くなど、20世紀を感じさせる描写の数々はリアルタイムの視聴者世代のノスタルジーを誘うはず。高収入でもないのに何故こんな広い部屋に住める? などツッコミどころも多々ある。また主要キャストは全員白人で、多様性に欠けるのは事実。価値観もかなり保守的で、LGBTQの扱い方や、モニカが太っていた過去にだわり過ぎな点など、今だと違和感もあるネタも多い。それでも、きれいに取り繕わない、欠点も含めた6つの個性には誰もが何かしら共通点を見出すはず。シリアスな悩みに直面しつつも、深刻になり過ぎず、支え合って笑い飛ばしていく友情は魅力的だ。
撮影は、実際に観客を入れたスタジオでキャストが演じ、生のリアクションをそのまま収録する形式で行われた。ウケすぎて観客の爆笑が止まらず、無観客で撮り直すこともあったそうだ。確かに「フレンズ」の笑い声は他作品に比べて、ライブ感をより強く感じる。そして、たぶんこれが90年代アメリカのマジョリティのセンス。恋愛がらみの気まずい勘違いの場面で、視聴者がちょっと切ない気分になったところに容赦なく大爆笑が被せられたりして、興味深い。
番組がヒットし、毎シーズン豪華なゲストが出演したのも見どころだ。ブルース・ウィリスやゲイリー・オールドマンのほか、シーズン8にはロスの同級生ウィル役で、当時ジェニファーの夫だったブラッド・ピットがゲスト出演している。シリーズ終了以来、待ち望まれた続編が現実的になったのは2019年。2020年にHBO Maxで6人が揃う1回限りの特別番組の放送が予定されていたが、コロナ禍により撮影が延期に。当初から1年遅れた今年3月に撮影を予定している。今年の1月にロブ・ロウのポッドキャストに出演したリサは、すでに一部撮影を済ませ、春の早い時期に本格的に撮影予定だと明かした。
ジョー・バイデン大統領がオバマ政権の副大統領だった2012年、LGBTの権利についてアメリカ人の考え方に影響を与えた作品として挙げたのが「ふたりは友達? ウィル&グレイス」だ。ニューヨークを舞台に、有能な弁護士でゲイのウィル(エリック・マコーマック)と、親友でストレート女性のインテリアデザイナー、グレイス(デブラ・メッシング)が主人公。結婚直前で婚約解消したグレイスが、マンハッタンに暮らすウィルのアパートに転がり込んで同居が始まり、ウィルの友人でゲイの俳優ジャック、お遊び感覚でグレイスのアシスタントをしているソーシャライトのカレンが登場し、セクシャリティや文化背景を切り口に4人の関係を描いていく。
1990年代、アメリカでドラマに登場するLGBTQキャラクターといえば、ヘテロの主人公の恋をアシストする親友ポジションが多かった。ゆえに地上波のプライムタイムの番組で、主人公の1人をゲイという設定にしたのは1998年当時では画期的だった。20年以上経った今では、ステレオタイプに感じてしまう描写もあるが、それだけでは終わらなメッセージが洒脱なユーモアの中に込められている。恋愛感情は抜き、それでも誰より親しい2人の仲は理想的だ。同じ男性を好きになりかけたり、それぞれがパートナーと出会っても、気の置けない関係は揺るぎない。
パワフルで個性あふれるジャックとカレンはもちろん、カレンのメイドでヒスパニック系のロサリオも素敵なキャラクターだ。仕事は完璧で気が強く、カレンと口喧嘩もするが最後はいつもハグで終了するのが微笑ましい。彼女の存在を通して、移民問題をトピックの1つにしたのも革新的だった。ちなみにバイデン大統領は「『ウィル&グレイス』は他の誰よりもアメリカの大衆を教育するために多くのことをしたと思う。人々は異質なものを恐れるが、今では理解し始めるようになった」と語っている。
エミー賞や映画俳優組合(SAG)賞なども受賞した本作は2006年に終了したが、10年後の2016年、大統領選挙への投票を呼びかける動画作成に主要キャスト4人が再結集、その反響を受けて翌年からシリーズが再開し、2020年にシーズン11の幕を閉じた。
シットコムではラフトラック(笑い声の音響効果)が入る演出はお約束だったが、2000年代以降は下火になり、効果音なしのスタイルが増えた。架空の製紙会社「ダンダー・ミフリン」の地方支社が舞台の「ザ・オフィス(The Office)」もラフトラックなし、カメラ1台で企業密着取材という設定のモキュメンタリー形式。イギリスで放送されていた同名シリーズのリメイクだ。ペンシルヴェニア州のスクラントンのオフィスで、無神経で不適切なジョークを連発するだけの無能なのに、自分は部下に慕われていると思い込んでいる地域担当マネージャー、マイケルをスティーヴ・カレルが演じ、部下のジムを演じたジョン・クラシンスキーはこのシリーズでブレイクした。
オリジナル版は、ゴールデン・グローブ賞などの毒舌司会で有名なリッキー・ジャーヴェイスが原案・脚本・演出・主演。どぎついユーモアと皮肉でブラックな笑いを誘ったが、アメリカ版はもう少しマイルドだ。といっても、自信過剰で無意識のセクハラ、パワハラをまき散らすマイケルのキャラクターは強烈。しかも、笑わせようとする大げさな芝居ではなく、視聴者が自分の嫌な上司を思い出してしまうようなリアリティを醸し出すカレルの演技が絶妙だ。
昇進を目論んでマイケルに取り入る営業担当のドワイト(レイン・ウィルソン)、ドワイトに小学生みたいないたずらを仕掛けてばかりだが、営業成績は優秀なジム、受付のパム(ジェンナ・フィッシャー)を中心に、自己中な上司=マイケルに振り回されるオフィスの日常が描かれる。
社員にはミンディ・カリング演じるインド系のケリーや、ヒスパニック系、アフリカ系もいる。マイケルは彼らに対して人種をネタにしたジョークを畳みかけ、たまりかねたケリーに平手打ちを食らったりする。そんなマイケルも回を重ねるごとに、少しずつ好感が持てるキャラクターへと変わっていく。ジムとパムの恋愛エピソードも盛り込まれ、様々な角度から共感を得やすい内容だ。
2005年のシーズン1第2話で「多様性」を学ぶ講習会をテーマにするなど、時代を先取りしていたのも注目ポイント。このエピソードの脚本を執筆したのは、派遣社員ライアン役で出演していたB.J.ノヴァク。ミンディ・カリングも24エピソードで脚本を担当している。カレルやクラシンスキーをはじめ、キャストが演出した回、J.J.エイブラムスやジョン・ファヴロー、ジェイソン・ライトマンなど豪華なゲスト監督が手がけたエピソードもある。
エミー賞やゴールデン・グローブ賞などを受賞しているものの、批評家受けの良さに比べると視聴者からの人気は控えめだった本作だが、ニールセン調べによると、アメリカのNetflixで2020年に最も視聴されたのが、この「The Office」だという。時代がようやく追いついた、お宝発見としても楽しめる作品だ。
昨年、ついに完結した「モダン・ファミリー」もラフトラックなしのモキュメンタリー形式で、カリフォルニア州の3つの家族の群像劇だ。15歳の長女を筆頭に3人の子どもがいるクレア(ジュリー・ボーウェン)とフィル(タイ・バーレル)・ダンフィー夫妻、子連れでコロンビア出身のグロリア(ソフィア・ベルガラ)と年の差婚をしたジェイ・プリチェット(エド・オニール)、ベトナムから養子を迎えたばかりのゲイ・カップルのミッチェル(ジェシー・タイラー・ファーガソン)とキャメロン(エリック・ストーンストリート)という三者三様の家族のあり方はまさにタイトルが示す「モダン・ファミリー」そのもの。しかも、この3家族は血縁関係で、気難しい老人ジェイの娘がクレア、その弟がミッチェルという構成だ。
キャラクターたちがカメラ目線インタビューに応える場面を時折はさみながら、近居する3家族の日常を平行して描いていく演出は、1つのテーマをめぐって3つの切り口を常に提示し、多層的で鮮やか。物わかりのいいクールな父親役をやりたがるフィル、家事と子育てに追われて余裕のないクレア、夫にも息子にも惜しみない愛情を降り注ぐグロリア、保守的だが寛容さもあるジェイ、ゲイであることで父と確執があるミッチェルと大らかなパートナーのキャメロン、大人たちの右往左往を見つめながら、自分たちの人生を謳歌する子どもたち。どのキャラクターもリアルだ。家族だからこそ生じてしまう誤解、分かり合えないと決め込んでいた相手からの思いも寄らない共感など、笑わせながら、泣かせる3つの家族の日々はずっと見ていたくなる愛おしさがある。
長寿ドラマは、年月とともにキャラクターが歳を重ねていくのを見るのも楽しみの1つだ。特に子どもたちの成長が印象に残る。15歳の反抗期だったダンフィー家の長女ヘイリー(サラ・ハイランド)、頭脳明晰な次女アレックス(アリエル・ウィンター)、自由な末っ子のルーク(ノーラン・グールド)、グロリアの息子で継父とソリの合わない文化系のマーニー(リコ・ロドリゲス)、そしてミッチェルとキャメロンから愛情たっぷりに育てられたリリー(オーブリー・アンダーソン=エモンズ)。彼らはもちろんフィクションの登場人物だが、演じている俳優たちの歩みもそこに見て取れるので、ドキュメンタリー的な味わいが感慨深い。
Text: Yuki Tominaga
