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“ニューノーマル”の授賞式とは? コロナ禍のエミー賞をD姐が総括。

第72回エミー賞の授賞式が9月20日(現地時間)にヴァーチャル形式で開催された。例年であればドレスアップした人気セレブたちがプレゼンターやゲストとして登場し、受賞者たちが感動的なスピーチで会場を盛り上げるが、今年は違った。コロナ禍ならでは演出やハプニングもあった、米テレビ界の祭典をLA在住のD姐が詳報する。
無観客の会場から、候補者のいる100カ所以上と中継。
Photo: ABC via Getty Images

9月20日(現地時間)に開催された第72回エミー賞。コロナ禍真っ只中の授賞式は、やはり“ニューノーマル”だった。会場はロサンゼルスの中心地ダウンタウン、NBAレイカーズの本拠地でもあるステイプルズ・センターだ。例年エミー賞が開催されるのは、ステイプルズ・センターの通り向かいにあるマイクロソフトシアターというTV中継に最適に設計されたコンサートホールで、ここの最大キャパシティは7100席。だが、今年は観客もノミニー(候補者)の出席もゼロというのに、敢えて会場をキャパ2万席のアリーナスタジアムのステイプルズ・センターに拡大変更した。これはおよそ140名の授賞式中継スタッフのソーシャル・ディスタンスを守るため。

26万人の感染者、6000人を超える死者を出した人口400万人のロサンゼルス(郡)ではコンサートも映画館も営業停止、スポーツも観客なし、レストランの屋内営業は禁止(宅配かピックアップ、屋外のみ営業OK)で、個人宅でも多人数が集まるパーティーは禁止という厳しい状況が続いている。パーティーで大騒ぎしているとその場で電気・水道を止められてしまうという行政措置もあるし、悪質な場合には主催者は訴追され、有罪なら罰金20万円&禁固刑1年で、8月には豪邸で21歳の誕生日パーティーをしていたTikTokセレブが訴追されたばかりだ。当然、エミー賞だって例外ではない。

Photo: Tyler Watt via Getty Images

肝心の授賞式だが、アカデミー賞の司会も務めたジミー・キンメルがステイプルズ・センターにポツンと一人。候補者たちは自宅などからのオンライン中継ということで、その数100カ所以上というから、びっしりと並べられた大量の中継モニターの壁はまさに家電量販店のテレビ売り場のよう。また出演者やスタッフは全員が会場入りの際にCPR検査を受け、このおかげでE!ネットワークでのレッドカーペット中継番組の出演の予定だったヴィヴィカ・A・フォックスと司会者のジウリアナ・ランシックの陽性が判明して、即自宅待機で出演取りやめとなった。

ということで始まったPandEmmy(パンデミック×エミー)だが、一部のセレブがプレゼンターとして実際に会場を訪れて出演した以外に、今回は医療従事者などコロナ禍で活躍した一般人などがビデオ中継出演するシーンも多く取り入れられ、これは何かのデジャブか?と思ったが、そういえばちょうど一カ月前に開催された民主党全国大会にそっくりだった。

とはいえ、生PCR検査をしたSNL出身のジェイソン・サダイキスや、「慌ててメールを読んでアル・パチーノと一緒にプレゼンター、だと思ったら、アルパカだった」と本当に蝶ネクタイ姿のアルパカを連れて登場したランドール・パークはなかなか好評だった。

コロナ禍ならではの演出やハプニング、そしてBLM。
Photo: ABC via Getty Images

最初のプレゼンターは、コメディ部門主演女優賞の発表でジェニファー・アニストン。最近、『初体験/リッジモント・ハイ』(82)のチャリティ・リーディングに出演し、そしてなんとブラッド・ピットと共演! ショーン・ペン(この映画が出世作だった)、ジュリア・ロバーツマシュー・マコノヒーも出演する豪華なオンライン・イベントだったが、ブラピとジェニファーのヴァーチャル2ショットは、かつてのTeam Jenを悶絶させるのには十分で記憶に新しい話題となった。

プライベートでも親しいジミーとともにジェニファーは受賞者の名前が書かれた封筒を念入りに殺菌、最後には煮沸消毒ならぬ炎上消毒させるというネタに付き合う人の良さを見せた。さらに、自宅から再登場した時には今度はコートニー・コックス(モニカ)、リサ・クドロー(フィービー)という「フレンズ」仲間も登場という大サービスにフレンズ・ファンも悶絶。

実は今年の授賞式の進行で一つの地味な(だけどとても重要な)仕様変更があって、これはコメディ、リミテッド・シリーズ、ドラマという部門カテゴリー毎に受賞者を発表していくというもの。この新形式が大失敗だったのは、コメディ部門の主要7つを全て「シッツ・クリーク」が独占するという快挙が起こったため。

ノミネート数では「シッツ・クリーク」と同じコメディ部門で、最多8ノミネートだった「マーベラス・ミセス・メイゼル」でさえ存在感が全く出せず、ZOOM発表→喜ぶシッツ勢(カナダの特設会場で)→ZOOM発表→喜ぶシッツ勢の無限ループに入ってしまったが、なんとか監督・脚本・主演・助演賞のユージーン・レヴィとダン・レヴィ親子の微笑ましさに救われた。やはり発表は部門カテゴリーをバランスよく配置した従来型の方がよかっただろう。

リミテッド・シリーズは何と言っても「ウォッチメン」。今年最多ノミネートの本命らしく、主演女優、助演男優、脚本、作品賞をゲット。最優秀主演女優賞のレジーナ・キングは今回で4度目の受賞となり、アルフレ・ウッダードと並んで黒人俳優で最多のエミー賞受賞のタイ記録になった。またレジーナは、受賞の際に着用していたTシャツにも注目が集まった。

このTシャツには、深夜寝ていたところ間違ったアパートに家宅捜索に入った警官によって射殺されてしまったブリオナ・テイラーさんの顔写真が入り、また「レスト・イン・ピース」(安らかに眠ってください)ならぬ「レスト・イン・パワー」と言って、前々日に死去した女性最高裁判事のルース・ベンダー・ギンズバーグの追悼の意を表した。

製作総指揮・脚本・監督のデーモン・リンドルフもまた、「タルサ21」(「ウォッチメン」のモチーフにもなった1921年のタルサ市で起こった黒人虐殺事件)のTシャツを着て、ファッションでブラック・ライブス・マターをアピールをしていた。

助演男優賞に3人がノミネートされていた「ウォッチメン」だが、局部も堂々と丸見えの惜しみない全裸(注意:原作コミックを忠実に再現したまでです)でDr.マンハッタンを演じたヤーヤ・アブドゥル=マティーン二世が受賞。なんの因果かドラマ部門で助演男優賞を受賞したのは、2009年の映画版でDr.マンハッタンを演じたビリー・クラダップ(「モーニング・ショー」)だった。

リミテッド・シリーズ部門で主演男優賞を受賞したのは、ヒュー・ジャックマンやジェレミー・アイアンズを抑えてマーク・ラファロが受賞。常日頃、政治的・社会的なコメントが多いラファロだが、受賞スピーチでも「愛をもって一緒に戦おう。自分より弱い人、恵まれない人のために。そしてアメリカの素晴らしいところはダイバーシティだ。お互いに尊敬しあおう。そして今、とても大切な時だからこそ投票が必要なんだ」と選挙参加を呼びかけた。

ヴァーチャル授賞式に華を添えたゼンデイヤ。

そしてこの日一番のサプライズ受賞があったのが、ドラマ部門の最優秀主演女優賞をケイト・ブランシェットオリヴィア・コールマンというオスカー女優、ローラ・リニー、ジェニファー・アニストンらを抑えて、ゼンデイヤ(「ユーフォリア」)が最年少の24歳で主演女優賞を受賞! やはりZOOM授賞式では寂しすぎたファッション面での華も、ゼンデイヤが見事にカバー。ステイプルズ・センターの会場、自宅での受賞時(ちなみにステイプルズ・センターからセレブが住むような地域にはコロナで交通量が少ないこともあって40分もあれば到着する)とどちらのファッションも完璧で(特に受賞時が可愛かった!)、翌日のニュースでも受賞とファッション両面でゼンデイヤ一色だった。

注目のドラマ部門作品賞は、超大富豪のメディアモーグル一族のグダグダでエグい後継者争いをブラックユーモアたっぷりに描いた風刺ドラマ「キング・オブ・メディア(原題:Succession)」。3年連続でHBO(前年、前々年は「ゲーム・オブ・スローンズ」)の作品が受賞となった。感激のあまりウルウルしていた主演男優賞受賞のジェレミー・ストロングの初々しさとは対照的だったのが、作品賞受賞でスピーチしたクリエーターのジェシー・アームストロング。

同シリーズはマードック一家、レッドストーン一家やトランプ一家がインスパイアになっていると言われているが、「どうもありがとう。でもこの喜びをキャストやスタッフと一緒に分かち合えなくて悲しい。だから、アン・サンキュー(感謝しない)の言葉を述べたい。コロナよ、アンサンキュー」に続き、トランプ大統領、ボリス・ジョンソン英首相、ナショナリスト、メディアモーグルに対して痛烈に「アンサンキュー」して話題になった。

初のヴァーチャル開催となったエミー賞だが、残念ながら視聴率は過去最低を記録した昨年をさらに下回り過去最低記録を更新してしまった。アカデミー賞がこのような形の開催になるとしたらと思うとゾッとしてしまう(今年のエミー賞はアカデミー賞と同じ米ABC局の中継だったので、似通う可能性は多いにある)。コロナのおかげで撮影が滞って作品が出揃わないのではないかという不安もあるものの、過去には2007年から2008年にかけて全米脚本家協会がストライキを起こして、作品が手薄になったこともあるので、開催自体がノーマルに戻りさえすれば、なんとかなるのかもしれない。

来年に期待と願いを込めたいが、実は作品が出揃っていた今年のエミー賞はまだマシな方で、4月まで延期された来年のアカデミー賞はそもそも本当に対象作品があるのだろうか?…心配になってしまうと同時にやっぱりこんなヴァーチャル授賞式中継には、アンサンキューだ。