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『007』や「ザ・クラウン」に出演! 『ハリー・ポッター』シリーズを支えた名優たちは今。

原作と同様に愛される映画『ハリー・ポッター』シリーズは、ダニエル・ラドクリフエマ・ワトソンといったフレッシュな才能を発掘したが、彼らを脇で支えたのはオスカー受賞者、サーやデイムの称号を持つそうそうたる名優たちだ。そんな英国が世界に誇るスターたちはどんな道を歩んだのか、その足跡を振り返ってみよう。

レイフ・ファインズ(ヴォルデモート卿)

『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2』(2011)より。Photo: Warner Bros/Everett Collection/amanaimages

ハリー・ポッターの両親を殺し、ハリーの命も狙う最大の敵である闇の魔法使い、ヴォルデモート卿は邪悪さと恐ろしい風貌で強烈なインパクトを放つ。演じたレイフ・ファインズアカデミー賞助演賞候補になった『シンドラーのリスト』(1993)などで悪役を演じる一方、やはりオスカー候補になった『イングリッシュ・ペイシェント』(1996)、『ナイロビの蜂』(2005)のようなドラマティックな作品の主演もこなし、ウェス・アンダーソン監督の『グランド・ブダペスト・ホテル』やコーエン兄弟の『ヘイル、シーザー!』(2016)といったコメディでも活躍するオールマイティな名優だ。

そんな彼は、ヴォルデモート卿として初登場する『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』(2005)への出演を当初ためらっていた。理由は、前3作の出来栄えにあまり感心しなかったからだという。気持ちが変わったのは『炎のゴブレット』のマイク・ニューウェル監督からヴォルデモート卿のコンセプトを聞いて、「自分の中の小さな子どもが『やりたい!』と言った。扮装してワルになるのが好きな子どもが」とレイフは語っている。ちなみに『炎のゴブレット』の出演シーンは、わずか2日間で撮り上げたという。

『007/スペクター』(2015)より。Photo: Francois Duhamel/Columbia Pictures/Everett Collection/amanaimages

『キングスマン:ファースト・エージェント』は12月24日より日本公開。

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『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2』(2011)の後、『007/スペクター』(2015)ではジュディ・デンチに代わってMを演じている。さらに12月24日より日本公開する『キングスマン:ファースト・エージェント』では主演を務め、英国を代表する人気シリーズに欠かせない存在と言えそうだ。

映画監督としてもシェイクスピア作品を現代に翻案した『英雄の証明』(2011)、バレエダンサーのルドルフ・ヌレエフの伝記映画『ホワイト・クロウ 伝説のダンサー』(2018)などを手がけている。

ゲイリー・オールドマン(シリウス・ブラック)

『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』(2004)より。Photo: Warner Bros/Everett Collection/amanaimages

無実の罪で魔法界の刑務所アズカバンに収監されていたが、親友の息子であるハリーの危機を知って脱獄するシリウス・ブラックを演じるゲイリー・オールドマンは、現代を代表する名優の一人だ。信じられないような話だが、人が語るところによると、『アズカバンの囚人』の出演オファーを受けた理由は「仕事がほしかったから」だという。実は家族と過ごすことを優先するため、俳優の仕事を1年以上休業していたのだ。

シリウス・ブラックは重要な役だが、登場シーンは少ない。当時まだ幼かった息子たちとの時間を確保しつつ、ギャラも高額で「6週間撮影に参加すれば、たぶん7カ月くらいは家で過ごせる」という好条件はゲイリーにとって申し分ないものだった。『ハリー・ポッター』シリーズ出演で息子たちを喜ばせたいという思いもあった。映画が公開されると、息子たちとその級友たちからヒーロー扱いされたそうだ。

『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』(2007)より。Photo: Warner Bros/Everett Collection/amanaimages

シリウス・ブラックを演じるまでは『ドラキュラ』(1992)や『レオン』(1994)の悪徳刑事などエキセントリックな役柄が多かったが、ほぼ同時期に始まったクリストファー・ノーラン監督による『バットマン』シリーズのゴードン警部補役など、実直なキャラクターも見事に演じきっている。2018年には、『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』でアカデミー賞をはじめとする主要な映画賞で主演男優賞を受賞した。

『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』(2017)より。Photo: Everett Collection/AFLO

ゲイリーは徹底した役作りで知られるが、オスカー受賞後も大作にこだわることなく、ホラーやアクション映画にも出演している。2021年にはデヴィッド・フィンチャー監督の『Mank/マンク』でアカデミー賞主演男優賞候補となり、エイミー・アダムスジュリアン・ムーアと共演した『ウーマン・イン・ウィンドウ』もNetflixで配信された。

私生活では結婚と離婚を繰り返したが、2017年に結婚した5人目の妻でアート・キュレーターのジゼル・シュミットとはプレミアや授賞式のレッドカーペットで仲睦まじい姿を見せている。インスタグラムに夫妻共同のアカウントがあり、穏やかな日常も公開している。

マギー・スミス(マクゴナガル先生)

『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2』(2011)より。Photo: Warner Brothers/Everett Collection/amanaimeges

魔法学校ホグワーツの副校長で、ハリーが暮らすグリフィンドールの寮監のミネルヴァ・マクゴナガル先生を演じたマギー・スミスは、今年12月に87歳の誕生日を迎える。70年近いキャリアの前半でアカデミー賞を2度受賞(1969年に主演女優賞、1978年に助演女優賞)し、デイムの称号を持つ。

10代から地元オックスフォードの舞台で活躍し、22歳で渡米してブロードウェイにも進出、名優ローレンス・オリヴィエに招かれてナショナル・シアター・カンパニーに参加した。大御所だったオリヴィエ相手に一歩も引かない演技でシェイクスピア作品の数々に出演、一座で映画化した『オセロ』(1951)のデズデモーナ役で初のアカデミー賞助演女優賞のノミネートを得て、その後は映画でもキャリアを築いていった。

『ダウントン・アビー』(2019)より。Photo: Collection Christophel/AFLO

『天使にラブ・ソングを…』シリーズや『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』(2011)など、厳格だがウィットに富む愛すべき女性を演じるのが得意。『ハリー・ポッター』シリーズ終了と入れ替わるように始まったドラマシリーズ「ダウントン・アビー」で演じた、主人公のグランサム伯爵家の先代未亡人バイオレット役はその最たるもの。貴族として誇り高く振る舞いながら、年頃の孫娘たちに貴婦人の極意とちょっぴり毒のある本音も教えるバイオレットの金言の数々は「ダウントン・アビー」の見どころの1つだ。マギー本人も率直な性格で、後輩の俳優たちから慕われている。

『ハリー・ポッター』や「ダウントン・アビー」に出演したことを「深く感謝するけれど、満足のいくものとは言えません。演じた気がしないのです」と英紙のインタビューで語ったことがある。自らの原点である舞台への愛が強く、パンデミック前の2019年には11年ぶりに一人芝居で舞台に復帰した。2022年には、待望の映画版『ダウントン・アビー』の続編『Downton Abbey: A New Era(原題)』が公開予定だ。

故アラン・リックマン(スネイプ先生)

『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』(2005)より。Photo: Warner Bros/Everett Collection/amanaimages

ホグワーツの魔法薬の教師、セブルス・スネイプ先生はハリーの両親と同級生で、父のジェームズと不仲だったことからハリーにつらく当たる憎まれ役として登場したが、シリーズの影の主人公とも言われる人気キャラクターだ。

謎の多いミステリアスなスネイプを演じたアラン・リックマンは、イギリスのロイヤル・シェイクスピア・カンパニー出身の名優。長年、舞台を中心に活躍し、初めて映画出演したのは40歳を過ぎてから。映画デビュー作『ダイ・ハード』(1988)で一見紳士的な物腰の冷血なテロリスト役で一躍注目された。

『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』(2007)より。Photo: Warner Bros/Everett Collection/amanaimages

『ハリー・ポッター』シリーズ全8作品に出演した主要キャストの一人だが、2作目の『ハリー・ポッターと秘密の部屋』(2002)を終えた時点で降板を考えていたという。気持ちが変わったのは、原作者のJ・K・ローリングからスネイプにまつわる秘密を教えてもらったから。ハリーに厳しく接するスネイプの真意は、シリーズの最後でようやく明らかになったが、アランだけはスネイプの胸の内を知りつつ演じてきた。

シリーズ出演について「私の人生の区切りになっていた。他の仕事をしていても必ず戻ってくるからです。それに私は物語の中での自分の立場を常に知っていた。周りの人たちはそうではなかったけれど」とのちに振り返っている。

『ハリー・ポッターと謎のプリンス』(2009)より。Photo: Warner Bros/Everett Collection/amanaimages

Photo: Warner Bros/Everett Collection

映画に出演しはじめた頃は『ロビン・フッド』(1991)など敵役が多かったが、抜群の演技力で映像でも役の幅を広げ、アン・リー監督作『いつか晴れた日に』(1995)のブランドン大佐、『ラブ・アクチュアリー』(2003)の誘惑に弱い社長など、ロマンティックコメディでのチャーミングな存在感は印象深い。

俳優業の悲哀を感じさせるSFコメディ『ギャラクシー・クエスト』(1999)から『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』(2007)まで、あらゆる作品で名演を見せてきた。低音で深みのある声の魅力もあって、『銀河ヒッチハイク・ガイド』(2005)、『アリス・イン・ワンダーランド』(2010)など声の出演でも活躍したが、2016年1月、膵臓がんにより69歳で亡くなった。

『ラブ・アクチュアリー』(2003)より。Photo: Album/AFLO

映画監督としても、『いつか晴れた日に』の共演者エマ・トンプソンケイト・ウィンスレットをそれぞれ主演に迎えて、『ウィンター・ゲスト』(1997)、『ヴェルサイユの宮廷庭師』(2014)など、良質な作品を遺している。

イメルダ・スタウントン(ドローレス・アンブリッジ)

『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』(2007)より。Photo: Warner Bros/Everett Collection/amanaimages

全身ピンクで統一した甘めの装いとは裏腹の残忍で卑劣な教師、ドローレス・アンブリッジを演じたのはイメルダ・スタウントンだ。王立演劇学校でアラン・リックマンとともに学び、舞台ではストレートプレイからミュージカルまでこなす実力派で、イギリス最大の演劇賞ローレンス・オリヴィエ賞を何度も受賞している。

映画では脇役を演じることが多かったが、2004年にマイク・リー監督の『ヴェラ・ドレイク』に主演、英国アカデミー賞主演女優賞を受賞し、アカデミー賞やゴールデン・グローブ賞SAGアワード(全米映画俳優組合賞)でも主演賞にノミネートされた。

『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』(2007)より。Photo: Warner Bros/Everett Collection/amanaimages

その後、『不死鳥の騎士団』のオファーが来たとき、「ハリー・ポッター? 面白そう」と思って引き受けたが、原作を読んだところ、ドローレスについて「背が低くて醜くて、ヒキガエルのような女性」と書いてあり、「『あら、どうもありがとう』と思った」そう。目的のためには手段を選ばないドローレスについて「同情の必要は全くなし」と言い切り、「彼女はとんでもないモンスターなのだから、そのように演じるべき」と語る。とはいえ、あまりに邪悪なキャラクターで、演じてから数日間は気分が落ち込んでしまったこともある。「適当にやっているだけと思うかもしれませんが、きちんと芝居をしているんです」。

「ザ・クラウン」シーズン5はNetflixにて2022年配信予定。

「ダウントン・アビー」シリーズで執事のカーソンを演じるジム・カーターが夫で、映画版『ダウントン・アビー』(2019)にはイメルダもグランサム伯爵のいとこで王妃の女官、レディ・モードバグショー役で出演した。Apple TV+で配信中の「Trying〜親になるステップ〜」で養子を迎えようと考えるカップルをサポートする民生委員役を経て、次に控えているのは2022年配信開始予定のNetflixドラマ「ザ・クラウン」のシーズン5。現イギリス女王のエリザベス2世を演じている。

マイケル・ガンボン(アルバス・ダンブルドア校長)

『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』(2005)より。Photo: Warner Bros/Everett Collection/amanaimages

シリーズ途中でホジキンリンパ腫により亡くなったリチャード・ハリスの後を受けて、3作目の『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』(2004)からホグワーツ魔法魔術学校のダンブルドア校長を演じたのはマイケル・ガンボンだ。

シリーズ第1作の企画段階では、ショーン・コネリーの名前も挙がったというダンブルドア役の後継者には『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのクリストファー・リーやイアン・マッケラン、名優ピーター・オトゥールも候補に上がった。だが、ハリスと確執のあったマッケランは拒否、オトゥールは「親友だったハリスの代役は務められない」と断ったそうだ。『アズカバンの囚人』のアルフォンス・キュアロン監督とスタッフたちは数カ月かけて最終的にマイケルを選出し、彼がシリーズ終了までダンブルドアを演じた。

『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』(2007)の撮影セットにて。Photo: Warner Bros/Everett Collection/amanaimages

マギー・スミスも参加したナショナル・シアター・カンパニーからキャリアをスタートさせ、ローレンス・オリヴィエ賞に13度ノミネートされ、3度受賞している名優は、マギーと共演の『オセロ』(1951)が映画デビュー作。重厚な存在感で主人公の脇を固める役を手堅く演じてきた。ティム・バートン監督の『スリーピー・ホロウ』(1999)や、「ダウントン・アビー」の脚本家ジュリアン・バロウズが手がけたロバート・アルトマン監督作『ゴスフォード・パーク』(2001)、ウェス・アンダーソン監督の『ライフ・アクアティック』(2004)にも出演。

『英国王のスピーチ』(2010)より。Photo: The Weinstein Company/Everett Collection/amanaiamges

『英国王のスピーチ』(2010)ではコリン・ファースが演じる主人公ジョージ6世の父、ジョージ5世を演じた。声の出演も多く、『ファンタスティックMr. FOX』(2009)や『パディントン』シリーズではパストゥーゾ叔父さんの声を担当。「DEEP BLUE」など自然ドキュメンタリーのナレーションにも定評があり、1998年にサーの称号を得ている。

近年は記憶力の低下から仕事をセーブしているが、レネー・ゼルウィガージュディ・ガーランドを演じた『ジュデイ 虹の彼方に』(2019)にもロンドン公演の興行主役で出演している。

Text: Yuki Tominaga