特定のテーマに沿ってドレスを着こなすのは簡単なことではない。それがファッション界のアカデミー賞と呼ばれるメットガラであれば尚更だ。だが、このモードの祭典でもっとも創意工夫に溢れる装いを披露してきたセレブを選ぶならば、それは間違いなくサラ・ジェシカ・パーカーだろう。
故アレキサンダー・マックイーンにエスコートされて登場した2006年は、「Tradition and Transgression in British Fashion(英国ファッションにおける伝統と逸脱)」のテーマに申し分なくマッチする、ワンショルダーのタータンドレスを着用。2014年には、オスカー・デ・ラ・レンタ(OSCAR DE LA RENTA)のツートーンのサテンドレスで現れ、鮮烈な印象を残した。また中国をテーマにした2015年も、炎をイメージしたインパクトのあるヘッドピースで、私たちを驚かせた。
最もリアルクローズと言えるのは2016年のスタイル。モンス(MONSE)のフェルナンド・ガルシアとローラ・キムのデザインによるふくらはぎ丈のパンツとミリタリー風のコートに身を包み、青いサテンのヒールで、SATCのキャリー・ブラッドショーのような着こなしを見せた。当時オスカー・デ・ラ・レンタ(OSCAR DE LA RENTA)のクリエイティブ・ディレクターに任命されたばかりだったガルシアとキムは、彼女のおかげでファッション業界での地位を確立させたといっても過言ではない。
どのようにしてサラ・ジェシカ・パーカーは、モードの祭典の常連ベストドレッサーになっていったのか? メットガラの歴史を彩る、彼女のドレスアップの進化を振り返ろう。
2006年 「Tradition and Transgression in British Fashion(英国ファッションの伝統と逸脱)」
当時新進気鋭だったアレキサンダー・マックイーンにエスコートされ、ワンショルダーのタータンチェックとチュールのドレスで登場した。
2010年 「American Woman: Fashioning a National Identity(アメリカの女性:国民性を作り上げるもの)」
ホルストン(HALSTON)のシャンパンカラーのドレスと同系色のアクセサリーで、1970年代ファッションの眩いきらめきを放った。気分はエレガントなディスコクイーン!
2011年 「Alexander McQueen: Savage Beauty(アレキサンダー・マックイーン:野生の美)」
アレキサンダー・マックイーン(ALEXANDER McQUEEN)の2005年秋冬コレクションからのアーカイブルックに身を包んで。
2012年 「Schiaparelli and Prada: Impossible Conversations(スキャパレリとプラダ:不可能な会話)」
この年、サラにしては珍しくテーマから逸れたファッションで登場。フェミニンなフラワープリントドレスとシューズは、スキャパレリ(SCHIAPARELLI)でも、プラダ(PRADA)でもなく、ヴァレンティノ(VALENTINO)のものだった。
2013年 「Punk: Chaos to Couture(パンク:カオスからクチュールまで)」
ジャイルズ(GILES)のドレスにフィリップ・トレイシー(PHILIP TREACY)のヘッドピースをコーディネート。モホーク族をイメージしたヘッドアクセサリーがあまりに巨大だったため、会場へと向かう車内ではシートではなくフロアに座らなければならなかったという逸話も。
2014年 「Charles James: Beyond Fashion(チャールズ・ジェームズ:ファッションを超えて)」
オスカー・デ・ラ・レンタ(OSCAR DE LA RENTA)によるドレスの長いトレーン部分には、サラの希望でデザイナーの名前が赤の筆記体で刺繍されている。
2015年 「China: Through the Looking Glass(鏡越しに見る中国)」
H&Mのアンサンブルドレスに合わせたのは、フィリップ・トレイシー(PHILIP TREACY)の炎をイメージしたヘッドピース。センシュアルなブーツは、サラ自身が手がけるSJPコレクションのものだ。
2016年 「Manus x Machina: Fashion in an Age of Technology(手仕事×機械:テクノロジー時代のファッション)」
ブロードウェイミュージカル「ハミルトン」にインスピレーションを得たルックを作り上げたのは、モンス(MONSE)のフェルナンド・ガルシアとローラ・キム。シューズに飾ったブローチは、いずれもサラの私物だそう。
2018年 「Heavenly Bodies: Fashion & The Catholic Imagination(天国のボディ:ファッションとカトリックのイマジネーション)」
ファッションとカトリック教の関係性について掘り下げた2018年、神々しいドレスとヘッドピースをドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)が手がけた。
2022年 「Glided Glamour(金色に飾られた魅力)」
クリストファー・ジョン・ロジャーズ(CHRISTOPHER JOHN ROGERS)に依頼し、19世紀後半に活躍した黒人デザイナーのエリザベス・ホブス・ケックリーをインスピレーション源とするドレスで登場した。
Text: Maria Ward