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ネタバレ注意! 『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』がシリーズ最高傑作と評される理由。

日本でもついに公開され、全世界で記録的な大ヒットを続けている『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』。トム・ホランド主演のシリーズ第3弾は、マルチバースの扉が開いたことによって、思いがけないキャラクターが次々と登場する。そんな壮大なスケールで観客を興奮と感動の渦に巻き込み、シリーズ最高傑作と評される最新作の驚きに満ちた舞台裏エピソードを紹介する。

トム・ホランドとゼンデイヤ、ジェイコブ・バタロンのケミストリー。

『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』のLAプレミアにて。トム・ホランド(右)、ジェイコブ・バタロン(左)、ゼンデイヤ(中央)がそれぞれピーター・パーカー、ネッド、そしてMJを演じる。Photo: Amy Sussman/Getty Images

トム・ホランド主演の『スパイダーマン』シリーズの大きな魅力は、ミッドタウン高校のクラスメイトであるピーター・パーカーとMJ、ネッドの友情だろう。3人の格別のケミストリーは物語の上でも、演じる俳優3人のオフスクリーンでの仲の良さからも一目瞭然だ。子役からキャリアを築いたトムとゼンデイヤとは対照的に、シリーズ1作目『スパイダーマン:ホーム・カミング』(2017)以前の出演作は1本だけだったジェイコブ・バタロン。シリーズを通して共に成長した3人には、特別な絆が生まれた。

ゼンデイヤは「私たちは現実でも一緒に成長したし、演じた役たちも一緒に成長していった。そういう時間を共有できたのは本当に特別なこと」と語る。ジェイコブは「1作目のときには、僕は演劇学校に入ったばかりで、何もやったことがなかったけれど、すでにトムとゼンデイヤはこの業界の人だった。同年代で自分よりはるかに成功していた彼らがサポートしてくれたからこそ、僕は今こうしてここにいられる」と言い、こう続ける。

「でももっと重要なのは、当時は、僕たちが人間として成長している時期、現状の自分を超える存在になることを学んでいる時期だったこと。2人が、今の彼らに成長していく姿を見て、ものすごくインスパイアされた」

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©Sony Pictures/Everett Collection/amanaimages

ピーターとMJの関係が恋愛に発展しても、ピーターの正体が明らかになっても、ネッドを含めた3人の友情は変わらなかったように、キャスト3人にとっても気心の知れた安心感が消えることはないようだ。トムは、「(撮影のために)再会するたびに、以前と同じ状態になる」と言う。「現場でめちゃくちゃ楽しんでいる僕らをなかなか制御できないことが、ジョン・ワッツ(監督)にとっての悪夢かもしれない。でもその楽しさがスクリーン越しに伝わるから、ただ演じているだけでは生まれないケミストリーが作品に加わり、僕らがお互いを本当に大好きだということが伝わる。だからこそ、僕らの関係にみんなすごく共感してくれるんだ」

ゼンデイヤによれば、3人の絆の核にあるのは、全員の楽観主義と感謝の姿勢だという。

「私は、自分が大切に思える人たちとともにこの作品に出演できたことに、心から感謝しています」

撮影がとてもハードなときや、スタントに挑戦しなければならないとき、3人は常にこう言い合っていたそうだ。「3人で一緒にできること、この経験をお互いと分かち合えることに感謝したい。だって私たちは、世界一クールな仕事をしているのだから」

先輩スパイダーマン2人の貢献とブラザーフッド。

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最新作『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』で観客を驚かせ、歓喜させたのは、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)以前にピーター・パーカー/スパイダーマンを演じてきたトビー・マグワイアアンドリュー・ガーフィールドが、それぞれのユニバースのピーター・パーカー/スパイダーマンとして登場したことだ。

製作時から出演の噂はあったものの、否定情報も流れて、真偽は映画公開まで謎のままだったが、先輩スパイディたちは2020年に出演を快諾し、撮影に臨んでいた。脚本家2人によると、トビーとアンドリューはそれぞれのキャラクターについて的確なアイデアを出して貢献したという。「彼らほどキャラクターを理解し、考察できる人は他にいない」とエリック・ソマーズは『ハリウッド・レポーター』に語っている。

『スパイダーマン2』(2004)より。

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クリス・マッケナは、2人の先輩ピーターが「トムの演じるピーターを助けて、彼が最終的にどうなるかを描くというアイデアを練っていった。その多くが、トビーとアンドリューによってもたらされたものだった」と振り返っている。3人のピーター・パーカーを兄弟と考え、自分は次男という位置づけを提案したのはアンドリューだ。彼は、3作目が製作されなかった自身のシリーズで宙づり状態だったものに決着がつけられたことを「本当に、本当に感謝している」と『ヴァラエティ』で語った。一方、トビーは自分が演じたピーターについての情報を最小限にすることを望んだ。

トムは、先輩2人との共演に緊張を隠せない様子だったという。ゼンデイヤによれば、トムがトビーやアンドリューとのシーン撮影の初日に臨むとき、彼女とジェイコブは、我が子を幼稚園の初日に送り出す両親のような気分だったそう。「うちの子がみんなに好かれますように。泣いて帰ってきませんように」と思いながら、現場に付き添った。トムは持ち前の愛されキャラで、トビーとアンドリューともすぐに打ち解け、スパイダーマン3人によるグループチャットを作ったが、「話しかけたのは僕だけだったと思う。『他のスパイダーマンたち、どうしてる? ベイビー・スパイダーマンです!って」とテキストを送ったことを「BBCラジオ1」のインタビューで明かしている。

『アメイジング・スパイダーマン』(2012)より。

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ちなみにトビーとアンドリューはネタバレ回避のため、本作のワールド・プレミアへの参加が叶わず、公開初日に劇場で一般客に混じって一緒に上映を見た。「野球帽とマスク着用で、初日の夜に劇場で見た。実はトビーと一緒だった。誰にも気づかれなかった」と明かしたアンドリューは、その経験を「共有できたのは本当に素晴らしかった。トビーやトムとのブラザーフッドを得たこと、とてもユニークな経験を共有したという事実も」と語った。

出演を快諾した過去作のキャストたち。

ノーマン・オズボーン/グリーン・ゴブリン役のウィレム・デフォー。Photo: Matt Winkelmeyer/WireImage

『ノー・ウェイ・ホーム』には、トビーとアンドリューが演じるピーター・パーカー/スパイダーマンをはじめ、マルチバースからの登場人物として過去作のヴィランを演じた俳優も多数出演している。ノーマン・オズボーン/グリーン・ゴブリンを演じたウィレム・デフォーは、お飾り程度のカメオ出演ならば引き受けなかったと言う。さらに現在66歳のウィレムは、アクション・シーンを自分で演じることを出演条件にした。アクションを自らやりたいのは「楽しいから」であると同時に、「キャラクター同士の関係やストーリーの情報を伝えるものだから」とキャラクターに真実味を与えるのに欠かせないからだと語る。

スタント・コーディネーターのジョージ・コットルはクランクイン前にウィレムから電話をもらい、「自分にできることはなんでもやりたいと思っているんだ。仲間外れにしないでほしい」と言われたという。トムは「ウィレムと初めて会ったのは、スタントリハーサルの直前だった。ゴブリンになったときの彼があまりに怖くて、今までで一番と言っていいほど非現実的な感じだった」と振り返る。「リハーサルでは、あの笑いから始まって、どれほどピーター・パーカーを憎んでいるか言い始める。映画館で彼を見ていた5歳の頃に戻った気分だった」

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ピーターとゴブリンとのファイト・シーンの撮影では、トムの拳が血だらけになるほどだった。レッドブルを一気飲みしながらエネルギーを維持して、「撮影の最終日にジョンが『カット』と言ったとき、ウィレムと僕は2人して床に倒れ込んでしまったのを覚えている」と語っている。ウィレムが監督とプロデューサーのエイミー・パスカルから最初にオファーを受けた時点で脚本はまだ存在していなかったが、再登場の俳優は皆、構想を聞いただけで出演を決めた。トビーとアンドリューでさえ、脚本を受け取ったのは撮影直前の2020年クリスマス頃だったという。

アルフレッド・モリーナ演じるドクター・オットー・オクタビアス/ドック・オク。

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ドクター・オットー・オクタビアス/ドック・オクを演じたアルフレッド・モリーナは、『スパイダーマン2』(2004)を観直して心の準備をした。17年ぶりにドック・オックを演じるにあたって驚いたのは、テクノロジーの進化だという。

「アルフレッドが、テクノロジーの進歩や、この類の映画の変わりようにびっくりしている様子を見るのも楽しかった。『スパイダーマン2』のときには、彼のアームは4、5人のスタッフが動かしていたパペットだった。でも今回は、ポールの片側にプラットフォーム、もう片側に重りがついたトゥースピック・リグ。プラットフォームに立った彼をスタッフが動かせるようになっていた」 とトムは語る。ドック・オックはアームで移動する設定のため、撮影中の90%の時間はハーネスを装着していたそうだ。「決して付け心地の良いものではないけれど、彼はすごかった」とコットルはアルフレッドのプロ意識を称えている。

一方、『アメイジング・スパイダーマン2』(2014)でエレクトロを演じたジェイミー・フォックスは、エイミー・パスカルから、キャラクターについて「もっとホットになるし、青くする必要もない」と過去の出演時のような全身真っ青の外見にしないと聞かされて、出演を決めたという。

撮影現場のムードメイカー、ジェイミー・フォックス。

エレクトロ役のジェイミー・フォックス。Photo: Emma McIntyre/Getty Images

アクションも、キャラクターたちが織りなすドラマも劇的なスケールの撮影現場には緊張感はつきものだが、息抜きも必要だ。張りつめた空気を和ませる雰囲気作りに一役買ったのは、ジェイミー・フォックスだったという。「彼が音楽を用意して、照明チームがライトを担当して」とゼンデイヤは、ジェイミーが撮影現場で即興のダンスパーティを開いていた様子を語る。

ジェイミーは「いつも持ち歩いているWizpakにいろいろな曲が入っているから、あとはその場の空気を読むんだ」と言う。「カメラマンたちがいると、『ここはテッド・ニュージェントが必要かもしれないな。今はカーディ・Bじゃないな』って。キッスやラッシュを流したりもする。監督の邪魔にならないように気をつけるけれど、撮影は長時間に及ぶし、パンデミックのせいでみんな出かけられなかったから、踊るのにいいチャンスだった。15分か20分程度の時間があると、ビヨンセをかける。そうすると、エイミー・パスカルは(フロアに付きそうなくらい腰を低くして)ノリノリで踊り出すんだ」

ところが、トムもゼンデイヤもそうしたダンスパーティに参加する機会がなかった。フランスのエンタメサイト「Seriously」のインタビューで、ゼンデイヤが「プロデューサーから『撮影がちょっと遅れているので、数日間現場に来なくてもいい。ジョンの邪魔をしないために』と言われた。ただ、どんな状況なのか気になって様子を見に行ったら……プロデューサーも出演者もいて。みんなリアーナの曲で踊ってた。私は『邪魔しちゃいけない』と言われたのに! 招待もされなかった」とジョークで怒りを表明すると、横でトムも「僕も招かれなかった。『スパイダーマン』の映画でスパイダーマンを演じてるのに……」とぼやいていた。

秘密保持のためにキャストたちは大苦労。

Photo: Bruce Glikas/Getty Images

撮影期間中、とにかく大変だったのは極秘キャスト情報が外部に漏れないようにすることだった。ヴィラン役の俳優たちは、撮影現場で移動の際はマントで衣装を隠して歩くなど細心の注意を払ったが、それでもアンドリューが、スパイダーマンのスーツ姿の画像がリークされてしまった。彼は昨年の秋以降、Netflixの主演作『チック、チック、ブーン!』の配信開始や映画『タミー・フェイの瞳』の公開が重なり、プロモーション取材で『ノー・ウェイ・ホーム』について質問され続けて、最終的には「出演していない」と嘘までつく羽目になった。

この経験についてアンドリューは「ストレスは溜まるけど、妙に楽しくもあった」と言う。嘘は嫌いで、苦手な彼は秘密を守り通すことをゲームとして考えた。自分がキャラクターのファンだと純粋に想定しながら、「だったら何を知りたい? 弄ばれたい? 嘘をつかれたいか? 推理を続けさせられたい? 劇場に行ったときに知りたい?」と考え続けた結果、「その俳優に望むのは、彼は出演していないんだと信じさせるように、とてつもなくいい仕事をしてもらいたい。そして、自分の直感が正しかったと証明されて、劇場で狂喜したい。それを望むだろう」という結論に達した。MJ役を演じたエマ・ストーンからも、しつこくメールで出演しているのか確認されたが、嘘をつき通したとポッドキャスト『Happy Sad Confused(原題)』で明かしている。

それでも写真のリークが発覚した際は、せっかくのサプライズが台無しになるのではと動揺したそうだ。

「アトランタで撮影していることを隠すのに必死だった。秘密にしようと苦労してるのに、僕とトビー(が撮影地のアトランタ滞在中に撮られた)の画像が流出しちゃって! それでも、とにかく否定し続けた」

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しかし、秘密は知ってしまうと、どうしても言いたくなってしまうのが人間の性だ。メイおばさん役のマリサ・トメイは、自分のかかっていたセラピストに結末を話してしまった。だが、医師の守秘義務のおかげで秘密漏洩は免れてことなきを得た。最初から知ろうとしなければ面倒もなし、とばかりに敢えて脚本全体を読まずに撮影に臨んだのは、ドクター・ストレンジを演じたベネディクト・カンバーバッチだ。もっとも彼の場合は秘密保持の目的というよりも、全てを知らないままに演じたかったからだった。

Text: Yuki Tominaga