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愛と“中年の危機”がテーマ!? 『ソー:ラブ&サンダー』は痛快バトルアクション映画の真骨頂。

マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)のヒーローの1人、雷神ソーを主人公にしたシリーズ最新作『ソー:ラブ&サンダー』。ハリウッドの第一線を走るキャストや監督が作り上げた、痛快バトルアクション映画の見どころをまとめた。
クリス・ヘムズワース『ソー:ラブ&サンダー』THOR LOVE AND THUNDER  Chris Hemsworth as Thor 2022.
© Walt Disney Studios Motion Pictures/©Marvel Studios/Everett Collection

『ジョジョ・ラビット』(2019)でアカデミー賞脚色賞を受賞したタイカ・ワイティティ監督がメガホンを握り、主演のクリス・ヘムズワース、9年ぶりにMCUに復帰するナタリー・ポートマンクリスチャン・ベールラッセル・クロウといった名優が集結した、マーベル・スタジオの最新作『ソー:ラブ&サンダー』。『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)で多くの仲間を失い、迷える存在となった雷神ソーは最大の敵と直面し、さらに新生マイティ・ソーとして活躍する元恋人ジェーン・フォスターと再会する。ド派手なアクションにコメディ要素、そしてロマンスを織り交ぜたストーリーは、どのように完成したのだろうか。

タイカ・ワイティティ監督が本作に込めた思い。

©Walt Disney Studios Motion Pictures/©Marvel Studios/Everett Collection/amanaimages

『マイティ・ソー:バトルロイヤル』(2017)に続いて監督を務めたタイカ・ワイティティが、最新作『ソー:ラブ&サンダー』でテーマとしたのは愛。そしてクリス・ヘムズワース演じるソーにとっての“中年の危機”だ。

「このシリーズで、最も予想外のことは何かと考えた」というワイティティは、ナタリー・ポートマンが演じるジェーン・フォスター博士を9年ぶりにMCUに再登場させた。一度破局したソーとジェーンが再会するロマンティック・コメディ的な展開ではあるが、ジェーンは“ミジョルニア”を手にマイティ・ソーとして大活躍するスーパーヒーローとなった。これは「ナタリーが戻ってくるのに、前と同じキャラクターではつまらない」という発想によるもので、ユーモアのセンスが抜群というナタリーの一面を大いに活かしている。

オフビートなユーモアと大迫力のバトル満載のエンタメ作品だが、愛と喪失、この世界での自分の居場所といった、幅広い層に訴えかける普遍的なテーマを扱っている。自分の生き方を見つめ直す「中年の危機についての映画でもある」と話すワイティティは、「世界はまだパンデミックからの回復途上であり、こうした問いかけはいいことだと思う。私たちは互いに助け合ったり、自分自身を守るために十分なことをしているだろうか?」と語る。

新生マイティ・ソー、ナタリー・ポートマンの体づくり。

©Walt Disney Studios Motion Pictures/©Marvel Studios/Everett Collection/amanaimages

幼なじみでもあるトレーナー、ルーク・ゾッキとフィットネス・アプリをローンチするほど、ワークアウトに精通しているクリス・ヘムズワースは8度目となるソー役に備え、ハードなトレーニングを重ねて体重を213ポンド(約97キロ)まで増やした。史上最強を目指し、ワークアウトはもちろん、筋肉量を維持するために2時間置きに食事をして1日4000キロカロリーを摂取していたという。

しかし、何と言っても驚かされたのはナタリー・ポートマンの肉体改造だ。彼女が“ミジョルニア”を振り回す二の腕のたくましさこそ、絶賛に値するレベル。子役時代から30年の長いキャリアを誇るが、「体を大きくして」とリクエストされたのはこれが初めてだそう。小柄で華奢な体型の彼女は2020年秋からトレーナーの指導のもと、トレーニングを開始。撮影前に5カ月間、撮影が始まってからも合わせると10カ月以上もの間、ウエイトトレーニングを中心に腕と腹筋を鍛えたという。初心者なので、ピラティスなどケガの予防対策やボクシングなども取り入れた多彩なメニューを毎日2時間程度こなした。クランクイン後は、その日の撮影を始める前の早朝4時半頃からジムで鍛えることもあった。

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数年前にはMCUについて「もうやりきった」と発言していた彼女が再出演を決意したのは、本作で描かれるジェーンが魅力的だったから。「ジェーンがマイティ・ソーになったので、新しいスーパーヒーローとしての彼女を見ることができる。私が気に入ったのは、彼女がタフでバッドアスなだけじゃなく、脆さやおかしなところやアマチュアっぽさもあるところ。その全てを演じられるのは楽しかった」と語る。「フェミニストのキャラクターは常に強くなければならないと思われがちだけど、それでは共感しづらいと私は思う。いろいろな面を持つキャラクターを演じることができて、本当によかった」

ヴィランを演じたクリスチャン・ベールの着想源。

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本作でソーたちの最大の脅威として立ちはだかるのは、“神殺し”の異名を持つゴア。数々の悲劇や苦難に見舞われたことから神を呪い、全宇宙の神々を倒していく最強のヴィランをクリスチャン・ベールが演じる。オスカー俳優で、クリストファー・ノーラン監督のもとではバットマンを演じた彼が、敵役としてヒーロー映画への出演を決めたのは、17歳の娘と7歳の息子に強く説得されたから。通常は仕事を一つ終えると、次作までは長期間空けるのが常だが、今回は前の作品の撮影を終えた3日後には、オーストラリアでの撮影に備えて新型コロナウイルス感染予防の自主隔離を始めた。

クリスチャン・ベールは入念な役づくりをすることで有名だが、ゴアのスキンヘッドで真っ白な顔というルックのインスピレーションは、サイレント映画の名作『吸血鬼ノスフェラトゥ』(1922)の主人公だという。そして、もう1つはエイフェックス・ツインの「Come To Daddy」のミュージックビデオだそうだ。クリスチャンは「タイカと私が面白いと思ったキャラクターがいて、それを参考にした。そっくりそのまま再現したら、子どもたちは悲鳴を上げて出口に走っていったかもしれないけど」と語っている。

ラッセル・クロウがギリシャ神話の全能の神、ゼウスを快演。

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ゼウスを演じたのは、こちらもオスカー俳優のラッセル・クロウ。ワイティティは「これまで見たことなかったような演技をしている」と絶賛するが、その言葉に偽りなしの名演だ。実は、ラッセルやクリスチャンもシリアスな役を得意とし、気難しいという噂もあったが、実際は2人とも協力的で、エゴを見せることはなかったという。特にラッセルとはともにニュージーランド出身ということもあって息が合い、彼は撮影現場で監督のリクエストに嬉々として応えていたそうだ。

©Walt Disney Studios Motion Pictures/©Marvel Studios/Everett Collection

またクリスは、駆け出しの頃から憧れていたというラッセルが、代表作『グラディエーター』のイメージに自虐的なひねりを効かせてゼウス役を演じるユーモアのセンスに感嘆したという。ナタリーも「強くてヒロイックな役のイメージが強かったから、自由奔放になっているのを見るのはとても楽しかった」と語っている。

監督やキャストの子どもたちがカメオ出演。

シドニーで開催されたプレミアに息子サシャとともに来場したクリス・ヘムズワース、タイカ・ワイティティ監督。Photo: Lisa Maree Williams/Getty Images

クリスチャン・ベールは我が子に後押しされて出演を決めたが、本作には監督や主要キャストたちの子どもたちが深く関わっている。クリス・ヘムズワースの8歳になる息子トリスタンがソーの少年時代を演じたほか、10歳の娘インディア・ローズも、ある役で出演しているのだ。クリスによると、子どもたちが自分から出たがったそうで、「タイカの子どもたちも、クリスチャンやナタリーの子どもたちも出演している。1度限りの楽しい家族イベントのような感じだった」そう。

トリスタンの双子の兄弟サシャ、ナタリーの11歳の息子アレフ、5歳の娘アマラとベールの息子ジョセフはアスガルドの子どもたちを演じ、クリスチャンの娘エメライン・ルカもカメオ出演している。クリスは「僕たち全員にとって特別な体験となり、子どもたちも楽しんでとても素晴らしい時間を過ごした」と撮影を振り返った。

80年代ハードロックやヘヴィメタルの名曲を使った理由。

作品に1980年代のアドベンチャー大作の雰囲気を持たせたかったというワイティティの狙いをアシストするのは、サウンドトラックだ。『マイティ・ソー:バトルロイヤル』ではレッドツェッペリンの「Immigrant Song)(移民の歌)」が印象的に使われたが、今回は予告編でも流れるガンズ・アンド・ローゼズの「Sweet Child O’ Mine」をはじめ、本作は1975年生まれの監督が聴きながら成長した80年代ハードロック、ヘヴィメタルの名曲で彩られる。

ガンズ・アンド・ローゼズは昔から大好きなバンドだというワイティティは、「(彼らの)曲を、我々が映像で見せるクレイジーな冒険に反映させることができて、私の夢がひとつ叶った」と語っている。

Text: Yuki Tominaga