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トム・クルーズが36年ぶりに帰還! 『トップガン マーヴェリック』が圧倒的な迫力を誇る理由

スカイアクション映画の金字塔『トップガン』(1986)から36年の時を経て、ついに公開される『トップガン マーヴェリック』。主演のトム・クルーズにとって、前作は準備段階から深くコミットして最高を目指すというワークスタイルの原点でもある。そんな思い入れの強い作品の続編が世に放たれるまで、キャストやスタッフたちは桁外れの挑戦を続けてきた。撮影秘話とともに、前作を上回るスペクタクルが実現した理由に迫る。

トム・クルーズが続編に提示した2つの条件

『トップガン』(1986)より。

Photo: Paramount Pictures/Archive Photos/Getty Images

トニー・スコット監督の『トップガン』(1986)が全世界で大ヒットして以来、続編を望む声が30年以上絶えなかったが、トム・クルーズは当初からスタジオに「もし僕がこの映画で人々を楽しませるなら、すべてを実際に撮影する」と宣言していた。CGに頼る映像にしてしまうと、「それは『体験』じゃない」という自論で、前作を上回るスペクタクルを実現する撮影技術の発展など、機が熟すの待った。

一時は『トップガン』について、1作でやり切ったと感じていたトムだが、『ミッション:インポッシブル』でシリーズ作品の製作を経験したことで続編のアプローチの仕方も見えてきたという。そこで求めたのは、ストーリーがエモーショナルであること。ウィングマン(僚機)を決して見捨てないという信念のもと、ブラザーフッドや友情、忠誠心を核にしたマーヴェリックと若きトップガンたちの物語が作られた。

『トップガン マーヴェリック』より。

© 2022 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.

『トップガン マーヴェリック』の製作と共同脚本も手がけたクリストファー・マッカリーは、『ミッション:インポッシブル』シリーズなど近年のトム作品の多くに関わった経験から、1作目を観ていなくても楽しめることをポイントに、前作を懐かしむ要素を入れつつもストーリーは独自のものとなっている。

こだわり抜かれた飛行シーンと過酷なフライトスクール

『トップガン マーヴェリック』より。

© 2022 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.

アメリカ海軍は1作目を“史上最高のリクルートツール”と評価していて、続編の撮影にも全面的にバックアップした。海軍の全面協力を得られたとはいえ、俳優が戦闘機を操縦するのはNG。それでも可能な限りのリアリズムを追求し、キャストたちは実際に飛行中のF/A-18のコックピットで演技をし、セリフを話しているのが前作との大きな違いだ。

1作目もF-14のコックピットで撮影したものの、トム以外は訓練の経験が浅かったために空撮時の映像を使うことができなかった。その失敗を踏まえて、今回キャストは全員3カ月に及ぶ飛行訓練を受け、飛行や重力の基本やメカニズムを学んだ。トムが毎日それぞれに合ったトレーニングプログラムを微調整し、ゼロからF/A-18に搭乗できるまで段階を踏んで育成した。

通常よりも重い7~8Gへの耐性をつける訓練は身体的にかなり過酷だが、本作のコックピット・シーンは俳優たち本人が演じ、ドッグファイトの際の動きや目線など、細部まで完ぺきにパイロットの行動を再現している。コックピット内に本作のために開発したソニーの日本製カメラ6カメラを搭載し、1日に4~6回のフライトを地上ユニットと空中ユニットが同時に撮影したり、27台ものカメラを同時に作動させたこともあった。

『トップガン マーヴェリック』より。

© 2022 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.

トムは、キャストたちに「仕切るのは君だ。君のフライトで、君が自分のパイロットと一緒に実行しなければならない」と責任感を持たせた。それは俳優としての成長にもつながることを望んでのこと。「彼らが得たものは、自分の人生と自分のキャリアをしっかりと手にするためのものであったと望んでいる。決して自分の誠実さを妥協しないために。アーティストが最も輝くのは、ロボットになったり、誰かが指示したことを実行したりすることではなく、自分自身として行動することだ」

そう語るトムは、空母USSセオドア・ルーズベルトのデッキからの離陸シーンを実演している。4~5回離陸したが、これは映画界において前人未到の快挙だ。

いま明かされる、『トップガン』の撮影秘話

『トップガン』(1986)より。

Photo: Paramount Pictures/Sunset Boulevard/Corbis via Getty Images

前作ではマーヴェリックのライバル、今作では盟友として登場する“アイスマン”。ヴァル・キルマーの再演は胸熱な瞬間だが、実はヴァルは1作目への出演に乗り気ではなかった。トムによれば、すでに映画の主演俳優になっていたヴァルは、主人公の好敵手という役をやりたがらなかったそう。だが、トムもトニー・スコット監督もヴァルの出演を熱望し、トムは自分のエージェントがヴァルも担当していたので、電話でヴァルの攻略法を相談したこともあるという。

監督の熱心なアプローチにヴァルは出演を決意、トムは「ヴァルがついに承諾してくれたとき、僕と、ジェリー(・ブラッカイマー)、ドン(・シンプソン)、トニーの4人がオフィスにいて、全員でハイタッチしたのを覚えているよ!」と監督やプロデューサーと喜び合ったことを振り返る。

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続編については、トムはもちろんヴァル自身も意欲的で、インスタグラムで「準備はできている、トム」と宣言していた。トムは再共演について「もう一度彼と仕事をすることは、とても特別だった。彼と一緒に座っているだけで、胸がいっぱいだった」と語る。何年も顔を合わせていなかったにもかかわらず、あっという間に時間を取り戻せた。「おそらく僕らのキャラクターが友人同士になれたという幸福感もあってか、僕らはとにかく活気に満ちていた。トムは人のそういう気持ちを引き出してくれるんだ」とヴァルは撮影について語った。

『トップガン』(1986)より。

Photo: CBS via Getty Images

マーヴェリックは長い年月を経ても、親友グースのことを片時も忘れずにいる。1作目は2人の友情とあまりにもつらい別れの物語でもあった。グースを演じたアンソニー・エドワーズは、後にドラマ「ER」のグリーン先生役で人気を博したが、トムとは1984年、当時ロサンゼルスの若手俳優たちが興じていたペイントボールを通じて知り合った。親しみやすく魅力的なアンソニーが適役だと直感したトムは、その夜にジェリー・ブラッカイマーに電話して「彼を起用すべきだ」と強く推薦した。互いを認めて高め合ったマーヴェリックとグースの友情は、そのままトムとアンソニーという2人の俳優の関係にも当てはまる。

2人の名セリフ「I feel the need(やろうぜ)」「The need for speed(勝負はこれからだ)」は、脚本上ではマーヴェリックのセリフだった。だが、アンソニーの素晴らしさを認めたトムは、セリフの前半をアンソニーに譲ることを提案し、あの名場面が誕生した。素晴らしいセリフを独り占めせず、共有するなど滅多に起きることではないが、トムは「それは映画のため」と、作品をより良い形にすることを選んだ。

グースの息子、ルースターとの師弟関係。

マイルズ・テラー扮する“ルースター”。

© 2022 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.

昇進に背を向けて現場に留まり続け、教官として「トップガン」に戻ったマーヴェリックの前に訓練生として現れるのが、グースの息子であるルースターことブラッドリー・ブラッドショウだ。ルースターとの関係性は、一見変わらずに生きてきたマーヴェリックの内面の変遷を表すものになっている。トレーニング中の事故で親友を亡くした悲しみと、それに対する責任感を背負うマーヴェリックは、父の死がルースターの人生を大きく変えたと痛感したからこそ、父の足跡を追うルースターを息子のように愛している。だが、マーヴェリックに対するルースターの感情は複雑で、反発もある。

パイロットとしての成長を通して自分を発見していくルースターを演じたマイルズ・テラーは、口ひげにアロハシャツ姿というグースの面影をまとった姿も見せる。トムは、マイルズに「君はグースの息子だ。アンソニーとメグ(・ライアン)の息子だ」と言い続けていたという。本作のジョー・コシンスキー監督の『オンリー・ザ・ブレイブ』(2017)に出演していたマイルズは、監督の誘いでオーディションを受けてルースター役を勝ち取った。オーディションではトムといくつかのシーンを演じ、後日トムから直接「この役は君のものだ」と言われた。

『トップガン マーヴェリック』より。

© 2022 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.

作品に取りかかって以来、トムの仕事ぶりを間近で見て、完ぺきを目指す妥協ない姿勢とたゆまない努力にインスパイアされたそうだ。先ごろカンヌ国際映画祭でのトークショーで、なぜ危険なスタントを自ら演じるのかを尋ねられ、「ジーン・ケリーに『なぜ自分のダンスシーンを自らやるのですか?』と聞く人はいないでしょう」と答えたトム。可能な限り、全て自分自身で演じようというイズムはマイルズにも受け継がれ、ルースターがバーでピアノを弾くシーンのためにマイルズは撮影の7週間前からピアノを猛特訓し、実際に「Great Balls of Fire」を演奏した。

トム・クルーズとグレン・パウエルが作り上げた、ハングマンというキャラクター。

グレン・パウエル扮する“ハングマン”。

© 2022 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.

どことなく若き日のアイスマンに似た雰囲気を持つのが、グレン・パウエルが演じるハングマンだ。もともとグレンはルースター役としてテストを受けたが、代わりにハングマン役をオファーされ、一度はそれを断っている。10歳の時に『トップガン』を見て、俳優を志した彼は切望していた役を勝ち取れなかったショックで、他の役には興味が持てなかったのだ。

だが、グレンの返事を知ったトムは、製作会議をグレンに見学させた。「あなたのようなキャリアを築きたい」と話すグレンに、トムは「僕は映画を選び、その中にキャラクターを作り出している。僕はその映画をやりたいか、そうでないかで評価する」と、選ぶのは演じる役ではなく作品であること、そこからキャラクターを作り出していく大切さを語った。

ワールドプレミアが開催されたサンディエゴにヘリコプターで降り立ったトム・クルーズ。

Photo: Emma McIntyre/WireImage

「僕は、キャラクターが素晴らしいと思えたからと役を選んだことはない。その映画に出たいと思ったから、役を選んだ」 と語るトムの言葉に心を動かされ、グレンはハングマンを演じる決意を固めた。「トムと一緒にハングマンというキャラクターを作り上げるなんて、こんなチャンスがあるなんて考えもしなかった」と振り返っている。

トムは周囲に気を遣わせるタイプの映画スターではなく、「すぐに壁を取り払い、ストーリーや感情について話したり、メンターや友人のような存在でいてくれる」と言う。誰とも分け隔てなく接し、アンサンブルを大切にする姿勢にはグレンも感銘を受けたようだ。