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『007』の歴史を塗り替えたレア・セドゥが語る、ジェームズ・ボンドと撮影秘話。

新型コロナウイルスの影響で公開が1年以上延期となっていたシリーズ最新作『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』は、6代目ジェームズ・ボンドのダニエル・クレイグにとって特別な作品だ。ボンドの人生に深く関わるマドレーヌ・スワンを演じたレア・セドゥが、撮影秘話やパンデミックを経て感じたことを語ってくれた。

忘れられがちな事実だが、過去60年間に制作された『007』シリーズ24作のうち、2つ以上の作品に登場したボンドガールは1人もいなかった。この歴史を塗り替えたのが、シリーズ25作目となる『ノー・タイム・トゥ・ダイ』で、謎めいた心理学者マドレーヌ・スワンとして再登場するレア・セドゥだ。

レア・セドゥ演じるマドレーヌ・スワンはジェームズ・ボンドの宿敵ミスター・ホワイトの娘で、精神科医。

©︎2021 DANJAQ, LLC AND MGM. ALL RIGHTS RESERVED.

36歳のフランス人女優、セドゥが映画史に名を残すのはこれが初めてではない。2013年、物議を醸した美しくも衝撃的な『アデル、ブルーは熱い色』で、セドゥは共演のアデル・エグザルホプロスとともにアブデラティフ・ケシシュ監督と並んでパルム・ドールを受賞。パルム・ドールが出演俳優に授与されたのは、カンヌ史上初の快挙だった。

それまでに、すでにセドゥは『美しいひと』(2008)や『美しき棘』(2010)などのフランス映画でセザール賞にノミネートされ、『イングロリアス・バスターズ』(2009)のカメオで観客を魅了していた。また、ウェス・アンダーソン監督の『グランド・ブダペスト・ホテル』(2014)ではスフィンクスのようなメイドという脇役で出演している。その後、物腰は柔らかいが頭は鋭く切れる有能なスワンを『007/スペクター』(2015)で演じることとなった。

本作でボンドは、亡くなったばかりの悪役ミスター・ホワイト(イェスパー・クリステンセン)の娘スワンに、彼女が働くオーストリアの人里離れた診療所で出会う。奇襲を受けるがうまく脱出した2人は、手掛かりを探してモロッコのタンジールからロンドンに移動し、最後は爆発とともに夕陽に向かって車で走り去る。

続くキャリー・ジョージ・フクナガ監督の『ノー・タイム・トゥ・ダイ』は、イタリアで二人が将来に想いを馳せるシーンから始まる。だが、追手が現れ、ボンドはスワンが自分を裏切るのではないかと恐れはじめる。彼らを待ち受ける運命は……。

全世界の興行収入が346億円を突破した本作の撮影秘話や、来年に日本公開を控えるウェス・アンダーソンの最新作『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』について、セドゥが『VOGUE』に語ってくれた。

──『007/スペクター』は、ジェームズ・ボンドとマドレーヌ・スワンが一緒にロンドンを去るところで終わっていました。その時点で、次回作にもスワンが登場すると知っていましたか? 

そうなることを願っていたけれど、前作がダニエル最後の『007』になると本気で思っていました。だから、彼がボンドとして戻ってくることを聞いた時は驚きました。今回の作品では、もう少しだけスワンのキャラクターを掘り下げる機会があったのが嬉しかったです。彼女のこれまでの人生や母親との関係についても描かれています。そのおかげで、ボンドとマドレーヌの関係性と、なぜ2人がこんなに惹かれ合うのかについても理解が深まりました。2人には共通点がとても多いのです。どちらも捨てられた子どもで、傷を負っている。マドレーヌの父親も殺し屋だったから、ボンドの住む世界にも馴染みがあります。2人はお互いを理解し合うことができる関係なんです。

──マドレーヌは、この映画の主要な存在の1人です。ボンドの数多き恋のうち、2作を通じて重要な役どころとなるボンドガールは初めてですね。

マドレーヌは『ノー・タイム・トゥ・ダイ』の要です。彼女がどんな人間なのか、今作ではとても詳しく描かれているから、観る人も彼女により感情移入できるはず。これは『007』シリーズでは初のことです。過去作でここまできちんと描かれた女性はいませんでした。また本作では、ナオミ・ハリスラシャーナ・リンチアナ・デ・アルマスら強い女性が何人も登場しているし、多様性もある。ある意味、非常に新しいし、必要な変化だったと思います。 

カーチェイスや水中……。体当たりで挑んだ撮影。

ラシャーナ・リンチは殺しのライセンスを持つエージェント、ノーミを演じる。

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──ラシャーナ・リンチが新しい007を演じるのでは、という噂が流れた時、次のボンドは女性かもしれないと多くが考えました。女性が演じるボンドを見たいと思いますか?

見たいとは思いません。だってジェームズ・ボンドはジェームズ・ボンドだから。でも、ジェームズ・ボンドのような役を女性が演じるところは見てみたいし、実現する可能性は大いにあると思います。

──予告に登場するカーチェイスも含めて、本作には素晴らしいシーンが多数あります。撮影に一番苦労したのは?

カーチェイスシーンは正直とても恐かったけど、楽しかったです(笑)。『007』シリーズには欠かせないシーンだし、役者として新しい挑戦ができるのはいつだって素晴らしいことだと思っています。私は臆病な性格だから、ちょっとでもスタントをやらないといけないシーンがあると、とても緊張してしまう。でも、やり遂げた後には、とても誇らしい気持ちになります。他にも泳ぐシーンがあって、その撮影の時はほとんど丸一日、水の中にいないといけなかったんです。それは結構大変でした。

また、『ノー・タイム・トゥ・ダイ』の前後で別の映画を撮っていたので、スケジュールがとてもタイトだった。『スペクター』は8カ月程度かけましたが、今回は3カ月くらいしかなかったんです。

1年以上の延期を経て待望の公開。

ジェームズ・ボンドとマドレーヌ・スワンは思わぬ再会を果たす。

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──ようやく本作が公開されました。今、どんな気持ちですか?

撮影からすごく時間が経っているから、今この映画のプロモーションをしてるのは不思議な気分です。でも、やっと公開できてとても嬉しい。ダニエルがジェームズ・ボンドを演じる最後の作品だし、たくさんの人に楽しんでほしいです。ダニエルとまた一緒に仕事ができたのは、本当に素晴らしい経験になりました。この映画は感情を揺さぶる作品です。観る人はきっと驚くと思うし、楽しんでほしいと願っています。

──出演作のウェス・アンダーソン監督『フレンチ・ディスパッチ』の公開も控えています。その撮影はどんな感じでしたか?

素晴らしい体験でした。ちょっと『007』に似ているところもありましたね。登場人物がとても多いから、みんな家族みたいな感じでした。大勢の人たちと一緒に作り上げることができたのはとても楽しかったです。時々、自分が作品を背負うような立場になると、たった一人で少し孤独な気分になることもあるから。

──仕事以外の面で、この一年半はあなたにとってどんな時間でしたか?

パンデミックは本当に大変でした。物事が崩れ落ちていく様子を見ながら、世界について疑問を抱かずにはいられなかった。パンデミックが過ぎた後には、重要なことについてのみんなの意識が高まるだろうと感じたけれど、今となっては、まるで何事もなかったみたい。私たちは以前と同じ場所に戻ってきてしまった。今の世界については少し心を痛めていると言わざるを得ません。

Text: Radhika Seth
From VOGUE.CO.UK