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本家とどこまで似てる? 実在した人物を演じたセレブたち。

実在する人物をどこまで本人そっくりに演じられるかは役者魂の見せどころ。今夏にはエルトン・ジョンの伝記映画『ロケットマン』が公開になるが、はたして『ロケットマン』は次なる『ボヘミアン・ラプソディ』になりえるのか? その前に実在する人物を演じた役者たちの最新バージョンをお届けする。
フレディ・マーキュリーが憑依! ラミ・マレックの完コピパフォーマンスに鳥肌。
本家フレディ・マーキュリーの1985年ライブ・エイド時。Photo: Anwar Hussein/Getty Images
ラミ・マレック演じたフレディ。Photo: Splash/AFLO

日本でも大旋風を巻き起こした『ボヘミアン・ラプソディ』(2018)のフレディ・マーキュリー役で見事アカデミー賞主演男優賞を獲得したラミ・マレックだが、実は撮影当初はここまでの成功を予想した人は少なかった。

そんな逆境も苦にせず、フレディの特徴だった大きな前歯を特注し、それをつけて外見からフレディになりきったラミ。178センチでバランスのとれたスタイルのフレディ・マーキュリーに対し、ラミは175センチで華奢な骨格。どうしてもフレディの醸し出すエロスが足りないように思えた。

しかし、ラミは1985年のクイーンの伝説的パフォーマンス、ライブ・エイドの18分のステージ映像を1500回以上観て、フレディのすべてを完コピ。スクリーンに映るその姿は身体から口の動きまでフレディが憑依したようにしか見えず(歌声はフレディ本人のものと、フレディのそっくりさんの声が使われている)、映画と音楽ファンたちの心をがっつりとつかんだのだ。

ゲイリー・オールドマンはウィンストン・チャーチルを演じてカラダに変化が。
1940年電車内で書類に目を通す英国首相に就任したチャーチル。Photo: Keystone-France/Gamma-Keystone via Getty Images
チャーチルになりきるためにメイクに200時間かけたゲイリー・オールドマン。Photo: Everett Collection/AFLO

『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』(2017)でウィンストン・チャーチルに変身したゲイリー・オールドマン。顔、体型、そして年齢まで完全に別人に化けなければならなかったゲイリーは、特殊メイクの世界で超一流として知られる日本人アーティストの辻一弘氏の力を借りて見事な変貌を遂げた。当然ながら顔や体にメイクを施しても、ゲイリーがスムーズに支障なく演技ができるようにするため、特殊メイクの開発に6カ月が費やされたほど。その努力が報われ、チャーチルになりきったゲイリーはアカデミー賞主演男優賞を獲得。

ただし、そんな彼も大きなリスクを負わなければならなかった。なぜなら、大の愛煙家だったチャーチルを演じるために、ゲイリーは撮影中大量の葉巻を口にしなければならなかったのだ。ちなみに、役のために専用の葉巻が3万ドル(約330万円)分も用意されていたそうだ。ゲイリーはTVトークショーで、「おかげでニコチン中毒になってしまったよ。撮影の合間のクリスマス休暇のときなんて、みんなが自宅に帰ってクリスマスツリーを飾りつけている間、僕は病院で結腸内視鏡検査を受けていたんだから」

そっくりになりきるのも、楽じゃないのだ。

強烈なキャラを誇るお騒がせ元フィギュアスケーターをマーゴット・ロビーが熱演。
1994年のリレハンメルオリンピックで靴紐の不具合をアピールするトーニャ。Photo: The Asahi Shimbun via Getty Images
スケート界で最も有名なシーンである1幕をマーゴットが再現。Photo: Everett Collection/AFLO

1994年にオリンピック出場選考会となる全米選手権会場で、フィギュアスケーターのナンシー・ケリガンが襲撃された。この襲撃事件に関与したとされたのがナンシーのライバルであるトーニャ・ハーディングだった。そんなお騒がせスケーター、トーニャ・ハーディングの人生を描いた『アイ, トーニャ 史上最大のスキャンダル』(2017)で、マーゴット・ロビーは貧困と暴力に支配されて育った労働者階級のトーニャ・ハーディングを熱演した。

トーニャを演じるためにマーゴットは頬、鼻、あご、目の下、首回りに人工装具を着用し、その上からメイクをほどこしてトーニャのルックスに自身を近づけた。ただし155センチで筋肉質のアスリート体型だったトーニャに対し、マーゴットは168センチでモデル体型と真逆だったため、一部は視覚効果で調整せざるを得ない部分もあったという。同様に、マーゴットは撮影開始4カ月前から週5回、1日4時間以上リンクに立ってスケートを猛特訓するも、プロですら飛ぶことが至難であるトリプル・アクセルなどは視覚効果の力を借りている。

しかし、オーストラリア出身のマーゴットは、アメリカ北西部独特の訛りを持つトーニャ・ハーディングの話し方を完ぺきに再現。フィギュア史上類をみないスキャンダラスな事件の真相に迫ったのだ。

天才科学者スティーブン・ホーキングに天才役者エディ・レッドメインが挑戦。
昨年の3月に76歳で亡くなったスティーブン・ホーキング博士は生前「人工知能が人類を滅ぼすかもしれない」と予言をしていた。Photo: Santi Visalli/Getty Images
ホーキング博士との対面はかなり緊張したというエディ。Photo: Collection Christophel/AFLO

エディ・レッドメインにアカデミー賞主演男優賞をもたらした『博士と彼女のセオリー』(2014)。今作でエディは天才科学者スティーブン・ホーキング博士の大学時代から、病に侵された後の人生までを演じきっている。

エディはホーキング博士になりきるために「4カ月の準備を重ねたけれど、彼を知るのはまるで博士課程の論文を書くほど困難だった」という。そのため大学の物理学の教授の協力を得て、より分かりやすくホーキング博士の研究などを理解したり、博士が発病した運動ニューロン病を知るためにクリニックを訪れて患者の話を聞くなどのリサーチを行ったそうだ。

また、撮影現場では何時間も足と頭を傾けた独特の姿勢で車椅子に座っていなければならず、肉体的に相当厳しかったという。しかしエディは博士の姿勢から喋り方はもちろん、爪の長さまで徹底して研究し尽くして撮影に挑んだのだ。

ちなみに、実際にエディが博士に会ったときには緊張しすぎて、「あなたはガリレオ・ガリレイと同じ1月8日生まれですけど、僕は1月6日生まれなので、僕たちは同じ山羊座ですね」とくだらないことを言ってしまったら、博士は9分ほど経ってから「私は天文学者であって、占星術師ではない」とピシャリ(笑)。その通りです。

マリリン・モンローを演じたミシェル・ウィリアムスの悩み。
Photo: Sunset Boulevard/Corbis via Getty Images
歌も踊りも一切の吹替なしでマリリン役に挑んだミシェル・ウィリアムズ。Photo: Album/AFLO

『マリリン7日間の恋』(2011)でマリリン・モンローを演じたミシェル・ウィリアムズは、6カ月かけてマリリンのすべてを知るべく事前リサーチを行ったという。映画公開時ミシェルは31歳。映画の舞台となっている1957年のマリリンの年齢も31歳とまったく同じだった。また、身長も166センチのマリリンよりミシェルが3センチ低い163センチと大きな差はなし。

ただし、二人には骨格という大きな違いがあった。肉感的なマリリンに対し、ミシェルはかなり華奢な体形。そのためミシェルはマリリンを演じるのに体重を増量する必要があった。ところがミシェルは体にボリュームをもたせようとしても、体質的に肉がすべて顔につき、肝心なボディは思うように膨らまなかったのだ。そのため、有名なモンローウォーク特訓中は腰回りにはパットを入れて練習に励んだという。

撮影時には本人としてはかなりふっくらとした体形になったが(とにかくなんでも食べるという増量法を選んだ模様)、それでもふくよかなイメージのマリリンよりは華奢だという意見が圧倒的だった。話し方や顔は近づけても体型を似せるというのは、どんな演技派でも難しいようだ。

ディック・チェイニー本人を知らなくてもクリスチャン・ベールの演技を観れば大丈夫⁉
2006年のディック・チェイニー元副大統領。Photo: Spencer Platt/Getty Images
衣装まで完コピをしたクリスチャン・ベール。同業者であるベン・アフレックですら彼をアメリカ人だと思い込んでいたというのだから驚きだ。Photo: Everett Collection/AFLO

『バイス』でクリスチャン・ベールが演じているのは、ジョージ・H・W・ブッシュ政権下で国防長官、息子のジョージ・W・ブッシュ政権下(2001~2009)で副大統領を務めたディック・チェイニー。その名を聞いてもピンと来ない人も多いかもしれないが、それもそのはず。彼は表立って目立つことはせず、しかしさまざまな権力を手に入れて裏の実力者となり政治を操っていた「影の大統領」と囁かれる人物だったのだ。

映画では主として60歳代のチェイニーを演じているクリスチャン。20代から60代を演じ分けるにあたり、鼻や顔、頬にシリコンを装着させ、さらに毎日5時間の特殊メイクをほどこし、そのうえ半年間かけてリアルに約18キロ増量をして役に挑んだというのだからさすがだ。

ただし、これまでも幾度となく我流で体重の増減を繰り返してきたクリスチャンだが、さすがに45歳の今は無茶せずに専門家の指示に沿って体重を増やしたため、体を壊すこともなければ、すぐに元の体に戻ることができたという。残念ながら今年のアカデミー賞ではラミ・マレックに主演男優賞を譲ったが、あまりにディック・チェイニー本人に似ていたが故に、多くの人が彼をアメリカ人と信じて伺わなかった事実が発覚(実際はイギリス人)。本当のカメレオンぶりを見せつけたのだった。

ちなみに映画のタイトルになっている『バイス(Vice)』は「副大統領(Vice President)」と、「悪徳(Vice)」の両方の意味を持つうまいかけ言葉になっている。

Text: Rieko Shibazaki