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ゼンデイヤの挑戦──ディズニー・スターからZ世代のオピニオン・リーダーへ。

政治や社会への関心を、自身の言動で発信し続けるゼンデイヤ。キッズが憧れるディズニー・スターから、Z世代のオピニオン・リーダーとなった今、彼女の影響力は絶大だ。話題のドラマ「ユーフォリア」で悩めるティーンを演じるゼンデイヤの今に迫る。

ディズニーの"アイドル"から革新的ドラマのヒロインへ。

Photo: Daniele Venturelli/Daniele Venturelli/ Getty Images for FendiDaniele Venturelli

サンフェルナンド・ヴァレーにあるゼンデイヤの家に向かう日の朝、ロサンゼルスの空はさわやかに晴れ渡っていた。雨の恵みを受けた野の花がほころび、沿道はオレンジや紫の花びらで彩られている。この光景を写真に残そうと、車の窓から身体を乗り出している人も多い。今こそ、おだやかな気持ちで花の香りを堪能し、新しい季節の訪れを満喫するべきときだ。きっとゼンデイヤもそうしているだろうと、私は想像していた。

何しろ今日は、彼女にとってやっと取れた休日なのだ。これまでの数カ月、彼女はトミー ヒルフィガー(TOMMY HILFIGER)とコラボした「トミー×ゼンデイヤ」カプセルコレクションをパリで大々的に発表し、史上最年少の22歳でグローバル・アンバサダーに抜擢されたばかりのランコム向けに写真撮影を行い、さらにはHBOの硬派な新作ドラマ「Euphoria(原題/以下ユーフォリア)」の撮影に臨むなど、超多忙なスケジュールをこなしていた。

「ユーフォリア」の現場では「Z」と呼ばれていた彼女は、このドラマで、若くしてドラッグ中毒となり、更生と再犯を繰り返す、主役のルーを演じている。これだけ忙しかったのだから、たまの休日は、さすがのゼンデイヤも自宅のプールサイドあたりで、のんびりと過ごしているだろう。

ところがいざ自宅に着くと、私は彼女から実は別の仕事を始めたと打ち明けられた。「今日から私はウーバーのドライバーよ」と言い、ガレージの外に停めてある黒の大型SUVのドアを開ける。これはもちろんジョークだ。普段乗っている車が今ちょうど修理中で、異母姉のキジーの娘2人を学校に迎えに行くのに、この巨大な車を借りたのだという。ということは急いでいるはずなのだが、そんな様子にはあまり見えない。

オーバーサイズのボタンダウンシャツを無造作に、ゆっくりとした手つきでジーンズにたくしこみ、愛犬のミニチュアシュナウザー、ヌーンを後部座席の犬用ベッドにドサリと置く。ヌーンが特に文句を言うこともなくベッドに収まったところで、私たちは一緒に、近くの中学校へと向かった。かなりのスピードを出しながら、「あの子、きっとめちゃくちゃ怒るわ」と、彼女は12歳の姪、イマーニについて話す。「迎えに行ったら、クラクションを大きな音で、何度も鳴らすつもり。まあ見てて──きっと、ものすごく嫌がるはずだから」

学校に着くと、イマーニと同じ年ごろの子どもたちがちょうど校舎から出てきたところだった。その中にはインスタグラムでゼンデイヤをフォローしている子もかなりいるはずだが、すぐそばの車のハンドルを握る、憧れのスーパースターにはまるで気づいていない。クラクションを鳴らす。携帯をじっと見つめていたイマーニが、顔を上げる。クラクションをさらに3回鳴らす。姪っ子がこちらをジロッとにらむのを見て、ゼンデイヤは大笑いする。

「イマーニは、私のことなんか嫌い、っていうフリをするのが好きなの。でも本当は大好きなのよ」。するとイマーニが、本気とはとても思えない口調で「大っ嫌い」と言いながら車に乗り込んできて、ヌーンの隣の席に収まった。2人目の姪っ子を迎えに行くため、私たちは次の目的地、バーバンクへと急いだ。

ディズニー・チャンネルのコメディドラマ「シェキラ!」で演じたロッキー・ブルー役でキッズのアイドルに。 Photo: Walt Disney Television/ Getty Images

ゼンデイヤはイマーニに、今日の学校はどうだったかと尋ねた。うしろの座席からは何の返事もない。「うん、私も学校帰りはこんな感じだった」とゼンデイヤは言う。「家に帰っても『別に何もなかった、勉強も進んでないし、学校なんて退屈なだけ、私に構わないで』っていう」。実際には、ゼンデイヤは今のイマーニくらいの年齢で、それまで通っていた学校に別れを告げ、同時に子ども時代を過ごしたオークランドからハリウッドに引っ越している。

その後はディズニーの人気ドラマ「シェキラ!」の撮影現場に設けられた小さなクラスルームで、両親が選んだ家庭教師から教育を受けた(ちなみに彼女の両親は、どちらも元教師だ)。「笑っちゃうのは、そんな私が今、ドラマで高校生を演じていること。しかもこの歳で、ありとあらゆる体験をする役なんだから」

ここに来てようやく、イマーニが甲高い声を上げた。「さっきから今日あったことを伝えてたんだけど」と彼女は主張する。ゼンデイヤと私は顔を見合わせる。「手話を使ってたの!」。わかったわ、じゃあ教えて、とゼンデイヤは言い、赤信号で停止したタイミングでバックミラーに目をやった。するとイマーニはにやりと笑いながら、指先で文字を綴った。「N-O-T-H-I-N-G(何もなかった)」と。

過激でリアルなドラマ「ユーフォリア」での挑戦。「ユーフォリア」は、いつ爆発するかわからない手榴弾のようなドラマだ。同名のイスラエルのドラマを下敷きに、今どきのハイスクールライフを、華やかに、過激に描いていく。ここで描かれるのはソーシャルメディアに囲まれ、オンラインポルノがあふれ、あらゆるドラッグが簡単に手に入る環境の中で大人になっていく若者の姿だ。

全米での放映開始は6月で、ドレイクが製作、サム・レヴィンソンが製作総指揮に名を連ねる。そして、サンダンス映画祭でプレミア上映されたレヴィンソン監督の映画『Assassination Nation(原題)』同様、その展開はツイッターのタイムラインのようにめまぐるしい。

ゼンデイヤが演じるルーは、第一印象では、むしろ彼女が「シェキラ!」で共演したベラ・ソーンが演じるべき役のように思える。ベラはディズニーの世界を離れてからは、お騒がせキャラが定番となっているからだ。だが、ドラマの構想を練っていたレヴィンソンがムードボードに貼りつけたのは、洗練されたムードを放ち、冷静で、禁欲的にさえ見えるゼンデイヤのポートレートだった。

「これこそ、強さともろさの両極端を行き来するZ(=ゼンデイヤ)の姿だった。彼女の表情に、そのすべてがあったんだ」と、レヴィンソンは彼女を起用した理由を語る。「彼女はコインの裏表のように、一瞬にして表情を変える。この役柄になりきれるのは彼女しかいない、この狂気と愛らしさの絶妙な組み合わせがなければダメだ、と感じたんだ。あれは直感だったね」

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ゼンデイヤと言えば、ディズニー・チャンネルを見て育った人にも、大人になってからの彼女に注目している人にも、ある程度決まったイメージがあるはずだ。最近はレッドカーペットでの先鋭的なルックで話題をふりまき、女優としても『スパイダーマン』のリブート・シリーズで主人公ピーターのクラスメート、ミシェルを演じるなど、進境著しい。
だが、「ユーフォリア」で彼女が見せるのは、そうしたこれまでのイメージとはまったく違う顔だ。地味でユニセックスな格好をして、不安げなルーは、安らぎと人とのつながりを切望しながら、惨めな日々を送っている。そんな彼女が真っ先に飛びつくのは、揺れる心を鎮める、ハイになれるドラッグだ。彼女にこれまでのイメージと真逆の役を振ったレヴィンソンの目は確かだった。あの年齢以上に落ち着いたゼンデイヤが演じるからこそ、カオスを極めるドラマの世界の中で、ルーは信頼に足るガイドの役割を果たすことができたのだ。
「わかると思うけど、私には、ルーを演じる上で参考になるような10代のころの経験があまりないの。特に、薬物依存の苦しみはまったく実感がないし」と、ゼンデイヤは認める。「だから私は、迷ったらサム(=レヴィンソン)に聞け、という方針を立てたの。サムはそういうことをすべて経験してきているから......要するに、ルーって彼自身なのよ」

この話をレヴィンソンに伝えると、彼は大笑いして「うん、確かにそんなところだね」と認めた。「でも、Zの自己評価は低すぎるんじゃないのかな。例えば、彼女と僕があるシーンについて話していて、僕が自分の体験を説明したとする。それが、いざ撮影となると、僕が言ったことをまったく予想外の形で解釈して、表現してくれるんだ。怖くなるくらいだよ」

2つ目の目的地でピックアップしたもう一人の姪、14歳のアイシスは、妹のイマーニよりは口数の多い子だった。ゼンデイヤが混雑した道をノロノロ運転しながら家に向かう中、アイシスは14歳とは思えないほど落ち着いた口調で、英語の授業の課題として書いている、警察の暴力に関するレポートについて解説してくれた。アイシスと会う前に、私はゼンデイヤに、高校生活について姪っ子にリサーチをしたのかと尋ねていた。

彼女が演じるルーは、アイシスの少し年上くらいの設定だったからだ。「特には聞いてないかな」というのがそのときの答えだったが、車でのアイシスの様子を見ればその理由は明らかだった。この子はとにかくしっかりしていて、非常に賢い。ひたすら落ちていくルーのようなティーンエージャーを演じるにあたって、参考にできるところなどまったく見当たらないのは明らかだった。

広くすっきりしたインテリアの自宅に戻ると、ゼンデイヤと姪っ子たちは、家族の定番の話題についてわいわいと話し始めた。今日のトピックは、宿題と、みんなが食べる今晩の夕食のメニューだ。普段はほとんど料理をしないというゼンデイヤが、野菜のローストを作るという案もあったが、結局、タイ料理のデリバリーを頼むことで落ち着いた。

ディズニーの撮影現場で育った少女時代のゼンデイヤも、きっとこんな暮らしをしていたのだろう。以前は彼女のキャリアを厳しく管理していた両親が、家ではゆっくりくつろいで、「普通の」ティーンエージャーのように過ごせるよう、気を配っていた。

オークランドへの特別な思いが誘った社会への関心。

2019年6月、ブロードウェイで上演されているミュージカル『ハリーポッターと呪いの子』を観覧後にバックステージを訪れたゼンデイヤ。Photo: Bruce Glikas/WireImageBruce Glikas

そんな両親の目も、以前ほどは厳しくなくなった今(とはいえ最近も母親が自宅を訪ね、家のあちこちにクリスタルを飾りつけていったという)、ゼンデイヤは、姪っ子たちの親代わりという役割を楽しんでいる様子だ。イマーニがお気に入りのKポップ・スターの名前を次々と挙げていくのを、ちょっと困った顔をしながら聞き、アイシスから「ハリー・ポッターばっかりなんだから」と、いつまでもハリー・ポッターが好きなのをからかわれても、笑顔を見せている。さらに出迎えの車中で話題になったレポートについても、アイシスから詳しく話を聞く。

警官による暴力は、ゼンデイヤにとっても他人事ではない。09年の1月1日には、彼女が当時住んでいたオークランドで、オスカー・グラントという若い黒人男性が鉄道警察隊の隊員に射殺される事件が起きた。現場は母親が勤めていた小学校からそう遠くない場所だった(この射殺事件はその後、オークランド生まれのライアン・クーグラーの初監督作『フルートベール駅で』の題材となった)。この事件をきっかけに、街では激しい抗議行動が起きた。その後の、黒人の権利向上を訴える「ブラック・ライヴズ・マター」運動の前触れとなるような出来事だった。

「そう、オークランドには歴史があるから」と、アイシスの母親のキジーは、あとで私に説明してくれた。「あの街で育つと、否応なしに意識が高まるものよ」。ちなみにゼンデイヤには4人の異母きょうだいがいるが、最年少の彼女は家族からは「デイヤ」と呼ばれている。「それでも、デイヤはお母さんの勤め先だった公立学校と、私たちの父が勤めていた私立学校の違いを見て、思うところはあったでしょうね。『これだけ格差があるんだ』と気づいたはずよ」とキジーは言う。

オークランドを離れてから10年近くが経つが、彼女は今でも、この街と、多くの抗議運動の震源地となったその歴史に、強い共感を持っている。今回の自宅訪問でも、暖炉の上に飾られていた額装されていない黒人男性のポートレートを裏返して見せてくれる一幕があった。裏側にコラージュされていたのは、学者にして活動家のアンジェラ・デイヴィスの、逮捕時に撮影された顔写真だった。この写真は、「ローの友達が作ってくれたもの」だという。

ローというのは彼女のスタイリストを長年勤めているロー・ローチだ。「若い黒人アーティストの作品をもっと飾りたいって思っているわ」と彼女は続け、自宅の何もかかってない壁を指さした。「それに、いつか映画で、アンジェラ・デイヴィスを演じてみてもいいかな、とも思う」と言い、ウインクしながらポートレートを元の場所に戻した。

トミー・ヒルフィガーとのコラボで目指したゴールとは。

2018年のアカデミー賞授賞式にて。Photo: Jeff Kravitz/FilmMagicJeff Kravitz

アンジェラ・デイヴィスの伝記映画で主人公を演じるのに、ゼンデイヤはこれ以上ないほど適役だ。社会問題に「目覚めた」若きスターたちのなかでも、彼女の政治的発言の頻度は群を抜いている。NFLプレーヤーのコリン・キャパニックが人種差別に抗議し、試合前の国歌斉唱で起立を拒否すると、彼を支持するメッセージをインスタグラムに投稿した。2017年にヴァージニア州シャーロッツヴィルで白人至上主義団体と反対派が衝突し、死者が出る事件が起きた翌日には、ティーン・チョイス・アワードの授賞スピーチで、ファンに行動を起こすよう呼びかけた。

また、ドレッドヘアで臨んだ15年のアカデミー賞授賞式では、エンターテインメント専門局、E!TVのレポーター、ジュリアナ・ランシックからヘアスタイルについて心ないコメントをされたが、これにひるまず反撃したことで一躍名を上げた。このときはエイヴァ・デュヴァーネイやケリー・ワシントン、ソランジュ・ノウルズなど、多くのセレブがゼンデイヤを支持するメッセージを寄せ、ディズニー・チャンネルの視聴者以外の人たちから注目を集めるきっかけとなった。

「何もかもが予想外だった」と、このときの騒動を彼女は振り返る。「私はあのレッドカーペットに、ようやくもぐりこんだだけだったのに。招待客の同伴者の同伴者としてね」。その後、18年のアカデミー賞授賞式では、シフォンを用いたジャンバティスタ ヴァリ(GIAMBATTISTA VALLI)の軽やかなドレスでステージ登壇を果たしている。「この年はプレゼンターとして招待されたの」と、彼女は素っ気なく話す。「ということは、私は勝ったんだと思う」

最近特に関心を持っている社会問題として彼女が挙げたのが、ジェントリフィケーション(都心の低所得層が住む地域が高級化し、それまでの住民が追い出される現象)だ。オークランドにある祖母の自宅の家賃が高騰して、危うく家を追い出されそうになったのを目の当たりにしている彼女にとっては、決して対岸の火事ではない。

「ずっと考えているの。アートを通じて、この問題を解決する後押しをするとしたら、私に何ができるだろう? って」と、彼女は問いかける。「もちろん、私には伝える手段はあるけれど(インスタグラムでの彼女のフォロワー数は5600万人を超える)。でも、ただ投稿するだけじゃダメだとわかってもいる。人の話も聞かないと。話すことも大事だけれど、言ったことを実行に移すのも大切」

デザイナーのトミー・ヒルフィガーは、ゼンデイヤの社会問題への意識の高さは、その魅力の源泉になっていると指摘する。「ソーシャルメディアで多くのフォロワーを誇るセレブは多い。でも、社会を変えるために努力している人はいるだろうか? 初めて言葉を交わしたときから、彼女は自分の名声を、世の中を変えるための戦いに使う意思をはっきりと示していたよ。活動家の心を持つセレブなんだ」

2019年3月、パリでコレクションを発表したデザイナーのトミー・ヒルフィガーゼンデイヤ。Photo: Tim P. Whitby/WireImageTim P. Whitby

だが、活動家という呼び名には、彼女自身は異を唱える。「悪い気はしないわ。でも私は違う。私が本当にやりたいのは、ベイエリアに住む、同じ年代の子たちの支援なの。小学校の同級生でも、そういう呼びかけをしている子がいるし。みんなで団結しよう、って。そういう子たちに聞けば、何をすればいいのかはっきりするかも」

ゼンデイヤはハリウッドで映画やドラマの撮影に忙しく、空き時間もめったにないほどだ。だが、仕事の予定がないときは、最近になって多くの若者を引きつけている左派政党、アメリカ民主社会主義者の集会や、グリーン・ニューディールを支持する座り込みデモに積極的に参加している。めったなことでは怖じ気づかない彼女にふさわしい行動だ。

トミー・ヒルフィガーとのコラボもその一例だ。当初、彼女はこのオファーを疑わしく思っていたという。「夢みたいなことを約束しても、結局、私を商品の売り込みに利用するだけなんだろうと思っていたの」と彼女は振り返る。そこで彼女は盟友のスタイリスト、ロー・ローチと組んで、モチーフとなる、ディスコ全盛期の画像を山ほど検索した。さらに、ブランドとの最初の打ち合わせにも、妥協は一切なしという姿勢で臨んだ。彼女がローチと2人で作り上げたムードボードを見せると、ミーティングルームがどよめいたという。

「どんなことでも、やると言ったことはやる。それがゼンデイヤだよ」と、ローチは言う。「デザインミーティングやサンプルのチェックにも、毎回欠かさず参加していたよ。モデルのキャスティングにも全面的に関わっていたね」と、3月にパリで行われたランウェイ・ショーについても振り返った。

「自分が影響された女性たちにオマージュを捧げたいというのが、彼女の考えだった。例えば、黒人女性として初めて、VOGUEの表紙を飾ったビヴァリー・ジョンソンはどう? 有色人種として初めて大手化粧品会社のキャンペーンモデルを務めたヴェロニカ・ウェブは? パット・クリーヴランドは? 彼女のスケジュールを押さえられる?と、次々にアイデアを出していたよ」

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3月のトミー×ゼンデイヤのショーは、単なる新たなファッションを発表する場にとどまらなかった。ここで明らかになったのは、なぜこのコレクションを立ち上げたのかという目的意識だ。会場に集まった観客はモデルたちに歓声を送った。今回のショーのモデルは全員黒人がキャスティングされていて、ビヴァリー、ヴェロニカ、パットもすべて顔をそろえた。さらに70歳になるディスコ時代のアイコン、グレイス・ジョーンズがフィナーレに現れると、観客たちは狂喜乱舞した。

「音楽記号のクレッシェンドのように、終盤にかけて盛り上がるショーにしたかったんだ」とローチは振り返る。「それで僕が『グレイスはどうかな?』って提案した
ら、Zはほんの一瞬、僕をじっと見つめたあと、こんなふうに言ったんだ──『もし来てくれたら私、死んでもいい』って」

夕食のタイ料理が届いたころにこの話をすると、「でも、あのグレイスに、言えることなんてある?」とゼンデイヤは反論して、さらにこうつぶやいた。「彼女は本当に恐れを知らない人よ」

それはゼンデイヤも同じはずだ。だが、「ユーフォリア」の役に関しては、さすがの彼女も怖じ気づいたという。ディズニー・チャンネルでの最後の出演作を引き合いに出しながら、「これは『ティーン・スパイ K. C. 』の主役を演じるのとは訳が違う」と、その理由を語る。「撮影の初日は、心底おびえきっていたわ」

ところが、劇中でルーの一番の親友、ジュールズを演じるハンター(HUNTER)・シェーファーは、彼女がそんな気持ちでいたことにはまったく気づかなかったという。これはゼンデイヤの数ある才能のひとつで、心に抱く恐れを、他人への思いやりへと変えてしまうことができるのだと、彼女は言う。

「とにかくその場の雰囲気をがらりと変えるパワーがあるの。本当に威張ったところがなくて、キャストの間にいいムードをつくるためなら何でもする、という姿勢でいてくれる。彼女がそうだから、オープンで思いやりがある雰囲気が生まれたわ。私も、しっかり支えてもらえているという安心感があった」

HBO話題のドラマ「ユーフォリア」では不安定なティーン、ルーに扮する。 Photo: Capital Pictures/amanaimagesImage supplied by Capital Pictures

ゼンデイヤの友人関係は、今のところ「ユーフォリア」のキャストが中心のようだ。友人たちとポラロイドで撮った写真は、自宅の階段近くの壁にテープで貼りつけられている。この、「ウォール・オブ・フェイム」には、スパイダーマンを演じるトム・ホランドの顔も見える。時間ができると、仲間たちを引き連れて夜に映画を見に出かけたり、家でゆっくり過ごしたりするという。

犯罪実録物のポッドキャストをまとめて聞く(なかでも犯罪の真相を解明するシリーズ「シリアル」のファンだそうだ)、あるいはネットフリックスの作品を次から次へと見る、といった、ミレニアル世代の若者なら誰でもやっているような時間の過ごしかただ。先日もハンターと、それぞれの自宅でネットフリックスのドキュメンタリー「白昼の誘拐劇」を同時に見ながら、あまりの恐怖にだんだん引きつっていく自分の顔を撮ったセルフィーを交換したという。

モデルとして数々のショーに出演するかたわら、LGBTQの権利を守る活動も行ってきたハンターは、「ユーフォリア」への出演が決まったとき、ノースカロライナ州の高校を卒業したばかりだった。そんな彼女が特に熱く語ってくれたのが、昨年の感謝祭にゼンデイヤが企画したディナーの話だ。「私にとっては家族と離れて過ごす、初めての感謝祭だったの。まだドラマの撮影中だったから。Zはキャスト全員をディナーに招いてくれた。キャストはみんな家族、というムードをつくってくれたことに、私はこれからもずっと、感謝し続けるわ」

最近になって、ゼンデイヤは自宅のダイニングルームに特注の長いテーブルを入れた。これは、去年の感謝祭のような、仲間たちとごちそうを囲む機会を、より洗練させた形で家でも設けるためだ。デリバリーのタイ料理を食べ終わると、話題は、ゼンデイヤのこの春夏の予定に移った。まずは「ユーフォリア」の残りのエピソードの撮影が控えていて、それが終わると『スパイダーマン』のプレスツアーで全世界を回る。

「日本に行くのが特に楽しみ。あとは、ローと私が今準備しているコレクションのルックもすごくいいものができてワクワクしているの。いや、ルックじゃなくてlewk(その人ならではの外見上の特徴を指すスラング)かな」と言って、彼女は笑った。

自らに制限を設けず未来への挑戦を続ける。

5月のメットガラのレッドカーペットでは、魔法使いに扮した盟友でスタイリストのロー(左)が杖を振るとドレスが変形・変色する、シンデレラドレスをまとって話題に。階段ではガラスの靴を落とす演出も披露し、ディズニーへのオマージュを捧げた。 Photo: Getty ImagesPierre Suu

さらに先の計画について聞くと、何をやりたいのか、自分でもまだ決められないのだと、素直な答えが返ってきた。「セレブリティの中で、面白いキャリアを選んでいるなと思うのは、ドナルド・グローヴァーね。限界を設けず、何でも好きにやっている。しかも、何をやっても、ディープになるんだから」

ローチはこんなことも言っていた。「この業界では、Zのような若い女の子は、周りから隔離されることもある。そんなに悪いことじゃないよ。攻撃を受けないで済むし。頼りになる人が誰か、わかっていれば大丈夫なんだ。若いころは、僕と彼女のお父さんという、腕っ節の強い黒人男性が2人、いつも彼女に付き添っていた。でも今は、彼女自身が成長すべきタイミングだよ」

その後は、なぜかタロット占いをやろうという話になった。前日に、私はLAに最近増えているクリスタルとお香を売る店のひとつで、初心者用のタロットカードを買ったのだが、このカードがハンドバッグに入ったままであることに気づいたのだ。タロット占いの経験はないというゼンデイヤは、興味津々の様子だ。占いのやり方もまったくわからないんです、と断りを入れたが、それでも彼女が乗り気だったので、7枚のカードを引いて広げた。

「近い将来」を示すカードに、ショッキングな出来事が起きる可能性と、休息を求めるサインが出ると、彼女とアイシスは意味ありげな視線を交わした。おそらく、彼女にとって今は、ゆっくりと花の香りを堪能すべき時期なのだろう。

「2歳のときに、おじいちゃんおばあちゃんが占い師に頼んで、私のオーラの色を占ってもらったことがあるの」と、ゼンデイヤは打ち明ける。その隣では、次は自分の運命を占おうと、アイシスがカードをシャッフルしている。「私のオーラは大半が紫色だったんですって。これは、クリエイティブな才能を示す色。そこに少しだけ緑が混じっていて、こちらは実務的な能力。ビジネスってことね」

ここでアイシスが「準備ができた!」と割って入る。だが、デイヤおばさんの話はそのまま続いた。「当たってるのか全然わからないけど、祖父母の話では、オーラリーディングをしていた占い師は、私の写真を長い間、じっと見つめていたんですって。そしてようやく視線を上げると、こう告げたそうよ。『この子は、それこそあなた方が生きている限り、驚くようなことをやり続けるだろう』って」

Text: Maya Singer