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「子どもたちは可能性に満ちている!」──教育格差の是正に情熱を注ぐソングライターのジョン・レジェンド。【社会変化を率いるセレブたち】

グラミー賞やエミー賞、アカデミー賞など、輝かしい受賞歴を持つシンガーソングライターのジョン・レジェンド。彼が目指す、すべての子どもたちの潜在能力を最大限に引き出す教育のあり方とは?
15歳の少年が描いた、社会正義の夢。

2020年2月に開催されたアカデミー賞授賞式に出席したジョン・レジェンド。Photo: Toni Anne Barson / Getty Images

シンガーのジョン・レジェンドは、「質の高い教育は貧困のサイクルを断ち、だれもが自分の可能性を最大限に発揮できる社会づくりにつながる」という信念のもと、教育改革に全霊を注いできた。2007年に立ち上げたショー・ミー・キャンペーン(Show Me Campaigne)では、教育者たちによって新しく考案された学習方法を学校やコミュニティの中で積極的に実践し、効率的かつ公平なカリキュラムづくりを追求する教師たちをサポートしてきた。

はじまりはジョンが15歳の時だ。エッセイコンテストに出場した彼は、自身の夢をこう綴った。

「私は世界的なスターになる。そして獲得した自分の影響力とリソースを使って、地域社会に還元し、社会正義と平等を促進したい」

2020年3月、子どもの権利を守る団体のイベントでパフォーマンスした。Photo: JC Olivera / Getty Images

並々ならぬ情熱が込められたエッセイは優勝を飾り、この思いを貫き続けた結果、前述したキャンペーンとしてかたちになったのだ。彼はアメリカのオンラインメディア『ハフポスト』に執筆した記事の中で、教育に対する思いをこう記している。

「高校の卒業式で、演壇に立った時のことを私は今も鮮明に思い出します。新入生オリエンテーションのときと比べて人数は激減し、同級生の半数が中退してしまったことを目の当たりにした瞬間でした。現在も、アメリカに暮らすすべての若者が公平に質の高い教育を受けられているわけではありません。一方で、私は希望を感じています。なぜなら、教師という素晴らしいイノベーターたちに私は出会ってきたからです」

そしてジョンは、彼が絶大な信頼を寄せる高校時代の恩師ボーディ先生の名前を上げ、こう続けた。

「彼女の英語の授業を受けるまで、私は自分の作家としての能力を信じていませんでした。彼女は私の可能性に気づき、創造性や情熱を持って、私にもものを書けるということを教えてくれました。私に挑戦することを促し、自分のスキルに自信を持てるようにしてくれました。その後、私はペンシルバニア大学の奨学金を得ることができ、英語を専攻することで文章を磨くことができました。シンガーソングライターとしての成功を手に入れるまで、私を後押ししてくれたのがボーディ先生なんです」

子どもたちの可能性を引き出す、教育方法の追求。

ケネディーセンターにて高校生らと歌を披露。Photo: Sarah L. Voisin / Getty Images

すべての生徒に自分だけの「ボーディ先生」を持ってほしいと願ったジョンは、ナショナル・ライティング・プロジェクトマッカーサー基金とのパートナーシップのもと、2014年に教育者を支援する新事業LRNGイノベーターズを設立した。LRNGでは、教育者たちがアプローチしたい学習課題を募り、その課題を解決するソリューションを多角的な視点から設計する。

「LRNGを通じて、生徒の創造性や独創性を育む教育を築くべく、強力で拡張性のあるアイデアを持った素晴らしい先生たちにお会いしてきました。プログラムに参加した子どもたちは、自分でも知らなかったスキルや興味関心を解き放ちます。すべての親は、子どもに学校で学び、興味を探求し、力をつけてほしいと願っていると思います。私は、子どもたちがそれを実現できるよう心血を注ぐ先生たちと、一緒に仕事ができることが嬉しいんです」

2人の子どもをもつ父親でもある。Photo: Gotham / Getty Images

そんな活動の一部が垣間見られるビデオが2017年9月に公開された。オハイオ州の17歳の青年、ロレンスは、自分の物語を自分の言葉で語る方法としてラップを始め、音楽制作に取り組んでいる。ロレンスは、ラーニングラボYOUmediaで音楽が専門のメンターからサポートを受けながら、歌、ラップ、ビートメイキングのスキルを磨いている。ここで、誰もが音楽編集を学べるようにとメンターが採用しているのが、LRNGが設計した音楽制作を学ぶための編集プレイリストだ。ロレンスたちはここで音楽制作の経験を重ねた結果、スヌープ・ドッグ、カニエ・ウエストなどを手がけてきたLA在住の音楽プロデューサー、Man-Manからオンラインでレクチャーを受けるまでに成長した。ビデオ収録時にはジョンもサプライズで参加し、ボーカルパフォーマンスのレッスンを直々に行った。ジョンは子どもたちの輝く瞳を見つめ、教育の未来についてこう語る。

「ソングライター志望の生徒が文章力を養ったり、ゲーム好きな子どもがコーディングやコンピュータサイエンスにまで興味を広げるなど、教師は生徒の可能性を呼び覚まし、育成する立場にあります。アメリカには400万人の教育者がいますが、彼らの教育力をもっと活かせば、想像を超える大きな力になるはずです。私たちが教育者たちと手を携え教育環境をよりよく変えることができれば、生徒たちの挑戦の幅を広げ、未来の世代に豊かな世界を継承させることができると、私は確信しています」

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Text: Aiko Iijima Editor: Mina Oba