男性優位社会で長らく「とるにたらない」と多少真実をねじ曲げて語り継がれてきた女性たちの“私の物語”を、女性が主体となって語り直す。今、映画やドラマ界を賑わせているのが、女性クリエイターが生み出す、嘘偽りのない“彼女たち”の物語だ。
まだ女性が社会で活躍しづらかった19世紀後半、『若草物語』の作者であるルイーザ・メイ・オルコットは、生涯独身を貫き、結婚よりも小説を書くことを望んだ自身とその姉妹たちの人生を、ジョー率いるマーチ4姉妹に託して世に出した。映画『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』で、監督のグレタ・ガーウィグは、ジョーをオルコットとグレタ本人のアバターとし、原作とは異なるシーンを加えている。ジョーが書く小説のなかで、当時の女性の幸せとされる選択をすることと引き換えに、彼女は著作権を管理し、小説家としての道を切り開くのである。
ドラマ「アンオーソドックス」の主人公、17歳のエスティも、現代の超正統派ユダヤ人社会で、古典的なよき嫁よき母であることを押しつけられるあまり、ありのままの自分でいられる居場所を求めてドイツへと逃亡する。彼女が体現しているのは、同名原作の著者デボラ・フェルドマンが通過した人生の一部でもある。
また、女性の生きづらさを描き、韓国で社会現象を巻き起こした『82年生まれ、キム・ジヨン』も、監督キム・ドヨンは、自身を含む読者らと原作者チョ・ナムジュを主人公ジヨンに重ねる。そして、ジヨンに原作にはない主体性のある選択をさせることで、“私の物語”を完成させた。その選択を支えるのが、多様なバックグラウンドを持つジェネレーションを超えたシスターフッドだ。
1990年代後半のオハイオ州を舞台に、秘密をかかえる女性たちのヒリヒリした関係と連帯を繊細にあぶり出す「リトル・ファイアー~彼女たちの秘密」。白人富裕層の妻と黒人貧困層のシングルマザーとしてバトルを繰り広げるリース・ウィザースプーンとケリー・ワシントンが、原作に惚れ込み、共にプロデューサーとして映像化を実現させた作品だ。
リースのプロデューサーとしての活躍は目覚ましく、「ザ・モーニングショー」でも、ジェニファー・アニストンと共に製作指揮を担当。真実を求めて牙を剥きまくるブラッドリーと、男社会をうまく泳いできたアレックスという世代の異なる真逆な二人が一触即発状態ながらも手を取り、業界に蔓延する権力構造に中指を突き立てる様を痛快に見せている。
“私の物語”を生み出すための男女平等な現場づくりをサポートするパワフルな女優は続々と増えている。『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』は、女優オリヴィア・ワイルドの長編監督デビュー作。ガリ勉のモーリーとレズビアンのエイミーが、卒業最後の日を前に4年間の高校生活のおいしいところを取り戻そうとパーティーに繰り出すというコメディ。童貞男子のおバカコメディは山のようにあるけれど、処女喪失を目指す優秀な女の子のおバカコメディはなかなかない。勤勉で真面目な女の子だって、チャラくてイケてる女の子だって性欲はあるし、同じように傷つきやすいものだ。親友である彼女たちはふざけながらも「眩しくて目が潰れそう」とか「最高にクール」とありのままの自分を認め合う。
痛みを分かち合う女性の連帯があってこそ、“私の物語”が価値のあるものとして語り継がれるのだろう。
Text: Tomoko Ogawa Special Thanks: Rieko Shibazaki Editors: Mihoko Iida, Toru Mitani, Masayo Ugawa