CHANGE / DIVERSITY & INCLUSION

女性のエンパワーメントが凝縮するドラマ&シネマ6選。

男性社会だった映画業界に女性のパワーが宿るようになり、ドラマや映画でもその傾向が。女性クリエイターたちが生み出す等身大の女性らしい生き様は、たくましく傷つきやすく多様で、あらゆる可能性に満ちている。

男性優位社会で長らく「とるにたらない」と多少真実をねじ曲げて語り継がれてきた女性たちの“私の物語”を、女性が主体となって語り直す。今、映画やドラマ界を賑わせているのが、女性クリエイターが生み出す、嘘偽りのない“彼女たち”の物語だ。 

自分の道を果敢に切り開く若き女性たち。

『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』
南北戦争時代に力強く生きるマーチ家の4姉妹が織りなす物語を、次女ジョーの視点で瑞々しく描く。作家志望の次女ジョーをシアーシャ・ローナン、長女メグにエマ・ワトソン、末っ子エイミーをフローレンス・ピュー、ローリーをティモシー・シャラメ、4姉妹の母をローラ・ダーン、伯母をメリル・ストリープが演じ、豪華キャストが物語を彩る。全国公開中。


まだ女性が社会で活躍しづらかった19世紀後半、『若草物語』の作者であるルイーザ・メイ・オルコットは、生涯独身を貫き、結婚よりも小説を書くことを望んだ自身とその姉妹たちの人生を、ジョー率いるマーチ4姉妹に託して世に出した。映画『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』で、監督のグレタ・ガーウィグは、ジョーをオルコットとグレタ本人のアバターとし、原作とは異なるシーンを加えている。ジョーが書く小説のなかで、当時の女性の幸せとされる選択をすることと引き換えに、彼女は著作権を管理し、小説家としての道を切り開くのである。 

「アンオーソドックス」
NYの超正統派ユダヤ社会で生まれ育ち、お見合い結婚をしたエスティ(シラ・ハース)は、虚しい結婚生活と子どもに恵まれないことを責められる日々に疲れ、自由を求めてベルリンの地へ飛び立つ。監督はドイツ人女優のマリア・シュラーダー。企画、脚本、製作総指揮も全て女性が手掛けている。Netflixにて独占配信中。Photo: Anika Molnar/Netflix


ドラマ「アンオーソドックス」の主人公、17歳のエスティも、現代の超正統派ユダヤ人社会で、古典的なよき嫁よき母であることを押しつけられるあまり、ありのままの自分でいられる居場所を求めてドイツへと逃亡する。彼女が体現しているのは、同名原作の著者デボラ・フェルドマンが通過した人生の一部でもある。

人種差別や女性の生きづらさと向き合う。

『82年生まれ、キム・ジヨン』
平凡な女性の人生を通して、現代の韓国で女性として働くこと、結婚し母になることの生きづらさを丁寧に綴る。育児と家事で追い詰められ、心が壊れていくジヨンをチョン・ユミが、コン・ユが夫デヒョンを演じる。原作はヒットした同名の小説。監督は短編映画で注目された女性監督キム・ドヨン。10月9日より新宿ピカデリーほか全国公開。Photo: © 2020 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.


また、女性の生きづらさを描き、韓国で社会現象を巻き起こした『82年生まれ、キム・ジヨン』も、監督キム・ドヨンは、自身を含む読者らと原作者チョ・ナムジュを主人公ジヨンに重ねる。そして、ジヨンに原作にはない主体性のある選択をさせることで、“私の物語”を完成させた。その選択を支えるのが、多様なバックグラウンドを持つジェネレーションを超えたシスターフッドだ。 

「リトル・ファイアー 〜彼女たちの秘密」
アジア系アメリカ人作家セレステ・イングによるベストセラーのドラマ化。90年代の裕福なリチャードソン一家に、貧しいミアと娘のパールが越してきたことで巻き起こるサスペンス。多様な人種が交差する中、特権意識を持つ白人役を自ら買って出たリース・ウィザースプーンの熱演にあっぱれ。Amazon Prime Videoにて独占配信中。Photo: © Best Day Ever, Inc.


1990年代後半のオハイオ州を舞台に、秘密をかかえる女性たちのヒリヒリした関係と連帯を繊細にあぶり出す「リトル・ファイアー~彼女たちの秘密」。白人富裕層の妻と黒人貧困層のシングルマザーとしてバトルを繰り広げるリース・ウィザースプーンケリー・ワシントンが、原作に惚れ込み、共にプロデューサーとして映像化を実現させた作品だ。

「ザ・モーニングショー」
朝の情報番組のキャスターがセクハラ問題で解雇され、型破りなジャーナリスト、ブラッドリー(リース・ウィザースプーン)とトップの座を譲るまいと奮闘するアレックス(ジェニファー・アニストン)らが、マスコミ業界の旧態依然とした体質に変化をもたらす。男性優位な闇の中で奮闘する姿が印象的。豪華キャストでApple TV+にて独占配信中。Photo: Apple TV+


リースのプロデューサーとしての活躍は目覚ましく、「ザ・モーニングショー」でも、ジェニファー・アニストンと共に製作指揮を担当。真実を求めて牙を剥きまくるブラッドリーと、男社会をうまく泳いできたアレックスという世代の異なる真逆な二人が一触即発状態ながらも手を取り、業界に蔓延する権力構造に中指を突き立てる様を痛快に見せている。

自らを解放していく、という行為。 

 『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』
優等生であることを誇りにしている親友同士のエイミー(ケイトリン・ディーヴァー)とモリー(ビーニー・フェルドスタイン)が、卒業前夜、パリピの同級生も名門大学に進学することを知り逆ギレ。失った時間を取り戻すべく卒業パーティーに乗り込む。8月21日よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか順次公開。Photo: © 2019 ANNAPURNA PICTURES, LLC. All Rights Reserved.


“私の物語”を生み出すための男女平等な現場づくりをサポートするパワフルな女優は続々と増えている。『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』は、女優オリヴィア・ワイルドの長編監督デビュー作。ガリ勉のモーリーとレズビアンのエイミーが、卒業最後の日を前に4年間の高校生活のおいしいところを取り戻そうとパーティーに繰り出すというコメディ。童貞男子のおバカコメディは山のようにあるけれど、処女喪失を目指す優秀な女の子のおバカコメディはなかなかない。勤勉で真面目な女の子だって、チャラくてイケてる女の子だって性欲はあるし、同じように傷つきやすいものだ。親友である彼女たちはふざけながらも「眩しくて目が潰れそう」とか「最高にクール」とありのままの自分を認め合う。

痛みを分かち合う女性の連帯があってこそ、“私の物語”が価値のあるものとして語り継がれるのだろう。

Text: Tomoko Ogawa Special Thanks: Rieko Shibazaki Editors: Mihoko Iida, Toru Mitani, Masayo Ugawa