19世紀の小説「シャーロック・ホームズ」シリーズのファンの間に始まり、現代は交流サイトやSNSで盛んにグローバルなファンダム・コミュニティが形成されている。世界最大級のファンダムのプラットフォームFandom.comは250万人が利用。35%がアメリカ、残りがそれ以外の国や地域の在住者で、2020年には利用者数が前年比40%の伸びを記録した。日本のアニメ、Kポップ、韓国ドラマの分野の成長がめざましく、ヨーロッパでは特定の小説に関するコミュニティが人気だ。人種や性別、年齢、肩書などで判断されずに、“何か/誰かのファン”という共通点で国境を超えてつながり合い、安心して好きな世界に浸ることができる。
イギリス・チェスター大学のマーク・デュフェット教授(メディア学)によると、ファンダムという言葉が最初に広まったのは19世紀末で、ラジオや映画館、新聞雑誌など近代のメディアを通して大衆に浸透した音楽や映画、大衆小説などの分野で用いられた。これらの文化現象はレコードの売り上げやライブ演奏の反応といった「ファン」の動きが目に見えやすい。従来のクラシック音楽や古典文学などの“高級文化”と区別して、ファンダムは“低級文化”に属するという偏見も生まれた。しかし、ファン・フィクションや自主映画など、ファンダムが新たなクリエイションをもたらしている現象は見逃せない。「ファンダムはカルト集団のようだ、資本主義に踊らされて搾取されているだけだという批判がありますが、それは偏見です。ファンダムは参加型の文化であり、ファンが消費者に終わらず文化の創造者にもなれる可能性を与えてくれます」とデュフェット教授は述べる。「ファンは表現者の味方であり、業界の搾取や思惑から表現者を守ることで表現の自由を助け、さらには既存の価値観を崩す原動力にもなりうる。また、団結力を生かし、参加型の対抗文化として既存の文化を変える力も秘めています」
ジョージ・ワシントン大学のキャサリン・ラーセン教授(メディア学)によれば、ファンダムの最も重要な要素は、ファン同士の対話だ。「日本ではユーチューバーがファンに性的画像を送らせた事件がありましたが、これはどの世界にもつきものの一部の犯罪者の問題で、本来のファンダムはもっと健康的なもの。たとえば吸血鬼映画好きを友達や家族には内緒にしていた女子高校生が、ネットでグローバルなファンに出会い、孤独を脱したという逸話があります。人が何かに夢中になるのは自然なことで、アイデンティティの形成につながります。また、仲間を見つけることは、帰属意識や、視野を広げることにもつながります」 教会や近所付き合いといった伝統的なコミュニティの結束が弱まる中で、ともすれば孤立しやすい現代人にとって、ファンダムは大きな恩恵をもたらす可能性を秘めているのだ。
Main Text: Reina Shimizu Editor: Yaka Matsumoto Special Thanks: Azumi Hasegawa
Also on VOGUE JAPAN: