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「プラントベース」フードは地球を救う? 【コトバから考える社会とこれから】

気候変動への懸念の世界的な高まりによって、近年市場を急拡大させている「プラントベース」フード。意識的かつ積極的に植物性の食品を摂取することで、私たちは地球環境を守ることが可能なのか。

スーパーにならぶ米ビヨンド・ミート社の製品。同社は2019年に代替肉企業初の上場(NASDAQ)を果たした。今年2月にはKFCなどを有するヤム・ブランズ、マクドナルドとの契約も発表。Photo: Getty Images

気候変動対策が叫ばれ、サステナビリティに対する意識が高まる中、新たに注目されている言葉がある。「プラントベース」だ。マサチューセッツ大学アマースト校食品学部のデイビッド・マックレメント特別教授によると、「プラントベースとは果物や野菜、ナッツ、豆果、全粒穀物などの植物由来の食べ物、または食事法のこと」で、動物性食品の非摂取は意味しない。人気上昇の最大の理由は、気候変動への懸念だ。「肉の生産や畜産農業はコーンなどの家畜の餌を作るために、森林伐採をして土地を切り開き、大量の水を消費する。肉の生産に伴う温室効果ガスの排出と汚染は深刻です」。特に若い世代に人気なのは、動物愛護や気候変動への懸念度が旧世代よりも高いからだと話す。

オックスフォード大学の研究員、ジョセフ・プーア教授が学術誌『サイエンス』に発表した研究によると、気候変動対策の最も効果的な方法は、プラントベースフードに切り替えることだという。食肉や乳製品の農場をカットした場合、現在の農業の土地利用は75%以上減少する。全世界に存在する農地の83%は食肉と乳製品を生産するために使用され、これは農業が排出する温室効果ガスの60%を占める。温室効果ガスの排出を防ぐため、フライトの利用を減らしたり、電気自動車に乗り換えるよりも、単純にプラントベースフードに切り替えるほうがより気候変動対策に効果的だと結論づけた。

またパンデミックで人獣共通感染症のリスクが露呈したが、植物由来の食物が浸透すれば、動物と人のコンタクトも減り、このような危険を回避できる可能性が高まると、マックレメント教授は説く。

3D食品プリンターでつくるプラントベースなタンパク質。

マックレメント教授が所属するマサチューセッツ大学アマースト校の大学院は、米国の食品学研究をリードする存在で、プラントベースフードの研究を多く行う。プラントベースの3Dプリンターも開発中で、インクの代わりに炭水化物やプロテインを注入すると、プラントベースフードが仕上がる仕組みなのだとか(写真は同大学院提供)。「研究が進むシンガポールやオランダでは数年後に未来的フードとして世に出る可能性が極めて高い」と同教授。Photo: Zhiyun Zhang, Hung Pham, Kanon Kobata and Julian McClements, University of Massachusetts

肉や魚、卵、牛乳の動物由来の食べ物をプラントベースに置き換えた食事法も注目を集めている。肉の代用として「キャロットホットドッグ」や「マッシュルームバーガー」など、野菜を使う料理法が定着してきた。一方で、肉を生産する畜産業は、実は増加傾向にある。「人は所得が増えるほど、動物由来の食べ物を消費する傾向がある。生活が豊かになることで、今まで肉を買う余裕がなかった層が増える。人口増加に伴い、今後も増加傾向が予想されます。それを防ぐには、プラントベースの食べ物がより浸透する必要があります」。しかし、それには多くの課題がある。プラントベースフードが美味しくないと、消費者の間で定着することはない。植物由来のパテである「インポッシブルバーガー」などはその味にも定評があるが、「動物由来のパテと同等のレベルと値段、もしくは低めの価格設定だったときに初めて、人は環境に負荷をかけない、プラントベースのほうを手に取る」とマックレメント教授は指摘する。

UKの最年少セレブシェフが提案するミートレス給食。

先日13歳を迎えたキッズセレブシェフ、オマリ・マックイーン。YouTubeでレシピを投稿するかたわら、8歳でヴィーガンディップの製造・販売会社を起業し、今はレストランや料理番組も持つヴィーガンシェフとして活躍する。食生活の啓蒙活動にも熱心で、現在は英ヴィーガンブランドのMeatless Farm社とコラボし、英国各地の学校で提供される「子どもによる子どものための」プラントベース給食のメニュー開発にも取り組んでいるという。Photo: Omari McQueen - Vegan Chef (@omarimcqueen) / Instagram https://www.instagram.com/p/CPDAApapsml// (Omari McQueen)

気候変動のために個人ができる対策として、肉を断つことは効果的だろうか? 「少しの努力でも大きな変化になりえます。週に食べる肉の量を減らすだけでも、環境に対してポジティブな影響が期待できます。世界中の科学者がプラントベースフードの栄養素やレベルを改善しようとしています。消費者にとって、幅広い高品質の植物由来のフードが充実すれば、より普及するでしょう」

Main Text: Azumi Hasegawa Special Thanks: Reina Shimizu Editor: Yaka Matsumoto