CHANGE / DIVERSITY & INCLUSION

「アンコンシャスバイアス」を意識して、ヘイトのない社会へ。【コトバから考える社会とこれから】

ヘイトにあふれた差別はもちろん罪深いが、すべての人や社会に根深く存在する、無意識の思い込みや偏見、 「アンコンシャスバイアス」に起因する問題が表面化する今、その対策が求められている。
約2分間のCMが描く、日常に潜む「アンコンシャスバイアス」。

7月28日に今年のエミー賞のノミネーションが発表され、CM部門のファイナリストには、主人公の黒人男性が日常的に向き合うアンコンシャスバイアスをテーマにしたProcter & Gamble(P&G)社の“TheLook”ほか4作品が残った。一切のセリフが排除されたこのCMは、同社の施設でのエデュケーショナルツールとして作成されたもの。YouTubeサイトでもフルバージョンが視聴できる。https://www.youtube.com/watch?v=aJav36Nbn58 Photo: Courtesy of Stink Films

「無意識を意識しない限り、物事を運命だと勘違いするだろう。人は潜在意識によって行動するものだから」というユングの言葉がある。

行動データ科学者でインクルーシビティ・コンサルタントのプラギャ・アガワル氏は、近年よく耳にする「アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)」という言葉の定義を、「自覚していない、頭の中に存在するバイアス」だと語る。ヘイトスピーチのように自覚して公言する偏見ではなく、無意識のうちに、人種や性別、年齢に対して、瞬時に抱いてしまう偏見だ。

RunRepeat.comが、PFA(The Professional Footballers' Association)とともに欧サッカーの2019/20シーズンの80試合を対象に行った調査の結果、報道コメントに潜むアンコンシャスバイアスが可視化された。同様のプレイをした場合、肌のトーンが明るい選手だと知性やスキル、テクニックが称賛されがちなのに対し、肌色の濃い選手の場合は、パワープレイやフィジカルの強さが強調されるコメントの比率が高まる傾向にあったという。Photo: Getty Images

自分の子どもがいちばんかわいい、好きなサッカーのチームのユニフォームを着ている人に親近感が湧く、といった経験がベースになったバイアスには、社会的な影響はなく、それ自体には特に問題はない。問題となるのは、医療に従事する人が「有色人種は痛みを大げさに表現する」と思い込むことや、雇用者側が応募者の名前や話し方のアクセントに瞬時に抱いてしまう先入観などだ。

アガワル氏は「アンコンシャスバイアスは誰にでも存在し、完全に取り除くことは不可能」だと続ける。「多くの差別や偏見はステレオタイプが原因で、これをもとに、他者の人柄や仕事の能力を瞬時に判断しがちだが、それは極めて危険なこと。単一民族だけで構成される社会の方が、“他者”への恐怖と偏見を抱きやすい傾向にあるものの、バイアスは世界中に存在する」とも。一方で、子どもは大人ほどステレオタイプを持たない。成長する過程で、バイアスをつくらないように幼いときから教育することが重要だと説く。

発達心理学者のリン・ライベン教授は、保育現場や幼少教育の場で、子どもたちを男女別に並ばせたり、「男子」や「女子」などと総称することが、「女の子は人形で遊ぶべき」「男の子は工具を使うべき」などといった性に対する先入観を植えつけるきっかけになることもあると指摘する。

ミシガン州知事が医療現場でのバイアス研修を義務化。

新型コロナウイルス関連死の割合の40%を黒人が占めるミシガン州では(州人口における黒人比率は14%)、その背景に医療従事者のアンコンシャスバイアスが関係しているとして、7月に同州知事が医療従事者へのバイアス・トレーニングの義務化を発表した。米医療現場に蔓延するバイアスは、有色人種に対してだけでなく、性別、体型などにも及ぶとされるが、「問題は、その差別や偏見があまりにも無意識に行われていること」だとの指摘も。Photo: Michigan Office of the Governor via AP, Pool /AFLO

昨今、多くの企業や組織で「アンコンシャスバイアス・トレーニング」が実施されている。自身が持つ偏見の度合いを調べる「IAT」と呼ばれるテストも存在するが、アガワル氏はこのシステムに頼りすぎることには、やや懐疑的だ。「残念ながら、テストやトレーニングを数時間受けただけで、アンコンシャスバイアスが消失するわけではないからです」

では、より有効な手段は? 最も簡単な方法は、自分自身で地道に行う、思考エクササイズかもしれない。コロラド大学のイリーナ・ブレア教授の研究では、まず「強い女性」など、お題を決めてその人物をイメージする。なぜ彼女が強いのか、彼女には何ができるのか、容姿と性格を具体的に思い浮かべるだけでも、普段自分が意識していない先入観を認識し、バイアスを軽減できるという。

前述のアガワル氏も、常日頃から、「男の子は恐竜が好き」とグループ分けしてその集団の特性を語ろうとするのではなく、「この子は計算が得意だ」と個人にフォーカスした思考や話し方を心がけることを推奨する。ユングの言葉を引いて、個々が日常的に「無意識を意識化する」ことで社会の変化を促したい。

Text: Azumi Hasegawa Editor: Yaka Matsumoto