FASHION / TREND & STORY

“あえてのユーズド感”がトレンド入り? バレンシアガの最新スニーカーから紐解く、ファッションの新たな価値。

バレンシアガ(BALENCIAGA)が5月上旬、新作スニーカー「Paris Sneaker」を発表。そのキャンペーンヴィジュアルにはボロボロに使い古されたハイカットスニーカーが起用され、たちまち話題に。このようなユーズド感は度々トレンドに浮上するが、なぜ私たちは惹かれるのだろうか? ──ファッションならではの価値とともに考察する。

「Paris Sneaker」のキャンペーンヴィジュアル。Photo: Courtesy of Balenciaga

バレンシアガ(BALENCIAGA)が5月上旬、新作スニーカーを衝撃的なヴィジュアルとともに発表。「Paris Sneaker」と名付けられたこのキャンペーンには、何年も履き潰され破壊されたようなボロボロの見た目が採用された。画像が公開されると瞬く間にネット中で話題に。キャンペーンはスニーカーが長く着用されることをイメージし制作され、同様のダメージが施されたものは実際に販売されることはない。

実物の「Paris Sneaker」は、程よいユーズド加工が施されたキャンバス地のデザイン。ヴィンテージのような風合いに仕上がっており、ハイトップ(4色、77,000円)、ロートップ(3色、69,300円)、バックレス(3色、61,600円)の3種類で展開される。なかでも、ハードなダメージが施され、ソール部分にメゾンのロゴがグラフィティのようにあしらわれた「Destroyed Sneaker」は、オンラインのみで限定100足、224,400円で発売された。

使い古し=現代の富の象徴?

グッチ 2018年リゾートコレクションより。Photo: Getty Images

“あえてのユーズド感”を施したスニーカースタイルは、ここ数年でトレンドになっている。バレンシアガ(BALENCIAGA)のデムナは数年前、当時手がけていたヴェトモン(VETEMENTS)で中古風のスニーカーを打ち出した。さらに、グッチ(GUCCI)も過去にダメージ加工の白スニーカーを発売し、サンローラン(SAINT LAURENT)もグラフィティペイントを配したタイプを発表している。そしてゴールデングース(GOLDEN GOOSE)は、汚れ加工を施したスニーカーそのものがシグネチャーアイテムだ。

このトレンドは、ファッション界で浮上する度に物議を醸す。なぜなら、世界にはきれいなシューズを購入できない人だっているからだ。面白いことに、“ユーズド感”は個人がすでに望むだけの成功を収め、これ以上に自分を証明することに煩わされないような富を象徴することもある。セレブ界でいうと、オルセン姉妹は使い古され、色褪せたバッグを好んで愛用している。またアダム・サンドラーは独自のラフなスタイルを貫き、2021年に最も検索されたトレンドセッターとなった。

コミュニティーに属していないと伝わらない価値。

タイムレスなバッグを愛用するメアリー・ケイト&アシュリー・オルセン姉妹。Photo: Getty Images

その奇妙な富の象徴は、ファッショニスタのみぞ知るアイテムに焦点が当てられがちだ。ファッション界における“ダメージ”は、特にビッグブランドのアイテムならば、本当に使い古したTシャツやスニーカーとは意味が異なる。ファッションと心理の関係性を研究した著書「 The Psychology of Fashion(原題)」を発表した心理学者、キャロライン・メイアーはこのように分析する。

「ファッションは一種のコミュニケーションツールで、人々が思うほどシンプルなものではない。例えバレンシアガの最新作を纏っていたとしても、相手がその価値を知らなければ、アイテムの意味や人が選ぶ理由を理解することはできません。でも、ファッション好きのコミュニティーの中でなら、バレンシアガの価値を察知し、そのアイテムがある種のステータスシンボルであることが伝わる。ファッションの場合、互いの価値観や興味が一致していなければ、個人の抱く思いやメッセージが他人に伝わらないのです」

あえて飾らないスタイルを好むアダム・サンドラー。Photo: Getty Images

足もとは、コーディネートの大きなポイントであり、多くの人がチェックするところだ。「Journal of Research and Personality」に掲載された2012年の研究では、アメリカ人の性格と日常のあらゆることの関係性を掘り下げているが、ここには、シューズは着用者の富と社会的地位を映し出す指標になりうると記されている。表面的には、完璧に手入れされた靴は、その人の几帳面さを表し、シューズクリーニングや修理をする時間とお金を持っていることを意味する。しかし、ダメージスニーカーは、このセオリーを一蹴し、きれいなシューズが時代遅れでありユーズドがモードであると打ち出す。

いずれにせよ、バレンシアガの新作を手に入れなくても、すでに手もとにあるスニーカーを今まで以上に履き潰せば、トレンドに便乗することができるかもしれない。

Text: Liana Satenstein Adaptation: Sakurako Suzuki
From VOGUE.COM