バルマン(BALMAIN)のクリエイティブ・ディレクターに就いて12年目を迎えたオリヴィエ・ルスタンの2023-24年秋冬コレクションは、やはり「ルスタンによるバルマン」という印象が強く残った。しかし、前回とは劇的に異なっていたのは確かだ。シェールの登場はファンにとって嬉しいサプライズだったが、ファッションをチェックするプロたちにとっては厳しい挑戦だった。
そんな昨シーズンから一転、今回は彼流のやり方はそのままに、プレゼンテーションとプロダクトの両方でクラシシズムに軸足を移したようだ。そしてこれは今季の重要な特徴となりつつある。会場となったのは、パリ3区にある多目的文化ホール、ル・カロー・デュ・テンプル。2つのレザーベンチが平行に並び、5つの円形のソファが設置されたこじんまりとしたサロンに、合計220名ほどが来場した。
ルスタンはショーの前にこう述べた。「私は今季、親密なものを求めていました。5ヶ月のハードワークの後、この瞬間を楽しむために。原点に戻り、バルマンの新しいフレンチスタイル、そして私にとっての情熱である“ラグジュアリー”と“クオリティ”を表現したかったのです。私たちはソーシャルメディアなどの狂気に囲まれていますが、結局はクオリティに戻るのです。未来を理解するには、過去を理解する必要があり、このコレクションは間違いなく、私が働いているメゾンへのオマージュです」
奇才スティーブン・ジョーンズによるハットデザイン
バックステージには、ワンシーズンだけハットデザインを担当したスティーブン・ジョーンズの姿も。1959年に創設者のピエール・バルマンがデザインしたモヘアの浅い被りのハットや、レザーなどの素材を使った70年代風のベレー帽などは彼の手によるものだ。
ジョーンズはピエール・バルマンが1946年にブランドを設立する以前、クリスチャン・ディオールやユベール・ド・ジバンシィとともにルシアン・ロング社で働いていたことに触れた。なんて豪華なアトリエだったんだろうと、思わず想像を膨らませてしまった。
フレッシュに魅せるアーカイブデザイン
今回のコレクションは、アーカイブからの直接的なレファレンスを多く含んでいた。ルックNo.22のモノグラムデザイン、リボンやパールで描かれた水玉模様、ゆったりとしたネックラインに仕上げた脱構築的なテーラードなどがその例に挙げられる。
しかし、それらは全くと言っていいほど古さを感じさせない。例えば、ネオプレン素材を使ったセカンドルックは、ピエール・バルマンのオリジナルデザインを21世紀のテクノロジーと現代のクラフトでアップデートしたものだ。50年代のハリウッド黄金期に活躍した大女優、ローレン・バコールを想起させるオフショルダードレスは光沢のあるPVCのような素材で仕立てられ、美しいドレープを描いている。
古風ではあるが、ドラマチックなケープとそのスタイリングにも注目してほしい。テーラードにモヘアのケープを取り入れたルックのほか、ラストルックに至ってはピンやクリスタルを散りばめたケープのみで構成されていた。
ユニークなアクセサリーのアクセント
木製の厚底が話題となった昨シーズンに引き続き、今回もパールやサテンのプラットフォームシューズもいくつか発表されたが、可憐なリボンをあしらったフラットシューズやローヒールのパンプスも。特大トートや小さなスーツケースを段々にしたデザイン、そして工具箱のようなボックスバッグも添えられた。
大きなリボンが目を引くドレスや彫刻のように構築的なコルセット、ラズベリー色のテクスチャーロングコート、ボリューミーなキルティングのルックなどのステートメントピースなどには、ルスタンらしいひねりが光る。
ショーの後、ルスタンからフランク・シナトラの名曲「マイウェイ」の歌詞が送られてきた。「When there was doubt(疑いがあるとき)/ I ate it up and spit it out(それを食らいつくし 吐き出してやった)/ I faced it all and I stood tall(すべてに立ち向かい 堂々としていた)」──彼はまたいつか大掛かりなショーに戻ることを否定しなかったが、このメッセージが意味するのは「自分の心の声、魂の声に従うこと」。これまで同様、彼はバルマンを自分のやり方で表現したのだった。
Text: Luke Leitch Adaptation: Motoko Fujita
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