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地球に優しい第三のダイヤ。 「オーシャン・フロア・ダイヤモンド」って?

海底に眠る「オーシャン・フロア・ダイヤモンド」が今、急速に注目を浴びている。天然のものや、同じく関心を向けられている人工ダイヤとは何が違うのだろうか?   エシカル面でも優れ、輝きや耐久性も持つその神秘的な存在の謎を掘り下げる。

ナミビア沖合の海底には、無数のダイヤモンドが眠っている── それは類似品ではなく、れっきとした本物だ。鉱山で発掘される一般的なダイヤモンドと同じ鉱石が川に流され、数千年をかけて太平洋の海底に辿り着いたものを「オーシャン・フロア・ダイヤモンド」と言う。これは採取する際に人の手によって周辺環境を破壊することなく、水中から取り出せることから、より地球に優しいダイヤモンドとして期待されているのだ。

人口ダイヤに比べて人的介入などが抑えられる。

Photo: Instagram/@oceandiamonds_/Ocean Diamonds

ダイヤモンドの採鉱や加工を行う大手企業はすでにその存在を把握しており、ここ数十年間においてナミビア沿岸からその原石を調達してきたが、それを今までオーシャン・フロア・ダイヤモンドとして売り込むことはなかった。

海洋採掘分野でキャリアを積み、オーシャン・フロア・ダイヤモンドを専門とする貿易会社を経営するロバート・グッデンがその理由を解説する。彼によると、原因は大きく2つに分けられるそうだ。1つ目は、オーシャン・フロア・ダイヤモンドが大西洋の限られた海域でしか発見されず、世界のダイヤモンド生産量におけるごくわずかな割合しか占めていないということ。2つ目は、一つの企業が、オーシャン・フロア・ダイヤモンドと取扱量のほとんどを占める採鉱ダイヤモンドを区別した場合、消費者がどうしても見た目や希少価値などを比べてしまう可能性があるということだ。

さらに、人工ダイヤモンドと天然ダイヤモンドのどちらがエシカルなのか──  この世間を騒がす議論も、第三のダイヤモンドに注目が集まるのを後押ししている。かねてより、天然ダイヤモンドの採掘が環境や社会に与えるリスクについては問題視されてきた。しかし、人工ダイヤモンド製作のために必要とする膨大なエネルギーについての指摘も絶えない。両者ともに現段階では完璧ではないが、その一方でオーシャン・フロア・ダイヤモンドは人的介入や生態系破壊が抑えられるのは確かだ。グッデンはその可能性を見出し、数年前より海洋で産出するダイヤを独占的に収集、カット、研磨、販売する会社を起業した。

「私はロマンの観点から、オーシャン・フロア・ダイアモンドについて研究したかった。特別な存在のはずなのに、なぜ埋もれているのだろうと疑問に思ったのです。このダイヤは人と海をつなぐものであり、(大地から)切り取られたものではない。とても神秘的で、その存在には多くの消費者の興味も寄せている。私は、鉱石がどのように海底に辿り着いたのか、そのルートをはっきりさせたいと思っています」

明確なトレーサビリティー。

Photos: Instagram/@oceandiamonds_/ Ocean Diamonds

オーシャン・フロア・ダイヤモンドのトレーサビリティは、エシカルな生産性を重んじる今、大きなセールスポイントだ。グッデンのチームは、ナミビアで少人数のダイバー集団を雇い、彼らが小型ボートで沖に出て、海底をつたってダイヤを探し出す。「いつ、どこでその鉱石が発掘されたのか、発見者はどのボートに乗っていたか、その日はどんな天候だったかなど。ダイヤを見つけた人とその状況すべてを把握するようにしている」。彼がこう語るように、実際に鉱石が持ち帰られる全プロセスが丁寧に記録されている。対照的に、そのほかのダイアモンドを起用する大企業は、トレーサビリティが徹底していないのが現状だ。

地球にも自分にもより良い選択を。

Photo: Instagram/@azlee_/Azlee

このエシカルな可能性を見出し、ジュエリーに採用する数少ないブランドのひとつが、アズリー(AZLEE)だ。創設者で、レアカットダイヤモンドの専門家でもあるベイリー・ズワートは、この神秘的なストーンとの出合いをこのように語る。

「ジュエリー業界人に、オーシャン・フロア・ダイヤモンドのことを何度か尋ねたことがあったのですが、多くの人は『あなたは一体何の話をしているの?』という感じでした。その存在を説明すると、皆がとても驚くのです。私自身、オーシャン・フロア・ダイヤモンドの生成が可能だとは思えなかったのですが、目の当たりにしてみるとまったく新しいカテゴリーの宝石で圧倒されました」

2015年に創設されたアズリー(AZLEE)は、設立当初より売り上げの1%を海洋保護プロジェクトに寄付してきた。ズワード自身が熱心なサーファーでもあることから、海に負担が少なく、自然に還元できる素材を探っていたところ、グッデンの取り組みとオーシャン・フロア・ダイアモンドの存在を知ることに。そして現在では、コレクションの一部に採用しており、今後よりさらに展開予定だという。

Photo: Getty Images

Photo: Courtesy of Azlee

「オーシャン・フロア・ダイアモンドは、最も短く、そして最も透明性の高いサプライチェーンで調達されています。採鉱ダイヤの場合、完全な透明性を得るのは非常に難しい。私たちは信頼できる企業と協働していますが、消費者のトレーサビリティーへの関心が高くなり、ブランド側もそれをさらに重んじなければならなくなった。その責任を果たすためにも、自分たちが採用したものがどの鉱山に起源を持つのかを正確に知らなければならないのです。しかし、従来のダイヤには起源の証明書はなく、調達プロセスに完全な責任を持つのは難しい。そして、採掘が環境に影響を及ぼし続けているのも課題なのです」

オーシャン・フロア・ダイヤモンドは非常に優れた輝きと耐久性を持ち、抜群の品質も兼ねているのも、注目される理由の一つだ。

「これらダイヤは、嵐や川の厳しい流れをくぐり抜け、ようやく海に流れ着いたものばかりです。すなわち、切磋琢磨された石のみが海までたどり着ける。よって自ずと優れた耐久性持つようになるのです」

オーシャン・フロア・ダイヤモンドは、決して従来の採取法や人工ダイヤに対抗しようとしているわけではない。トレーサビリティと品質に優れた新たな選択肢を提案することで、議論が絶えなかったジュエリー業界に新風を吹かせているのだ。

Text: Emily Ferra
From VOGUE.COM