ハイダー・アッカーマンによるジャンポール・ゴルチエ(JEAN PAUL GAULTIER)の2023年春夏オートクチュールコレクションは、ランウェイに敷かれたアイスブルーのカーペットの上に魅惑的に浮かび上がった。シャープなテーラリングと美しいドレープを作り出すクチュリエたち。それらを纏い、身体を使って表現するモデルたち。すべてが調和し、デザインの高い価値に焦点が当てられているような演出だ。
アッカーマンは、バルマン(BALMAIN)のオリヴィエ・ルスタン、Y/プロジェクト(Y/PROJECT)のグレン・マーティンス、サカイ(SACAI)の阿部千登勢に続く4人目のゲストデザイナー。この中で最年長である彼は、ゴルチエの伝説的なメティエに応えるために招待されたとは思えないほど、異なる美学を持ったデザイナーと言えるだろう。ショーの直前、彼はこう語った。「私にはユーモアのセンスが全くない。私には重厚さがあり、ゴルチエには寛容さと喜びがある。私たちは2つの異なる世界にいるのです。しかし同時に、私たちは女性たちを敬愛しているという共通点もあります」
テーラリングがスタート地点
この共通点を引き出すための出発点となったのは、ゴルチエのテーラリングだ。「彼の作品のエッセンスに立ち返ること、それは完璧なスタート地点でした。人々は、彼のテーラリングがいかに完璧であったかを忘れているような気がする。彼の仕事は魔法のようだった。だから私は彼が描いた純粋なラインを見つめ、落ち着きと優雅さを携えたスタイルを見出そうとしました」
モデルたちはゆっくりと歩き出し、カメラの前でポーズをとる。まるで巨匠アーヴィング・ペンによる撮影が目の前で繰り広げられているかのような光景だ。ドラマティックなポージングは一昔前のオートクチュールのスピリットを思い起こさせた。
ショーのペースと親密な演出によって、シルエットやディテールのひとつひとつを間近で見ることが可能に。ブラックのテーラーリングの袖口からはホワイトやエメラルドグリーンのトリミングが、コンセプチュアルなカットからは素肌がのぞき、ミニマルな輪郭を描き出す。細身のパンツスーツには斜めのスラッシュが施され、ヒップには帯のようなカマーバンドが取り付けられたルックNo.21は、まさにアッカーマンとゴルチエの美学がひとつのルックで融合したような美しさだった。
カラーリストとしての才能
優美なドレープを描く色鮮やかなドレスだけでなく、ブラックのテーラリングには絶妙なコントラストを効かせたライニングが施されている。これはドレスメイカーとしてだけでなく、カラーリストとしてのアッカーマンの才能も証明するものだ。このような傑出したハイグラマーとシックなミニマリズムの両立は、なかなか見られるものではない。
また、今のハイファッションはどういうわけか、台詞ではなく身体や表情で表現するパントマイムにも結びついているようだ。そしてこのショーは、現代におけるオートクチュールのセンセーショナルな力を前面に押し出したと言えるだろう。
ゴルチエのオートクチュールを称えて
デザイナーの狙いは、オートクチュールの美学を服に落とし込むこと。彼はそれを見事にやってのけた。「ジャンポールが私の作品を気に入ってくれていることは知っていましたが、まさか自分がここでデザインを手がけることになるとは思っていなかった。私はもう長いことこの仕事をしています。普通なら、『若い世代に譲ろう』となると思うんですが」とアッカーマン。「私にとってデザインすることは、最も素晴らしいフィーリングのひとつ。私は自分の仕事が本当に好きなのですが、このコレクションを通じてさらにその想いが強くなりました。私とアトリエの女性たちとのラブストーリーのようなものです」と、その情熱を再確認できことを語った。
アッカーマンとゴルチエのコラボレーションはワンシーズン限り。「ここを後にするのは悲しい。でも、みんながそれぞれ抱えている問題を忘れられるような夢の10分間を作り、ゴルチエを称え、2023年のファッションに必要な何かを生み出すことができたなら、私は幸せです」。彼はこう語った言葉通り、そのすべてをやり遂げた。