編集O 最近、オートクチュール中のスナップをチェックしていたら、とにかくトレンチコートを着ている人が多かったんです。これは取り上げなければと思い、今週のテーマにしてしました。
栗山 日本だと、特に季節の変わり目に着ている人が急増しますよね。どんなスタイルにも合わせやすいアイテムだからこそ、モードからコンサバまで、テイスト関係なくいろんな人に受け入れられるんでしょうね。
編集O ランウェイでもシーズン関係なくよく見かけるアイテムですよね。
今シーズンはロエベ(LOEWE)の前と後ろが逆になったトレンチなど、変化球のデザインが多いイメージでした。
栗山 確かに豊作でしたよね。私もロエベをはじめ、気になるアイテムがいくつかありました。モードなスタイルで取り入れたい人は、デザインに捻りが入っているものを選ぶと差がついていいと思います。実際、私が持っているのも、少し変わった感じのものばかりなんですよ。
編集O あえて王道を外すのがモードに攻略するポイントということですね。私も春先に向けて気分の盛り上がる一枚が欲しいです……!
栗山 王道系にもデザイン系にもそれぞれに良さがあるので、そこはチョイスかなとは思います。一緒にいろいろ見ていきましょう!
編集O 栗山さんが素敵だなと思う、トレンチの着こなしってどんなスタイルですか?
栗山 映画『17歳』(2014)に登場するシャーロット・ランプリングのトレンチスタイルはとても素敵だと思います。いわゆる王道のデザインをドレスっぽく着こなしているのですが、それがすごくカッコよくて。当時のシャーロットは60代後半ぐらいだと思うのですが、私も歳を重ねた時にあんな風にトレンチを着こなせたらいいなと憧れますね。その人の確固たるスタイルみたいなものがあって、初めて成立する着こなしですよね。
編集O 王道トレンチをおしゃれに着こなすのは、かなりハードルが高いということがわかりました。
栗山 万能で誰でも手に取りやすいアイテムがゆえ、印象深く見せようとすると難しいということなのかなと思います。
例えば、この彼女も雰囲気があって素敵ですが、彼女のスタイルを全身コピーしたところで同じように見えるかと言われたら、そうではないと思うので。
編集O 確かに。定番トレンチの世界は奥深いですね。安易に手を出すのはやめようと心に誓いました(笑)。
栗山 無個性をどう捉えるかですよね。悪目立ちしたくない、街中に溶け込みたいと思う人にとっては逆にそれが強みとなることもあるでしょうし。
この上の方が、まさにそんなイメージに近いのではないかと。好感度の高い着こなしですよね。あとは、発想を変えてみるのもひとつの手かもしれません。例えば勝負服など主役となるアイテムを別に設定して、トレンチを脇役にするなど。何にでも合わせられるアイテムだからこそ、それを逆手にとってスタイリングするようなイメージです。
編集O なるほど! そうやって柔軟に考えるとずっと使えるアイテムですし、王道系は一枚持っておいて損はないかもしれませんね。
編集O 次は変化球デザインについてお伺いしたいです。捻りが効いているけれど、取り入れやすい感じとなると、どういったタイプがおすすめですか?
栗山 まずは脱ベージュから始めてみてはいかがでしょうか?上のアリス・バルビエみたいなカーキのトレンチは素敵だなと思います。これは丈が長ところもポイントですね。
編集O カーキだとベージュに比べてほっこりして見えないので、スタイリッシュな感じがします。合わせるアイテムも選ばなそうですし。
栗山 あとはよりモード感を狙うなら、素材で捻りを効かせるのもいいと思います。スナップを見ていると、特にレザー系の人が多い印象ですが、バサっと羽織るだけでサマになる感じがいいですよね。
このマリア・バルテチコみたいに、カジュアルな服との組み合わせはすごくリアルで参考になるのではないでしょうか。
編集O レザートレンチが加わることで、アップグレードして見えますね。素材的に今すぐ取り入れられるところもうれしいです。いずれにせよ、オーバーサイズだったりちょっとメンズライクだったり、こなれ感がでるような感じが今の気分ですね。
栗山 コーディネートもしやすいですしね。
編集O あとはスナップを見ているとトレンチ風デザイン的なものも結構多かったですよね。
レナ・マーフフが着ているような襟が大きいデザインなども新鮮でした。これはアミ パリス(AMI PARIS)のトレンチみたいです。裏地のイエローもアクセントになってよさそう。
栗山 トレンチっぽいムードという、緩い括りにすると選択肢は本当にすごく広がりますよね。せっかくなら最新のアイテムで探してみるといいと思います!
編集O 栗山さんが具体的に気になっているトレンチも、ぜひ知りたいです!
栗山 デザイン系のトレンチでまず気になったのはザ・ロウ(THE ROW)とバレンシアガ(BALENCIAGA)。くるぶし丈のものは着るだけでサマになるし、コーディネートしやすいのでおすすめ。
そしてY/プロジェクト(Y/PROJECT)も。この一筋縄ではいかない攻めの感じも、個人的にはすごく好きですね。
編集O 3着ともすごく栗山さんっぽいイメージです! ザ・ロウは私もすごく気になっていたんですよ。
栗山 素敵ですよね。王道系だと今シーズンのサンローラン(SAINT LAURENT)にも、理想的な一枚がありました。ランウェイに登場したアイテムではないのですが、店頭もしくはブランドの公式オンラインでチェックできると思います。
編集O 早速チェックしてみます! こうして改めてアイテムだけで見ていくと、また違った角度から物欲が刺激されますね(笑)。その他にトレンチスタイルで気をつけるべきこともあれば、ぜひお聞きしたいです。
栗山 最近のムードというのもありますが、トレンチコート自体が元々ミリタリー発祥のアイテムなので、露骨に女っぽい感じで着るのはNGだと思います。さらっと気負いない感じで着るのが理想的ですよね。あとスナップを見ていて思ったのがヘアメイクの重要さ。あまりにも派手だったりけばけばしい感じにしてしまうと浮いて見えるので要注意です。品の良さは意識しつつどこかに引き算は欲しいですよね。
編集O 確かに私も最近カジュアルに傾きがちだったので、ヘアメイクでバランスを取って大人っぽくきれいに着こなしたいです。ありがとうございました!
最後に私の持っている変化球トレンチをご紹介します。まずはヴェトモン(VETEMENTS)のカーキのロングトレンチ。こちらは2016−17秋冬コレクションのアイテムで、デフォルメされた肩のデザインがポイントです。ベーシックさもありつつ普通ではないというバランスがお気に入り。
そして襟が重なっていたりベルトがたくさんあしらわれた、個性的なデザインのベージュトレンチは、2006年春夏コレクションのジュンヤ ワタナベ(JUNYA WATANABE)。これぐらい思い切って遊んだデザインを選ぶと人とかぶることもなかなかないですし、シンプルな着こなしに合わせるだけでサマになるので一枚あると重宝します。
ジュンヤ ワタナベ(JUNYA WATANABE)では、他にも2005-06年秋冬コレクションの黒トレンチも持っています。こちらは今までのものとは少し印象が異なりショート丈でジャケット感覚で着られるデザイン。シックなムードだけど、ゴアテックス素材でハズしているバランスが好きです。モードラバーなVOGUE読者の皆さんは、トレンチ人口が急増する春先までに、ぜひ他人とは差がつくお気にりデザイントレンチを見つけてみてください!
Profile
栗山愛以
VOGUEをはじめモード界で引っ張りだこのライター。エディトリアルやインタビュー、イラストを添えたスナップ解説記事などその活動内容は多岐にわたる。エッジの効いたオリジナルなファッションスタイルも評判。
Text: Asa Takeuchi Editor: Kyoko Osawa