「氷魚君が導いてくれた」
与えることで満たされる。はたして、それは愛なのかエゴなのか? 『エゴイスト』は、鈴木亮平演じるファッション誌の編集者・斉藤浩輔と、パーソナルトレーナーの龍太(宮沢氷魚)との愛、そして母への想いを描いた切ないラブストーリーだ。「浩輔を演じる上で大切にしたのは弱くならないこと。本来悲しみに崩れ落ちたりするほうがドラマティックかもしれませんが、浩輔はそうなる直前で必ず立ち直るんです。浩輔のモデルとなっている原作者の高山さんは、地元を離れて、東京で自分の居場所をつくった強い意思の人だった。だから、浩輔もどんなに悲劇的なことが起こっても、それを乗り越えられる人でないといけないと思ったんです」
台本はあったが、シーンの多くは即興的で「その場で自由にセリフを言うことが多かった」。しかし、宮沢氷魚とのリアルなラブシーンなどは、監督やスタッフの配慮もあり、ナーバスになるようなことはなかったという。「最初に二人が結ばれるシーンは、緊張を隠す浩輔を龍太がリードする流れだったので、僕自身もリラックスして臨めました。また、氷魚君が導いてくれたことが、あのシーンのリアリティにつながったのかなと思っています」
「こんなにいいエゴはない」
劇中、浩輔は「愛が何なのかよくわからない」と言うが、鈴木にとって愛とは? 「その人を抱きしめられる関係だとしたら、その人を抱きしめたときに自分の自律神経がシューッと落ち着いて、安定した幸せな状態になる。その感覚が愛に近いのかなと思うんです。それもエゴではあるけれど、それによって相手が同じように安心するとしたら、こんなにいいエゴはないじゃないですか?」
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1. 『エゴイスト』のような、心に響く素敵なラブストーリーとして心に残っている映画作品は?
僕の理想の出会いが描かれている、ロミオとジュリエットが水槽を挟んで出会うバズ・ラーマン監督の『ロミオ&ジュリエット』(1996)。水槽越しに人と出会うことなんてあります? 思いつくだけですごいと思うんです。そして、水槽の中にいる青い魚がピュッと泳ぎ去ると、向こう側にいるジュリエットの青い瞳がパッと現れ、そのバックにデズリーの「I’m Kissing You」の楽曲が流れている。あれほどロマンティックな出会いはないんじゃないかと思うほどの感動がありました。
2. 劇中「夜へ急ぐ人」を熱唱されていますが、ご自身にとっての人生賛歌的な楽曲は?
「歓喜の歌」こと、ベートーヴェンの交響曲第9番です。以前仕事で歌ったときもパワフルだと感じてはいたのですが、コロナ期間中に久しぶりにノイズキャンセリングのヘッドフォンで、フルトヴェングラーが振る第9を聴いたら、叫んで踊りだしたくなるくらいの高揚感がありました。
3. 主人公の浩輔はアートへの関心も高いですが、鈴木さんはどのようなアートに惹かれますか?
光と影のコントラストが強いカラヴァッジョの作品が好きなんですが、彼は私生活がめちゃくちゃで、殺人を犯して逃亡生活をしながら絵を描いていたんです。そういう人が多方面に影響を与えてきたという点も含め、興味深いなと思って好きなんです。彼の作品が観たくて、以前マルタ島の聖ヨハネ大聖堂に行ったのですが、「こんな赤の使い方があるんだ」と、衝撃を受けました。もう一つ赤色で言うなら、先日訪れた千葉のDIC川村記念美術館のロスコ・ルームもすごかった。マーク・ロスコのシーグラム壁画を専用に展示した部屋なんですけど、その強烈な赤に思いっきりやられました。
4. 今作は高山真さんの自伝的小説が原作ですが、鈴木さんが生きる上で影響を受けた本は?
若き日の僕は血気盛んだったので、矢沢永吉さんの『成りあがり─矢沢永吉激論集』を読んで、夢を叶えるためには人の何十倍もの情熱が必要だということを学びました。もし芝居の神様というものが存在するのであれば、身も心も捧げる覚悟で生きて行こうと決心をした、そんな一冊です。
5. 最近イッキ見するほどハマったドラマは?
「梨泰院クラス」は普通にハマりました。そうそう、去年ドラマの授賞式で釜山に行かせていただいたんですけど、会場で隣に座っていた俳優のイム・シワンさんと話をしていたら、その横にいた方が「わかる、そうだよね」と、僕たちの話に参加してきたんです。それが、「イカゲーム」で証券マン役をやられていたパク・ヘスさんで驚きました。「イカゲーム」も観ていてよかったです。
Text: Rieko Shibazaki Editor: Yaka Matsumoto
