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登山家・山野井泰史&妙子夫妻に学ぶ“最強”の源泉──【西加奈子が選ぶ12冊の処方箋 ポッドキャストVol.9】

映画『人生クライマー 山野井泰史と垂直の世界 完全版』の公開で注目を集める山野井泰史。妻で同じく登山家である妙子とともに挑んだ壮絶な登山体験を描いたノンフィクション『凍』から、作家の西加奈子が学んだという「究極の強さ、究極の贅沢」とは?

作家の西加奈子が、現代に生きる人々の悩みに向き合う「ヒントになる本」を紹介しつつ、新たな視点を与えてくれるポッドキャストシリーズ。第9回目は、「人の目を気にしすぎてしまう自分を変えて、“自身の好き”を大事にしたい」と訴える相談者のための処方箋ブック。

Vol.9  他者の目や社会からの矢印をシャットオフして、自分だけの感動を手に入れる。

既存のジェンダー観や性的規範から解放されたい」に続く第9回目は、「周囲の目を気にせずに、好きな服を着て好きなことしたい」という相談だ。

相談者は、19歳の大学生やまびこさん。「私は、人の目を気にしすぎてしまい、周りからどう見られているか、浮いていないかという基準で服を選んだり、行動したりしてしまいます。でも、本当は自分の好きな服を着て、好きなことをしたい! と思っています。どうやったら自分を持っている人になれるでしょうか。余談になりますが、西加奈子さんの『きりこについて』を読ませていただきましたが、忘れられない大好きな一冊になりました」

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前回前々回の話とも重なるが、やっぱりこのお悩みの根底にも、強くて大きすぎる“社会の矢印”の問題があると思う、と西。19歳という年齢だけから推測するのも失礼かもしれないけれど、と前置きしつつ、「今の若い世代の人たちがSNSから離れるのはきっとすごく難しい。SNSは美しいこと、楽しいこと、いい話、怒るべきこと……すべてを教えてくれすぎる。ただ、途切れることなく届く“矢印”を受け止めるだけになると、自分が何を好きなのかという矢印が入り込むすきがなくなるのではないか」と危惧する。

山野井夫妻、角幡唯介が挑む“冒険の極限”を描いた二冊が教えてくれること

沢木耕太郎著『凍』(左)の主人公である山野井泰史・妙子夫妻を知ると、「自分が愛することを見つけること、それがどれだけ“強い”ことなのか」に改めて気付かされる、と西。山野井夫妻や『極夜行』の著者角幡唯介が「絶対に人とはシェアできない喜びをもっていることに憧れる」。SNSなどで素敵な話や動画がシェアされるのを目にすると、「シェアしてくれてありがとう」という気持ちが湧く一方で、「こんな素敵な話は、あなただけのものなのだから、自分の心の内だけで大切にしてもいいはず」だと思うこともあるとか。

処方箋ブックとして西が挙げた沢木耕太郎著『凍』と、角幡唯介著『極夜行』はともに、「他人から理解されなくても、とにかくやりたいことをやり遂げ、自分だけの感動を手にした」ひとたちの“物語”だ。「なぜそんなことをするの? という“なぜ? ”がこの方たちには通用しない。この方たちが体験した極限の世界の凄まじさ、その一端を私たちは書籍を通じて垣間見ることができる。ただ、文章の力量とは関係ないところで、絶対に言葉では追いつけない、シェアできない究極の喜びというものもたぶんある。このすばらしい二冊を持ってしても、絶対に他者にシェアすることがかなわない、自分だけの感動を彼ら彼女らはもっている、その事実は最強であり、究極に贅沢なことだと思う」

強く共感し、感銘を受けたという村田沙耶香(初回処方箋ブックの著書)の言葉を引きつつ、西はだからこそ、「自分時自身のからだの音に耳をすませてほしい。外部の音をシャットダウンして、無音のなかで自分のうちから聞こえてくる声を聴く」べきだとアドバイスする。西の琴線に触れた村田沙耶香の鋭い一言とは? そして、メディアなどで、「40代NGコーデ」や「オバ見え」などの情報に触れたときの西のいさましく、正しく、そしてユーモラスな反応とは? 詳細はぜひ、ポッドキャストで。

※この記事は2021年7月に公開されたポッドキャストシリーズにあわせて執筆したものです。

Photo: Shingo Wakagi

西加奈子

作家。イラン・テヘラン生まれ。エジプト・カイロと大阪で育つ。2004年『あおい』でデビュー。直木賞受賞作『サラバ!』(14)や近著『おまじない』(ちくま文庫)ほか、自身が絵も手掛けた絵本など、著書多数。現在は家族でカナダに暮らす。プロレス好き。

Text: Yaka Matsumoto