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今観るべきファッションリアリティショー4作はこれだ!

今、ストリーミング配信を中心にファッション系リアリティショーに旋風が巻き起こっている。ひと昔前の一触即発バトルとは違い、プロフェッショナルがさらなる高みを目指すために集い、ライバルへの尊敬を忘れず、最後まで互いに拍手を送り合いながら美しく戦う。言うならばそれは究極の“ポライトショー”。それでいて自由と刺激に満ち溢れているのだ。長引くステイホームで麻痺したファッション感覚を呼び起こしてくれる、新時代のファッションリアリティショー厳選4作。
多様なバックグラウンドを持つデザイナーたちが集結!「ネクスト・イン・ファッション」

クィア・アイ」ファッション担当でお馴染みのタン・フランスと、ファッションデザイナーでモデルのアレクサ・チャンがホストを務める、最新ファッションリアリティショー「ネクスト・イン・ファッション」。仕組みはごくシンプル。全世界から集まる18人のデザイナーが毎回出されるテーマに従い、2〜3日の短期間で作品を作り上げ、審査員となるトップデザイナーやスタイリストを前にランウェイで披露する。そして毎回脱落者が発表され、最後まで勝ち抜いた優勝者が優勝賞金25万ドルを手にする。

ユニークなのは、エピソード1〜6までペアで戦うこと。中には初対面のペアもいるが、そのほとんどが従来の知人や家族同然の仕事仲間だ。他の番組でも、突然チームを組ませる展開は多いが、その大体が方向性が揃わず失敗したり、一人だと優秀でもチームになるとうまくいかず敗退する。しかし本作では、チーム内でショートするケースは極めて少ない。どちらかというと、それぞれの専門性をうまく融合させ、新たな挑戦をしている。

中でも特に注目してほしいのが、アジア人ペアのエンジェルとミンジュ。常に楽しそうにファッションと向き合い、それが作品にも見事に現れている。またペアマッチが馴染んできた矢先に、シングルマッチに切り替わるのもこの作品の魅力だ。ペアでは描ききれないそれぞれのデザイナーの個性が作品に吹き込まれていく。デザイナーが秘めたテイストを見比べるのもみどころのひとつ。

もう一つこの番組の魅力を語るなら、ファッションに加えて、多様なバックグラウンドを持つデザイナーたちが出演していること。感情を外に出すことがあまり得意でない韓国系のミンジュ、DNAに誇りを持つアフリカ系のファライとキキ、性的マイノリティで長く悩んでいたダニエルなど、デザイナーそれぞれに異なるアイデンティティとその裏にはストーリーがある。それらを踏まえて作り上げた作品を見ると、驚くほどに感情を揺さぶられるのだ。

審査員のプラバル・グルが言っていたとおり「ファッションはデザインだけでない。そこに隠されたストーリーまでもが重要」。ファッションがもつ力強さを改めて感じさせてくれる誇り高き一作だ。

「ネクスト・イン・ファッション」
Netflixオリジナルシリーズ。独占配信中。

優勝作品をアマゾンで販売!  世界を巡るビッグスケールな戦い。「メイキング・ザ・カット 〜世界的デザイナーを目指して〜」

Amazon Prime Videoにも、2020年3月からニュージャンルのファッションリアリティショーが登場。「プロジェクト・ランウェイ」でお馴染みのハイディ・クルムとティム・ガンが再びタッグを組んだことで話題の一作だ。世界中から集まった12人の有能デザイナーが、毎回テーマを与えられ、最短2日で作品を仕上げてランウェイで披露する。最後の一人になるまで競う内容は、前述の「ネクスト・イン・ファッション」と同じ。異なる点は「ビジネス」と「規模」にある。

審査の過程では、デザインの美しさだけでなく、一般人が着て歩けるか、座ったときのシルエットはどうか、そしてビジネスの観点でも細かくチェックされる。というのも、各回の優勝作品が、世界中のAmazonで販売されるのだ! だからこそ実用性がないデザインや、サステナブルでないアイデアは酷評される。

さらに特筆すべきはその「規模」にある。ニューヨーク、パリ、東京と、戦いの舞台は世界各都市を巡り、パリの凱旋門をバックにしたナイト・ランウェイや、原宿の東急プラザの入り口階段を活かしたショーなど、街を巻き込んだ桁外れな仕掛けで行われる。こんなファッションリアリティショーは、史上最大級ではないだろうか?

審査員もすこぶる豪華! 元祖スーパーモデルのナオミ・キャンベルをレギュラー審査員に迎え、リアリティーショーでブレイクしたニコール・リッチーに、イタリアが産んだファッションインフルエンサーのキアラ・フェラーニなどが顔を揃える。キャスティング不可能にも思える豪華な面々に、対面したデザイナーたちが涙を流すほど。

新しい要素で視聴者を驚かせつつも「プロジェクト・ランウェイ」で培われたハイディとティムの存在が、絶妙な安定感をもたらしている。ふたりの意見が異なっても嫌な緊張感を生まず、忖度なしのコンビは唯一無二だ。

最後に、この作品で表現される「ビジネス」はデザイナーが自分らしさを押し殺し、汎用的なデザインを創ることでは決してない。その答えは、“自分らしさと人を喜ばせることの掛け合わせ”なのだと、最高のホストと審査員、そして素晴らしいデザイナーたちが教えてくれる。

「メイキング・ザ・カット 〜世界的デザイナーを目指して〜」
Amazon Prime Videoにて独占配信中。

レッドカーペットの裏側は? セレブの人気スタイリストに密着! 「スタイリング・ハリウッド」

ジェイソン(左)とインテリアデザイナーであるパートナーのアデア(右)。2人で会社を経営している。

作品を生み出すデザイナーにスポットをあてる番組が多いなか、「スタイリング・ハリウッド」は、デザイナーが手がけた作品をスタイリングする、スタイリストが主役の一作。ハリウッドで活躍する天才スタイリスト、ジェイソン・ボールデンのストイックな日常に密着する。

そもそもスタイリストとはどのような仕事なのか? トップスタイリストとして「ネクスト・イン・ファッション」で審査員も務めるジェイソンの仕事ぶりは、1〜2話のエミー賞のエピソードを見れば十分事足りるだろう。

ジェイソン(左)と、いつも失敗ばかりの助手のジョン(右)。

エミー賞授賞式でドラマ「Empire/ エンパイア 成功の代償」などで活躍中のタラジ・P・ヘンソンのスタイリングを担当することになったジェイソン。タラジは事前フィッティングを好まない女優で、式に向けてホテルを出発する10分前に初めてドレスを試着する。ジェイソンはその本番一発勝負に向けてあらゆる準備を行う。プレゼンターなのか候補者なのか、タラジの立場や状況を加味し、その時彼女にぴったりな一着を納得がいくまで探し求める。結果、星の数ほどのドレスをみて巡り会えたのはたった一着。タラジがそれを拒否したら一巻の終わりなのだが……。

「バックアップを用意しておけばいいのに……」と思うかもしれない。しかし、中途半端なドレスを絶対に出さないこだわりこそ、ジェイソンはここまで有名にした秘訣なのだ。一瞬のレッドカーペットにセレブたちが命をかけているのと同じように、スタイリストも彼らを最高の形で送り出せるよう命をかけていることがよくわかる。また、アカデミー賞グラミー賞など世界を代表するトップシーンでのセレブたちへのスタイリングも収められているので、それらをチェックするのも楽しい。

色々あるが会社のメンバーとはいつも助け合っている。

クライアントの好みや体型、肌の色を加味し、初見でOKかNOかの判断がつくジェイソンの天才的なスタイリング能力には、驚かされる。観た後は、自分のスタイリングまで影響されそうだ。また前述の2作品とあわせて見ることで、デザインからスタイリングまでの流れを知ることができ、ファッションの奥深さに感銘を受けるだろう。

「スタイリング・ハリウッド」
Netflixオリジナルシリーズ。独占配信中。

パワーインフルエンサーの成功に隠された意外性。「キアラ・フェラーニ ~アンポステッド~」

デザイン、スタイリングと続き、最後はファッションインフルエンサーのドキュメンタリーを。「キアラ・フェラーニ ~アンポステッド~」は、イタリア出身のキアラ・フェラーニの半生を追う物語だ。

ファッションインフルエンサーの礎を築いたキアラが、幼少期から母となった現在までの道のりを振り返る構成で、家族や関係者のインタビューも多く含まれる。特に、キアラがティーンエイジャーの頃、2時間で500回も自撮りする彼女を見て「そんなことなんの役にもたたない」とつい言ってしまった父親のエピソードが印象的だ。なぜならその後すぐに、“そんなこと”が意味を見出すようになるのだから。

2009年に始めた自身のサイト「The Blonde Salad」で一気に有名になった彼女だが、ようやくコレクションに呼ばれるようになっても、ファッション業界では長らくよそ者扱いされていたという。今でこそインフルエンサーの存在が世界的に認知され、コレクションで最前列に招かれるほど影響力があるが、わずか10年前はその席すら準備されていなかった。それでもキアラが諦めず、自分の道を歩み続けることができたのは「どんな時も自分を信じ続けた」から。写真とファッションが好きな彼女にとって、これが転職だと信じて疑わなかった。

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このドキュメンタリーをみると、彼女を表す3つのワードが思いつく。それは「タフに・楽しく・感じよく」。意外にも最後の「感じよく」が重要で、『フォーブス』の記者や『Wマガジン』、YouTubeの担当者は、揃って彼女について「どんな時も彼女は嫌味一つ言わず、いつもポライトだった」と話す。ときには悔しさをバネにして、反骨精神をぶつけてもいいかもしれない。しかし“キアラ流の勝利の法則”は、どんな時も品よく振る舞うことだった。