ホストはこの人! 米人気トークショウホストのジミー・キンメル。
キャストや映画のことを話す前に、まずは今年のアカデミー賞のホストを簡単にご紹介しよう。今年も昨年に引き続き、米人気TVトークショウ番組「ジミー・キンメル・ライブ!」で知られるコメディアンのジミー・キンメルが総合司会を務める。
昨年は持ち前のブラックユーモアと、終始宿敵であるマット・デイモンをいじり倒す(本当は親友)という身内ネタでアワード盛り上げ、作品賞発表時ではまさかのミスが起こるも(本来『ムーンライト』が受賞するはずが、手違いで『ラ・ラ・ランド』の名前が呼ばれた事件)、なんとかそれを乗り越え、高い評価を受けたキンメル。
しかし、今年は大好きなマット・デイモンがセクハラ騒動の渦中にいるハーヴェイ・ワインスタインを擁護をするような発言で一気に女性たちの反感を買い、出演作品もないことから会場には現れないとなると、なにをネタにするのかが大きな話題に。
人種差別やセクシャルハラスメントに揺れるハリウッドだが、それらの問題をどこまでうまくジョークに落とし込めるのか? これまでも、繊細な問題はまずコメディにして昇華してきたハリウッドだけに、キンメルの力量が問われる2年目となりそうだ。
こんな時代だからこそ余計にしみる『スリー・ビルボード』
第75回ゴールデングローブ賞では主演女優賞を始め、助演男優賞など4冠を獲得した『スリー・ビルボード』。米ミズーリ州の田舎町で娘を殺害された母親が、進展の気配を見せない警察の捜査に苛立ち、3枚の野外広告掲示板を使って自らアクションを起こすというクライムサスペンスだ。
60歳になったフランシス・マクドーマンドの演技は素晴らしく、『ファーゴ』(96)以来の主演女優は文句なしに彼女と言えそう。なぜなら本作は昨年のハーヴェイ・ワインスタインの告発を発端に、次から次へと被害者が名乗りを上げ、権力に毅然とした態度で立ち向かう女性たちの時代を象徴するようなタフな1作もでもあるから。美しさや若さに頼らず、女性らしい強さと人間らしさにフォーカスを当てた本作は絶対的に応援もしたくなる。
田舎の警察で権力と暴力をかざす警察官サム・ロックウェルの演技も、助演男優賞受賞を獲ってしかるべく凄まじさだ。現在日本でも絶賛公開中なので、アカデミー賞授賞式前にチェックしておこう!
『スリー・ビルボード』
上映中
http://www.foxmovies-jp.com/threebillboards
ついにデル・トロの時代到来! 目に見えないものの大切さを知る『シェイプ・オブ・ウォーター』
1962年のアメリカを舞台に、政府の機密機関で掃除婦として働く言葉を発せない40代の女性(サリー・ホーキンス)と、政府機関がアマゾンで捕らえた半魚人が恋をするという、異色のラブストーリー。タイトルが意味するように、愛や友情といった、形にならないもの、目に見えないものの素晴らしさを謳う本作は、作品賞、監督賞、主演女優賞、助演女優賞を始め、全13部門にノミネートされている。
これまでにも『デビルズ・バックボーン』(01)や『パンズ・ラビリンス』(06)など、イマジネーションやファンタジーの力を借りながら、体制と闘うというテーマを映像化してきたギレルモ・デル・トロ監督だが、今作も実は、異色と決め込んだ人を排除しようとする権力や偏見にまみれた思想など、アメリカを中心にした現代社会を取り巻く闇を、美しい映像とファンタジックな物語で痛烈に批判してもいるのだ。
低予算でありながら、デル・トロ監督の脳内がそのまま形になった1作はお見事のひと言。美しい男女が恋をするような、なまっちょろいラブストーリーとは一線を画す、デル・トロらしいダークなセンスと才能が光る本作は3月1日に公開なので、これも絶対に見逃せない。
『シェイプ・オブ・ウォーター』
2018年3月1日(木)全国ロードショー
http://www.foxmovies-jp.com/shapeofwater
フィギュアスケーター、トーニャ・ハーディングの物語『アイ, トーニャ 史上最大のスキャンダル』
トーニャ・ハーディング、あるいは「ナンシー・ケリガン襲撃事件」と聞いてピンとくるのは40代オーバーだろうか? 1994年にリレハンメルオリンピックの選考会となる全米選手権で、ナンシー・ケリガン選手が何者かに足を殴打されて負傷。犯人として、ナンシーのライバルだったトーニャ・ハーディングの元夫などが逮捕され、トーニャの関与も疑われた事件だ。
最近日本でも似たような事件があったばかりだが、トーニャはトリプルアクセルの史上二人目の成功者(現時点で女子のトリプルアクセル成功者は8名)。ところが実力はあるものの、無学の低所得白人労働者の家に生まれ、母親や恋人の暴力とともに育ち、その育ちゆえ審査員から嫌われていた。そんな彼女の壮絶な半生を描いた作品が「アイ, トーニャ 史上最大のスキャンダル」だ。
トーニャ・ハーディングを演じるマーゴット・ロビーは、4ヵ月かけてスケートを習得し、トーニャの話し方を完コピ。演技派であることを証明した本作で主演女優賞にノミネートされている。さらに確実と言われているのが、トーニャの母親ラヴォーナ・ゴールデンを演じたアリソン・ジャネイの助演女優賞受賞。本家とのそっくり具合(映画の最後に本物が出て来るので分かる)や、娘を金儲けの道具としか思わない母親を冷酷に演じている。
『アイ, トーニャ 史上最大のスキャンダル』
2018年5月4日(金)全国ロードショー
http://tonya-movie.jp
プロに愛されるゲイリー・オールドマン、念願の初オスカーとなるか?『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』
クリエイターや俳優、監督といった同業者からも一目置かれる存在のゲイリー・オールドマン。演技派としても名高い彼だが、若いころからエキセントリックな役が多かったからか、意外なことにアカデミー賞のノミネートは過去に一度だけ。
しかし還暦を迎える今年、ついに『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』(3月30日公開)の演技でオスカー像を手に入れるかもしれない。なぜなら、今回主演男優賞に最も近いと言われている彼が演じる、英国の元首相で国民的英雄でもあるウィンストン・チャーチルは、演技はもちろんこと、特殊メイクもパーフェクトで非の打ちどころがないから。
ちなみに、特殊メイクは日本人アーティストの辻一弘氏が手がけており、ゲイリー・オールドマン本人が「このメイクができるのはカズだけ。もしカズがメイクをやらないんだったら、自分は役を引き受けない」と言い切ったほど。そんな辻氏のメイクの魔法により驚異的な変身を遂げたゲイリーは、首相に就任したばかりのチャーチルが、第二次世界大戦下、ヨーロッパの運命を決める大きな決断を下すまでの4週間を演じきる。
まだ未見の方がいれば、同じく作品賞にノミネートされているクリストファー・ノーラン監督の『ダンケルク』(17)を観たら、よりいっそう本作が理解できることだろう。こういう映画のプラスの連鎖もたまらない!
『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』
2018年3月30日(金)ロードショー
http://www.churchill-movie.jp
フレッシュな女性たちの才能がはじける『レディ・バード』
今年のゴールデングローブ賞でコメディ&ミュージカル部門で作品賞と主演女優賞の2部門を獲得したのが『レディ・バード』(6月公開)。
昨年はマイク・ミルズ監督の『20センチュリー・ウーマン』に出演し、それ以前にも脚本&主演をはたした超良作『フランシス・ハ』(12)などで知られるグレタ・ガーウィグの、待望の長編監督2作品目となるのが今作。
自身の体験が基になっているという作品は、さまざまな感情に揺れるシアーシャ・ローナン演じる女子高生の主人公(通称レディ・バード)が、平凡で退屈な町からニューヨークの大学へと進学するという物語。そう書くととても平凡でありきたりに聞こえるかもしれないがが、青春時代に誰もが通る親との確執や、一瞬で状況や立場が変わる友人や恋人との繊細な関係など、ティーンエイジャー時代の誰もが共感できる感情を、丁寧にユーモアを持って描いている。
脚本を書き、メガホンを握ったグレタ・ガーウィグはまだ34歳。主演のシアーシャ・ローナンも23歳と若いだけに、「まだまだ未来がある」と言う理由で受賞は先延ばしにされそうな可能性が高いが、そうでなくても女性監督が少ない業界だけに、卓越した才能には年齢を問わず敬意を払ってほしい。
『レディ・バード』
2018年6月ロードショー
http://ladybird-movie.jp
Text: Rieko Shibasaki