ウィンストン・チャーチルは、英国において最も愛され、尊敬される政治家だ。経済界でもしばしば「最も尊敬できるリーダー」として名前が取り沙汰される。『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』は、そうしたチャーチル神話の核となった世紀の決断の裏側を描く。
1940年5月、第二次世界大戦初期。北欧、東欧を制圧したナチス・ドイツの脅威は英国にも迫る中、チェンバレン首相が引責引退。新首相となったのはウィンストン・チャーチルだった。物語は、チャーチルの没後に公開された戦時内閣の閣議記録に基づき、彼の就任から、ヒトラーに屈せず、徹底抗戦を宣言した世紀の決断までの27日間を描く。
この時期を描いた映画としては、昨年公開されヒットしたクリストファー・ノーラン監督による『ダンケルク』が記憶に新しいが、ナチス・ドイツ軍によってフランス最北端の街ダンケルクに追いつめられた30万人の兵士の撤退作戦の政治的な判断の裏側も描かれる。
貴族出身でジャーナリストとしても活動、のちにノーベル文学賞も受賞するほどの文才もあった。美食家で昼寝を日課とするなど、個性的なパーソナリティとしても知られるチャーチルを演じたのは、英国の名優ゲイリー・オールドマン。ハイライトの下院での演説は圧巻で、今年のアカデミー賞主演男優賞に輝いたのも納得である。
また、本物のチャーチルには全く似ていないオールドマンをでっぷりとした政治家の顔に特殊メイクでつくりあげたのが日本人アーティストの辻一弘だ。ハリウッドで活躍した後、現代美術家とし活動していた辻氏は、オールドマンの直訴によって、映画界にカムバック。この作品でアカデミー賞メイクアップ&ヘアスタイリング部門で日本人初となるアカデミー賞を受賞するという快挙を成し遂げた。
監督は、『つぐない』のジョー・ライト。ディテイールにこだわった映像美、キャラクターの掘り下げ方は見事で、単なる政治劇ではなくヒューマン・ドラマとして見応えのある作品になった。
『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』
2018年3月30日公開
ユニバーサル・ピクチャーズ配給
http://www.churchill-movie.jp
Atsuko Tatsuta