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カラー使いの達人、ベサン・ローラ・ウッドのユーモアあるデザインマジック。

ヴァレクストラ(Valextra)が、2018年春夏のコレクションでコラボレーションしたのが、新進気鋭の注目アーティスト、ベサン・ローラ・ウッドだ。TOOTHPASTEコレクションと題して、ハッピーな色彩感覚と遊び心のあるデザインで新風を吹き込んだ彼女の、そのインスピレーション源に迫る。

ベサンの類いまれなる色彩感覚の原点とは?

ファッション、メイク、ヘアスタイル、そのすべてに独特のカラー使いとセンスが光る、ベサン・ローラ・ウッド。

——ご自身のデザインについて表現する時、「カラーランゲージ」という言葉をよく使われていますね?

私は、色や色の組み合わせによって生まれるパワーに幼い頃から魅了されてきたの。中学生の頃には、60〜70年代のパターンや色使いにハマり、そういったデザインの服を着ていた。そして、その色の表現について説明しようとした時に、自然とこの言葉を使うようになっていたの。

——ヴァレクストラとの今回のコラボレーションは、どのようなアイデアを元にデザインされたのですか?

特にインスピレーションを受けたひとつが、エドゥアルド・パオロッツィというアーティストの作品。彼は、私がもっとも尊敬し、影響を受けてきた表現者の一人。ほかには、「1970年代のオフィスの色」と言ったら思い浮かべていただけるかしら? サイケデリックな時代が終わり、ベージュやブラウンといった落ち着いた色が使われるようになった時代の、オフィス・インテリアに見られた配色を取り入れたら面白いんじゃないかと思って。他にもアイデアのソースはまだまだたくさんあるわ。

取り外し自在のパスパトートのデザインを自ら実演してくれたベサン。

——ヴァレクストラのレガシーからどのような影響を?

私がまず行ったのは、ヴァレクストラのアイデンティティは何なのか、そして、私の表現とクロスオーバーできる部分はどこなのかを探すことだった。そこでたどり着いたのが、“コスタ”。これは、革を裁断した縁の部分に何度も染料を塗り重ねて仕上げるコバ塗りの技術なのだけれど、ヴァレクストラのバッグは、その部分をすべて黒色で仕上げているの。その美しいラインに惚れて、ぜひコスタを活かしたデザインにしたいと思った。

——今回のコラボレーションでは、ヴァレクストラのイジィデ(ISIDE)シリーズとパスパトート(PASSEPARTOUT)シリーズのデザインを手がけられていますね?

イジィデシリーズでは、持ち手部分にフォーカスしてデザインしたの。きちんと機能しながらも、美しいものでなければいけないと考え、まずは一番バランスの良いサイズ感はどれくらいかを考えたの。

左から、トゥースペースト(歯磨き粉)、フロッグ(蛙)、オクトパス(蛸)のニックネームがついた新作のイジィデシリーズ。

——何かモチーフになったものはありますか? スタッフの間で、オクトパス(蛸)と呼ばれているアイテムがあると聞きましたが?

それはバッグの持ち手デザインにつけられたニックネームなの。ほかにも、フロッグ(蛙)とトゥースペースト(歯磨き粉)と呼ばれているものもあるわよ(笑)。オクトパスとフロッグの“目”のように見える部分は、実際どうしても必要な金具部分なのだけれど、それを利用して遊びのあるフォルムにしたかった。
——パスパトートシリーズは素材が革ということもあり、色出しには苦労も多かったのではないですか?

おっしゃる通り、何度も試作を重ねて、納得できる色へ近づけていった。どれも素晴らしい仕上がりで満足しているわ。ブルーのバッグは、“クッキーモンスター”と呼んでいるの。実物を見たら、私がそう名づけた理由をあなたもわかるはずよ。

日本はカラーインスピレーションの宝庫。

自身がデザインしたバッグの持ち手越しのカメラ目線。お茶目でフレンドリーな人柄も彼女の魅力。

——今回の来日は2回目になるそうですね?

初めて来日した時は、渋谷に宿泊していたので、周辺を色々と歩き回ったわ。エネルギッシュで濃密な街に強い衝撃を受けたことを今でも覚えてる。スクランブル交差点ももちろん渡ったし(笑)。対照的だったのは、1本裏通りに入ると、そこは途端に小さな建物が建ち並び、大通りとはずいぶん雰囲気が違っていて、そのギャップがとても興味深かった。

——今日お召しになられているグリーンの羽織ものは、着物だとか。

そう、初来日時に蚤の市で見つけたの。日本に住む友人が、埼玉県の川越で毎月28日に開催されている蚤の市に連れて行ってくれて。色々なものが出品されていたけれど、古い着物もたくさんあり、とにかく色が美しくて楽しくて、とても刺激を受けたわ。あと、木でできた茶色のコートを見つけたの。なんて名前だったかしら…。

——蓑ですね! 昔のレインコートです。それも購入されたのですか?

もちろん! それも色が気に入ったの。フリーマーケットで掘り出し物を発掘するのって、本当に楽しいわよね。日々刺激を受けたものは、インスタグラムにアップして、記録に残しているの。そういえば、初来日の時には直島にも行ったのだけれど、その時に、建物のサビの色がとても気に入って、「サビ」「サビ」「サビ」とコメントをつけて何枚もアップしたら、友人から「勘弁してくれ!」と言われたのを思い出したわ(笑)。

——今後、挑戦したいことはありますか?

今回、ヴァレクストラの仕事でこうして再び日本に来ることできたことも、素晴らしい経験。やはり実際にその土地を訪れると、思いがけないことからインスピレーションを得られるので、これからも世界中を旅して行きたい。そして、その経験を作品に生かしていきたいと思ってる。

問い合わせ先/ヴァレクストラ・ジャパン 03-3401-8017
www.valextra.jp

ベサン・ローラ・ウッド/Bethan Laura Wood
1983年イギリス生まれ。 ロイヤル・カレッジ・オブ・アート修了後、スタジオを設立。これまで、家具や照明、アクセサリーデザイン、ウィンドウディスプレイなど幅広い方面で才能を発揮してきた。ファッションブランドとのコラボレーションも多数おこなってきており、イタリアの名門デザインギャラリー、ニルファーにも認められ、作品が展示されている。

Photos: Shoko Takayasu Interview & Text: Akiko Tomita Editor: Yukiko Kaigo