運命共同体。彼女たちを形容する最適な言葉だ。「私たちはもともと、大胆で力強いものが好き。その意識をすり合わせてきたわけではなく、自然と向かう先が一緒だった。そんな感覚があります」と、リーダーを務めるJURINは真っ直ぐに答える。
全員が日本人。そして全編英語の歌とラップ。インタビューは韓国語と英語、日本語が自在に入り交じる。約1年半前のデビュー当時、彼女たちは既存のモデルに当てはまらない、言うなれば“未確認生命体”だった。自負はあるようで、「メンバーみんなで一緒に過ごしていると、人間からかけ離れるというか、宇宙人になれる気がする」と、マイケル・ジャクソンを敬愛するHARVEYは笑顔で語る。両親とともに安室奈美恵をリスペクトしてきたCHISAもこう続ける。
「練習生時代にデビュー曲、『Tippy Toes』を聴いたとき、J-POPでもK-popでもなく、洋楽でもない……これって、宇宙のサウンド? と、その新しさに興奮しました」。14歳でXGを創り上げるプロジェクト「XGALX」に参加したJURIAは「デモを聴いた瞬間に、絶対歌いたい、デビューしたい! と興奮したことを、今でも鮮明に覚えています」、と少しだけ瞳を潤わせて、当時の気持ちを教えてくれた。その瞳をやさしく見つめるメンバーたち。彼女たちの結束力、その源とはどんなものなのだろうか。
その体裁、規格外につき
リフレインするウィスパーなラップとボーカル、ベース音が重なるミニマムな楽曲「Tippy Toes」で、2022年、XGはデビューを果たす。メロディアスでキャッチーなサビをルールとする王道のデビューの方程式からは、大きく外れるものだ。デビュー前の練習生時代前、唯一、音楽やダンスの経験がなかったというHINATAは、この曲のサビを担当することになる。「“ターツツター”というささやくようなパートを自分のものにすることは、想像以上に大変な作業でした。際立ったメロディがあるわけでもないので、この一節に個性や気持ちを込める、大きな挑戦だったと思います」(HINATA)。
続くセカンドシングル「MASCARA」は、バウンシーでパワフルなビートを刻み込む、またもや挑戦的なトラック。繊細だけど意思が宿ったリリックも印象的だった。2023年に入り、「SHOOTINGSTAR」をリリース。2000年代のザ・ネプチューンズやティンバランドばりのミニマムでソリッドなラップパートと、スムースでメロディアスなコーラスパートのギャップが心地よく、続く「LEFT RIGHT」では、グッと引き算。トランシーで未来的な世界観を発信し、Y2Kを象徴するR&Bシンガー、シアラが参加するリミックスも発表した(『憧れのシンガーが私たちの曲に参加してくれるなんて!』と、7人は当時の感動を歓喜とともに教えてくれた)。このあたりから彼女たちは、韓国や日本というアジアのみならず、欧米をも虜にするグローバルな存在となっていったと記憶する。
「アリーヤやローリン・ヒルのコンフィデンスあふれる歌声が好きで、彼女たちからさまざまな影響を受けてきました」と話すのは、最年少のラッパー、COCONA。幼少期からインターナショナルな環境で育ったMAYAも、「Boyz II MenやRun-D.M.C.など、90年代や2000年代の音楽に触れてきました。もちろん、みんなが大好きなDestiny’s Childも! 彼女たちのインディペンデントな姿勢に憧れます」と続け、ガールズグループにハートを刺激されまくってきたほかのメンバーたちも、激しく同意する。「そのあたりの音楽って、今のようにデジタルネイティブな時代ではないからこそ、限られた中のダイレクトな強さがある。Y2Kのファッションや音楽には自然と惹かれるものがあるし、メンバー全員の“栄養素”かもしれない。自分たちが生まれた頃の音楽はみんなのベースになっていると言ってもよさそうです」(JURIN)
実際に彼女たちは、数多くの“Y2K”に浸ってきた。マーカス・ヒューストンやクレイグ・デイヴィッドなど男性のR&Bをたくさん聴いてきたと言うJURIA。キーシャ・コール、オマリオン、ジョーのスロウジャムを好むCHISA。R&BやHIP HOPを軸としながらも、「アヴリル・ラヴィーンを何度も歌ってきました」とHINATAが話すように、さまざまなジャンルの音楽が彼女たちの重要なエッセンスとなっている点も見逃せない。MAYAの「昔の“ハンナ・モンタナ”のスパークルなテイストも大好きで、インスピレーションになっている!」という発言からもわかるように、彼女たちの“栄養素”は多岐にわたる。
ミニアルバム『NEW DNA』の収録曲「TGIF」は90sハウスと2000年代初頭のエレクトロをツイストし、ダンスには“ヴォーギング”を取り入れた。しかもその時代的背景を加速させるゴルチエの衣装を身に纏い、彼女たちは踊る。さまざまな源流をどう解釈し、アウトプットしているのだろうか。「私は当時のヴォーギングの歴史を調べたり、トラックの元などを聴いたり、楽曲を掘り下げることが多いです。それを自分なりの解釈で崩したり、みんなに共有しています」というCOCONA。
彼女と同じく、MAYAも下調べが得意なようだ。JURINはチームのクリエイティブについてこう解説してくれた。「MAYAやCOCONAが具体的なリファレンスを集めてくれるのに対して、私は感覚的に掘り下げていくことが多い。ほかにも、HARVEYは動きを編み出すのがうまくて、CHISAは全体のディテールを探ったり詰めることに長けている。7人それぞれ得意なことを持っていて、具体的なこと、感覚的なことをすべて出し合って意見を交換していき、ひとつの作品やステージが出来上がっています」
無論、歌詞の意味を追求する作業も彼女たちが大切にするプロセスだ。コアそのものとも言える。「まずは自分自身で翻訳をするところから。言葉が持つ“すべての意味”を考え、曲の世界観も合わせて突き詰めていきます」(JURIA)。楽曲の世界観をメンバーが把握するためにプロデューサーがユーモラスな試みをしているのも興味深い。「新しい、レコーディング前の楽曲のデモを聴く際に、映像を合わせて見せてくれます。それは銀河だったり、どこまでも続く異空間の道だったり。音に合わせて眺めているとイマジネーションが膨らんでいくんです。楽曲のヴァイブを理解できる大切な時間」とCHISAは語る。実際の言葉が持つ事実と直感力を信じていく、彼女たちなりのクリエイションが見えてくる。
鋭角、確信のクリエイティビティ
近未来で SFタッチな世界観。そこへ『美少女戦士セーラームーン』のオマージュが飛び出たり(『SHOOTINGSTAR』)、『新世紀エヴァンゲリオン』を匂わせる(『GRL GVNG』。MVのディレクターは韓国のスターフォトグラファー、チョ・ギソク)など、“日本発”であることを誇示する瞬間もある。これらについてオフィシャルで明かされてはいないけれど、日本人であることのアイデンティティがファッションやMVから浮かぶことがある。
女の子を扇動し、鼓舞する“ガールクラッシュ”の要素を持ちながらも、そのストイックさは規格外ゆえ「XG ってガールクラッシュのグループだよね〜」なんて軽々しく言えない。言わせない厚みがある。それがXGだ。ザ・ネプチューンズが手がけた、N.O.R.E.「Nothin’」(2002)のトラックに合わせてJURIN とCOCONAが、Cordaeの「Two Tens」(2023)のフロウに合わせてHARVEY とMAYAがオリジナルのラップをのせるパフォーマンスがYouTubeチャンネルで公開されたのも非常に革新的だ。
CHISAやHINATA、JURIAも「大好き」と語るTLCの「No Scrubs」(1999)をカバーしている。どんな音楽ですか? という問いに対してひたすら「ジャンルレスです」と答えるアーティストとは違い、源流の種明かしをしながらも、最終的にジャンルレスな新しいサウンドを作り上げている。コレって最強にかっこいい。とびっきりの音楽への愛を開示し、堂々と「R&BやHIP HOPをベースにしています」とスタイルの根幹、事実を隠さずに突き通す。音楽への敬意にあふれる、余裕のある姿勢だ。「R&BやHIP HOPを愛している。そこに差し込まれるEDMだったりサイケデリックな音だったり。その予想不可なミックス感覚がXGらしさなのかな、って思います」とCHISAが後押しをする。
それにしても彼女たちは、達観している。積み重ねてきた経験だけではなく、もっとコアな部分の強さを感じるのだ。聞くと、「小学生の頃には、アーティストになりたいと思っていた」と話すMAYAに、ほとんどのメンバーが賛同していく。「は、早い!」と驚きつつ、経緯を聞いてみる。
銀河に広がる、夢と決意
「小6でダンスや歌を始めたのですが、初めてステージのようなもので自分のパフォーマンスを披露したとき、今まで感じたことがないほどのアドレナリンが出て。え、何コレ? みたいな。内面がすごくエモーショナルなものに満たされて、ここが自分の居場所だ、と感じました」とMAYAは続けた。その頃に出会ったというCOCONAはこう話す。「もともとの性格が慎重。何をするにも怖がったり、何度も考えて行動するタイプでした。でも、歌ったりダンスをしたりするときだけは、ありのままでいられた。深く考えずに没頭できたんです」。
8歳で初めてステージに立ったCOCONAはそのとき、「絶対にアーティストになる」と決意した。一度はオリンピックに憧れたこともあるという元スノーボーダーのJURINも、志は直感的だ。「中学生の頃に音楽や歌、ダンスで自分を表現することに興味が生まれました。同時にガールズグループが持つ独自の力強さやエンパワーする力に惹かれて、目標が変わっていきました」。その頃JURINはHARVEYと出会う。「学校から帰ってきたらひたすらマイケルのMVを観て、踊りをコピーして。マイケル・ジャクソンを深く知っていく中で、寄付を通して恵まれない子どもたちを救うなど、パフォーマンス以外の部分でも憧れるようになりました。そこで、私もいつか多くの人を救ったり、影響をあたえられる存在になりたいと願うようになりました。同じ夢を持つJURINとの出会い、その影響も大きいです」
CHISAとJURIAはお互いが14歳になるくらいの時に出会っている。「小さな頃からトップアーティストになる、と決めていた」と、英語を使い世界中にメッセージを届けられる存在を目指していたCHISA。JURIAは、幼いながらも練習を積み重ねることの苦労を教えてくれた。「XGALXには中学生で参加しました。勉強と練習の両立は簡単なことではなく、当時は『レッスンだけに専念したい』といつも思っていて。なかなか練習に打ち込めない日々が続き、自分の弱さも前に出てしまい、ある日ダンスパフォーマンスの評価で最下位になってしまったことがあるんです。でもそのとき、もう、やってやる! これ以上落ちることはない。苦手な面をすべて克服してトップアーティストになる、と覚悟が決まりました」
皆、能動的に自らの才能や可能性と向き合い、直感的に突き進んでいる。ほかの6人とは違い、唯一の“未経験者”としてプロジェクトに参加したHINATAもしかりだ。彼女以外が皆、知り合いだった。「私だけ唯一、ダンスや歌の経験がなく、ほかのメンバーを知らない状態でした。だから、自分との戦いで。この世界のこともよく知らないままレッスンを開始することになり、あせりもありましたが、負けず嫌いな性格がよかったのか、なんとか乗り越えることができて。みんなが持つ高い目標やマインドに影響を受け、いつの間にか自分の中に『デビューして、自分の声を世界中に届けたい』という強い気持ちが素直に生まれていました」。たまたま参加したオーディションでXGへの道を歩むことになったHINATAはこう補足する。「一緒に過ごして、練習を重ねていく中で、こう思うようになりました。『ひとりではなく、みんなで夢を叶えたい』って」
運命のコミュニティ
XGと話をしていると、本当に仲が良い。誰かを蹴落とす、なんて概念は皆無のようである。この7人の結束力の源はどこからくるのか。「コロナウイルスが蔓延して、閉鎖された生活を過ごすなかで、チームの決断力が増していったように思います。なぜか全員前向きで、今なら語学の勉強がたくさんできる! とか、今まで観てこなかった映画をたくさん観られる! とか」とJURINが話すと、皆が「そうそう! 懐かしい」と笑う。「映画をみんなで観る時間をつくって、鑑賞後には感想を言い合ったり、分析をしたりしていました。それを韓国語や英語で言って、語学の勉強もあわせてやったよね」(COCONA)。
映画鑑賞がクリエイティブに繋がる日もあった。とある日は、気鋭、ポン・ジュノ監督の名作、『母なる証明』(2009)を7人で観た。「ちょうどダンス制作中で最後の振り付けをどうするか全員で迷っていて。そのときに観たラストシーンの舞があまりに衝撃的で……。結果的に、そのシーンからダンスを引用して、ステージを完成させました」(HARVEY)。
自粛生活があったからこそ、たくさんのことを語り合ったりもした。MAYAの思い出も聞いてみる。「自粛期間で絆が生まれたと思う。夜中まで一緒に話をして、そこからリレーションシップが生まれた。それまではじっくり話をする機会がなかったから、お互いの考えを交換できたことはすごく大切なこと。もう姉妹というか家族になった感じ。もはや今は家族以上かもしれないです」。彼女たちはともに暮らし、切磋琢磨し合う特別なコミュニティに身を置く。
とある5人の女子大生が共同生活をし、夢を追う──韓国ドラマ「青春時代」(2016)を全員で観ながら韓国語を覚えていったというエピソードを聞くと、7人がどんな気持ちでエピソードに気持ちを添わせ、共鳴していたのかが気になってくる。「そういえば、『タイタニック』(1997)を観た日は目がパンパンになったよね」と言い合う姿は、等身大の普通の女の子だ。
剥がしてゆく、まだ見ぬ景色
衝突することはなくもない。ただしケンカにはならず、必ず、落ち着いた話し合いになるそうだ。「意見がすれ違って、エモーショナルになるときはもちろんあります。でも、それは必ず意味のある話し合いになる。お互いを知り、レベルアップできる大切なプロセスだと考えています」とJURIN。「みんながいるから、自分が存在する。それぞれひとりひとりの個性を尊重し合っていると思う」(COCONA)、「7人はいつも繋がっている。よくへその緒に例えていて、連帯感をあらわす魔法の言葉なんです」(HARVEY)と、賛同の言葉が折り重なっていく。最後にMAYAはこうまとめてくれた。「みんなのおかげで、見たことのない景色を何度も何度も見てきた」
J-POPでもK-POPでもない、“X-POP”。特質過ぎる色鮮やかなDNAを持つ7人の絆は、すでに強固だ。9月に発売となった初めてのミニアルバム『NEW DNA』のリリースを皮切りに、街はXGのヴィジュアルで満ちあふれ、SNS上ではたくさんの歓喜の声が集まった。リードシングル「PUPPET SHOW」では、小刻みなサイケゴアなディテールを敷いたトラックにのせ、現代社会におけるジェンダーの問題や意義をソリッドに訴えかける。女性のハートを代弁するだけではない、またひとつ高いハードルを掲げ、ポップスの中に異次元の価値観を示しているのだ。「可愛い」「強い」「かっこいい」。憧れられる要素はたくさん存在するが、XGは、もっともっと大きく熱い〝核〞を持ったグループへと成長しているような気がする。
「このレザージャケットを着ると、なんだかすごく、強くなれる気がします」と、ジュンヤ ワタナベ(JUNYA WATANABE)のルックを着たCOCONAは呟いた。そのときの、カメラを見つめる強い視線──ファッションの力も、音楽の力も、結束力も含めてすべてを束ねて私たちを刺激する。
Profile
XG
7人の“ボールド”なパッションに、どうやらこれからも脳を揺さぶられていきそうだ。XG ボーカルをメインとするCHISA,HINATA, JURIA。ラップパートを担うJURIN,HARVEY, MAYA, COCONAによる平均年齢19歳のガールズグループ。「Xtraordinary Girls」を意味し、常識にとらわれない規格外のパフォーマンスで世界中の熱視線を集める。韓国や日本のみならず、8月にはロサンゼルズの音楽フェス「Head In The CloudsLos Angeles」に出演するなど、世界基準の活動を重ねている。最新作に、6曲入りのミニアルバム『NEW DNA』がある。
Hair: Enoc Lee Makeup: Soyeon Jung Manicure: Kiho Watanabe, Runa Yonekuraand Kana Kikuchi at Uka Tailor: Azuna Saito Movement Director: Chikako Takemoto Set Design: Akihiro Yamaya Post Production: Mari Obara Styling Assistants: China Suzuki,Chisaki Goya and Misaki Suzuki Text: Toru Mitani