BEAUTY / EXPERT

80sガールズバンドのアイコン、ベリンダ・カーライルが明かした、成功と転落とドラッグ依存症からのリカバリー

人間は、大なり小なり誰でも一度は過ちを犯すもの。2024年の今日66歳を迎えたシンガーのベリンダ・カーライルは、若くして成功を収めながらもドラッグという悪魔の誘惑に負け、地獄の苦しみを味わったミュージシャンの一人だ。そんな彼女が、ドラッグ訣別までの戦いと、その後の人生について明かした。
80sガールズバンドのアイコン、ベリンダ・カーライルが明かした、成功と転落とドラッグ依存症からのリカバリー
David Livingston/Getty Images

「あなたの歌声は素晴らしいけど、どうしてシェーブル山羊の鳴き声みたいに聞こえるのかしら?」と、私がフランス語で歌ったアルバム 『Voila』(2007)をリリースしたとき、フランス人の友人から面と向かって言われたときは、ショックでもう笑うしかありませんでした(笑)」

2023年、英『ガーディアン』紙に自身の特徴的な歌声のことをこう語ったベリンダ・カーライルは、1958年8月17日にアメリカ・カリフォルニア州で生まれた。70年代にパンクバンド、ジャームスでドラムを担当していた彼女は、1978年にゴーゴーズを結成。作詞作曲演奏をこなすオールガールズバンドのフロントパーソンとしてシングル「We got the beat」(1981)、「Vacation」(1982)などのスマッシュヒットを連発し、デビューアルバム『Beauty and The Beat』(1981)は全米チャート1位を獲得する快挙を成し遂げた。

そして、80年代半ばのソロ転向後も『Heaven on Earth』、『Runaway Horses』などのヒットアルバムの恵まれ、シングル「Heaven is a Place on Earth」がグラミー賞にノミネートされるなどソロミュージシャンとしても大きな成功を収めた。そして直近の2024年1月には、集大成となるニューアルバム『Decades Volume 3:Cornucopia』をリリースし、再び世界の注目を集める彼女は現在アメリカを離れ、映画プロデューサーで夫のモーガン・メイソンとともにメキシコで暮らしている。

1980年、人気急上昇中だったゴーゴーズ。左から、シャーロット・キャフィー、マーゴット・オラヴァリア、ベリンダ・カーライル、ジェーン・ウィードリン、ジーナ・ショック。

Kerstin Rodgers/Getty Images

「以前は朝4時に起きてから、メールやニュースをチェックしていました。でも、今は寝起きのコーヒーの後に呼吸法のエクササイズ瞑想をするようにしています。これは私のセルフケアとメンタル維持のためのルーティンとしてずっと続けています」

1986年、「Mad About You」でソロに転向したころのベリンダ。

Vinnie Zuffante

最近の生活についてこう明かした彼女の毎日は、ヨガやピラティスも実践するなどいたって健康的なものだ。だが、17歳から47歳までの生活を振り返るとき、彼女は複雑な気分になるという。「なぜなら、私はずっとドラッグに支配されていたから」

絶頂期の悪魔の誘惑

「ミュージシャンとは、連日連夜パーティーに明け暮れるワイルド&クレイジーな存在で、それがクールなのだという周囲の暗黙の期待のようなものが当時の私の周りにはありました」

1978年のある夜、5人の女の子の路上のおしゃべりからからスタートしたというゴーゴーズは、その楽曲の良さとベリンダの恵まれたルックスも相まって、商業的に最も成功を収めたガールズバンドの一つとなった。そして、この成功が20代前半でギリギリの生活をしていたメンバー全員に、これまで手にしたことのない巨万の富をもたらした。

1988年、ソロで人気絶頂のベリンダ。このころすでに生まれて初めて手にした大金で人生が暗転していた。

Ron Galella, Ltd/Ron Galella Collection via Getty Images

「初めてクレジットカードを作ったとき、初日に限度額まで使い切ったときのことを覚えています。メンバーの中には、即金でビバリーヒルズに家を買った子もいました。私はといえば、当時は競走馬やとんでもないものを買いまくりました。若くして有名になると、本当にたがが外れてしまうものです」と、ゴーゴーズ全盛期の狂乱ぶりをこう振り返るベリンダ。しかし、それは同時に人生が180度暗転する序章に過ぎなかったと振り返る。

奈落の底への転落

「成功したミュージシャンにつきものなのがドラッグで、当時はやっているのがクールという風潮がありました。だから私も、なんとなくコカインを選んだのです。そして──あっけなく中毒になってしまいました。このころの私は、お金が入ったらすべてドラッグに注ぎ込むようになっていました」

そんな彼女は、自身があっさりドラッグにはまってしまった背景には複雑な生い立ちが関係していると分析する。若くしてベリンダを産んだ母親はうつ病を患い、彼女の実の父親も継父もともにアルコール依存症患者で、特に義父は酒を煽ると暴力をふるった。そのため、10代で家出同然でLAのパンクシーンに避難した彼女は、常に寂しさを抱えていたことから最初に酒を覚えたのが予兆だったと振り返る。そして、成功して大金を得てからはより即効性の強いドラッグに溺れ、精神的にも肉体的にも毎日薬に振り回されていたと続ける。

「本当に、薬を覚えてからの私は完全に制御不能状態で、ある種の強迫性障害のようでもありました。突拍子もなくレンタルしたメルセデスのオープンカー中で正気を失って空港に車を置き去りにしたり、とにかく私のやることなすことすべてが奇行ばかりだったのです」

リカバリーへと導いた夫のひとこと

しかし、そんな生活を30年以上も続けていた彼女に、ある日突然ドラッグとの訣別のきっかけが訪れた。

「40歳になったとき、レコード会社から解雇されました。ポップミュージシャンというのは若い方が良い、ということはその当時の業界の暗黙の了解でしたし、私もそれに異論はありませんでした。ですが、やはり突然のことに戸惑ったことは事実です」

1998年、40歳のベリンダ。このころレコード会社から見放され、夫から最終通告を言い渡されていた。

Fred Duval/FilmMagic

こう語る彼女に、さらなる一撃を喰らわせたのが夫のひとことだった。ベリンダが断酒を決意したとき、何があろうとも絶対に見放さないと言い、ドラッグに溺れる彼女の周囲からどんどん人が去っていっても、いつでもそばにいると約束してくれた夫──だが、奇行を繰り返す彼女を前に、さすがの彼もついに最後通告を言い渡すしかなかったという。

「言われてからふと鏡を見たとき、私の目にはまったく光がありませんでした。肌も灰色で、もう自分が自分ではなくなっていたのです。そして、この時私は初めて幻聴を経験しました──『立ち止まらなければホテルで死体となって発見されるだろう』という声がはっきりと聞こえたのです」

もういい、もう十分だ、とこのときこれまでにない強い感情を抱いた彼女は、ついにドラッグと訣別する決意を固め、直後にリハビリテーションプログラムに参加したという。

2021年、第36回ロックの殿堂の式典に出席したベリンダとゴーゴーズのメンバー。

Arturo Holmes/Getty Images for The Rock and Roll Hall of Fame

そんな彼女は、現在ソロアーティスト・ゴーゴーズのメンバーとして活動する一方、インドで共同設立した動物保護プロジェクト「Animal People Alliance」のファウンダーとして、アジアで放置された動物たちの保護に取り組んでいる。同時に、薬物使用や併発障害の非営利治療施設「UChealth Center for Dependency, Addiction and Rehabilitation」 の支援に尽力する一方、自身のドラッグ脱却の体験を語りながら、ドラッグで苦しむ若者たちをバックアップする社会活動に勤しみ、自身のSNSでもさまざまなメッセージを発信している。

X content

This content can also be viewed on the site it originates from.

「ドラッグ(またはアルコール)依存症は、年齢を問わず誰もが罹患する可能性があります。ですが、強い意思があっても完全に断ち切ることはできない難しいものです。それでも、依存症に立ち向かうことは可能です。自分を変えるのに遅すぎるということはありません。今苦しんでいる人がいるのなら、この事実を私はわかって欲しいと思っています」

参考文献:
https://www.uchealth.org/today/go-gos-rocker-belinda-carlisle-to-open-up-about-30-year-cocaine-addiction
https://www.theguardian.com/lifeandstyle/2023/mar/04/belinda-carlisle-interview-drugs-boyfriends
https://www.sundaypost.com/fp/belinda-carlisle-interview
https://www.nme.com/features/music-interviews/does-rock-n-roll-kill-braincells-belinda-carlisle-3433162
https://www.huffpost.com/entry/belinda-carlisle-cocaine-auditory-hallucination_n_6958634

Text: Masami Yokoyama Editor: Rieko Kosai