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ユアン&クララ・マクレガー父娘が、確執を乗り越えて初共演。『ブリーディング・ラブ はじまりの旅』が奏でるノスタルジー

かつて22年間連れ添った妻と離婚をし、その後、ドラマの共演者だった恋人と再婚をしたユアン・マクレガー。この事実に猛反発をした実娘のクララ・マクレガーは公然と父を非難し、二人の間には確執が生まれて疎遠になった時期もあった。だがある日、クララは友人たちとともに執筆し、後に親子共演を果たすことになる映画『ブリーディング・ラブ はじまりの旅』の脚本を送ったという。クララ・マクレガーが、本作で実父ユアン・マクレガーとW主演するに至った理由を語ってくれた。

娘を捨てた父親が、娘に起きたある出来事をきっかけに、彼女をニューメキシコへのロードトリップへと連れ出す。過去の幸せな記憶やそこにあったはずの絆は、はたしてお互いの傷を癒す薬となるのか。父と娘は旅の間に、それぞれが抱える問題と向き合うことになる──。

Photo: ©2024 SOBINI FILMS, INC. All Rights Reserved.

──脚本にはルビー・キャスター、クララ・マクレガー、ヴェラ・バルダーの3名の名がクレジットされていますが、本作は誰のアイデアが発端となって誕生したのでしょうか?

もともとは私のアイデアで、父と娘のロードトリップをテーマに作品を作りたいという漠然とした考えが頭にありました。その考えをルビーとヴェラに話したんです。その頃、ちょうど世界がパンデミックに突入したので、3人でヴェラの家のキッチンに集合し、脳内にあったアイデアを文字にしたため始めたのが発端です。その後、本作を監督したエマ・ウェステンバーグも参加し、彼女自身も脚本に自身のストーリーを加えていってくれました。なので、最終的には私の脳内でイメージしていた大雑把な物語よりも、ずっと奥行きが出ました。

──エマ・ウェステンバーグ監督は、あなたたちの方から声をかけたんですね?

そうです。脚本を書き終えたタイミングでキラーフィルムズが製作に名乗り出てくれたので、監督をしてくれる人を探す必要がありました。エマ・ウェステンバーグもヴェラ・バルダーもオランダ人で、実は二人ともアムステルダムに居た頃からの知り合いだったんです。私はヴェラを通してエマの作品を知り、彼女のユニークで異彩を放つ作品のファンになりました。少し高尚な世界観でありながらも、エマの作品にはものすごくリアリティがあるんです。今作を観ていただければわかるように、エマは本作に私が到底想像さえもできなかった深味と可能性を見出してくれました。彼女には感謝しかありません。

左からクララ・マクレガー、ヴェラ・バルダー、ユアン・マクレガー、エマ・ウェステンバーグ。

Photo: Amy E. Price/Getty Images

──父親であるユアン・マクレガー氏をキャスティングしようと思ったのはどのタイミングだったのでしょうか?

正直なところ、最初から父を頭に浮かべながら脚本を書いていました。でも、引き受けてくれるかはまったくわからなかったので、そこは確認をする必要がありました。

──ユアン氏は運転も上手ですしこの上ないキャスティングだと思いますが、引き受けてくれる自信はありましたか?

周囲は「親子なんだし、絶対に引き受けてくれるに決まってる」と思っていたと思います。でも、もちろん父にも断る権利はありますし、スケジュールの都合だってある。そして、私自身もいろいろとあったので父に役をオファーするのにとても緊張しました。結果的に父は脚本をすごく気に入ったと言って、引き受けてくれたので安心しました。もし父がNGだったら、大ファンのニコラス・ケイジ氏に当たりたいなと(笑)。

──過去には、あなたと父親の確執が報道されたことがあります。そういう意味では、今作にあなたたち親子のリアルな関係を投影する人もいると思います。

そのように考える人がいるのは当然だと思いますし、その考えも理解できます。映画にしろ、本にしろ、芸術作品というのは何かしらの形で自身のパーソナルな経験を反映させるものだと思いますから。ただ、先に話したように、この物語はドキュメンタリーではなく、複数の人たちで作られた合作であり、フィクションであるということをお伝えしておきたいと思います。

Photo: ©2024 SOBINI FILMS, INC. All Rights Reserved.

──実の親子だからこそ演じるのが難しかったシーンは?

撮影が始まった当初、アクティングコーチに「お父さん以外とのシーンはすべていい感じなんだけど……」と言われていたんです。確かに演じた役の年齢と私の実年齢も違いますし、セリフも普段父と交わすような会話でもなく、言葉遣いも違うので、リハーサル時は私の方が少し身構えてしまっていたんだと思います。なので、撮影現場では遠慮することなく、何があってもお互いに傷つかない、役としての自由を二人で約束したんです。その話をした後は吹っ切れて、撮影がものすごく楽しくなりました。モーテルで本音を父親にぶつけるシーンはアドレナリンが爆発するような場面だったので、感情を作るのに集中しなければならず大変でしたが、今はものすごくいい思い出として心に残っています。

──親子でレオナ・ルイスの「Bleeding Love」を車中で熱唱するシーンがとても印象的でした。同曲のタイトルがそのまま映画のタイトルにもなっていますが、この楽曲には何か思い入れがあったのでしょうか?

あのシーンを描いたときはまだ、楽曲は決まっていませんでした。ただ、子どもの頃は父が車で学校へ送って行ってくれるとき、必ず車内で音楽がかかっていたんです。新曲は車内で覚えることが多く、私の中で音楽は父と共有するものでした。レオナ・ルイスの「Bleeding Love」も、学校へ行くときによく父が聴いていた1曲で、みんな大好きでした。父は爆音にしがちだったので、中学生になるとそれが恥ずかしくて周りの人たちに見られないように私はシートに身をうずめていましたが、そんな父との思い出が詰まった楽曲だったので、あの曲の権利が降りたときはものすごくうれしかったです。

Photo: ©2024 SOBINI FILMS, INC. All Rights Reserved.

──思い出つながりで、あなたが覚えている父親との一番古い記憶は?

何歳の頃だったのかはわかりませんが、両親が家中にチョコレートを隠して、それを探しまわってソファの後ろを見たときに、そこに隠れていた両親を発見した瞬間を覚えています。子どもの頃は父の仕事に合わせていろいろな場所に引っ越しをし、撮影現場を訪れては父が働く姿を見学していました。それが私の映画作りへの愛を育ててくれたので、今は本当に子どもの頃の貴重な体験に感謝をしています。

──プロデューサーとして、あるいは主演俳優として、みんなに注目してもらいたいことは?

単純ですが映画を制作し、それが上映されて世界中の人たちに観てもらえるという事実がこの上なく喜ばしいことだと思っています。 俳優であるヴェラ・バルダーとは、お互いのオーディションテープを撮影しあう仲でした。ところがある日突然、世界がパンデミックに突入してしまった。私たちは先が見えない不安を抱き、自分たちの雇用を自分たちで何とかしようと模索してインディ系映画とテレビの制作会社「ドゥ・デイムス・エンターテインメント」を立ち上げました。そんな風に未来が見えない中で始めた会社で、素晴らしい人たちの力を借りて本作を撮ることができた。つまり、この映画自体が私たちの誇りであり、私たちを表現しているものだと思うんです。

Photo: ©2024 SOBINI FILMS, INC. All Rights Reserved.

──今作を制作するにあたり、参考にしたロードムービーはありますか?

ロードムービーではありませんが、グザヴィエ・ドラン監督の『Mommy/マミー』(2014)を観ました。今作は父と娘の物語ですが、『Mommy/マミー』は母と子の深い愛情を描いており、その点で特に参考になりました。それからヴィンセント・ギャロ監督の『バッファロー’66』(1998)。そして、何度も観返したのが、アルフォンソ・キュアロン監督の『天国の口、終わりの楽園。』(2001)。大学の卒論もメキシコ・ヌーヴェル・ヴァーグについて書いたほど、個人的に大好きな作品でもあるんです。

──最後にあなたの制作会社の今後について教えてください。

次作はケリー・ガーディナーによる、マドモアゼル・ド・モーパンの名で知られるジュリー・ドービニーのフィクション伝記『Goddess(原題)』になります。ドービニーは17世紀から18世紀にかけてフランスで活躍したバイセクシュアルのオペラ歌手で、剣術家でもあり冒険家でもあった。ヴィクトリア朝以前のヨーロッパは驚くほど自由でオープンな時代だったので、今よりずっと開かれていたと感じるかもしれません。女性の多様な経験を物語として語ることが私たちの制作会社「ドゥ・デイムス・エンターテインメント」の大きな指標なので、それにぴったりとハマる作品になっています。私は母親がフランス人なので、フランスの女性の物語を語れることにもワクワクしているところです。

『ブリーディング・ラブ はじまりの旅』
監督/エマ・ウェステンバーグ
出演/ユアン・マクレガー、クララ・マクレガー
7月5日より全国公開
https://longride.jp/bleedinglove

Interview & Text: Rieko Shibazaki