FASHION / TREND & STORY

カンペールのクリエイティブを監修する気鋭、アキレス・イオン・ガブリエルとは何者なのか?

スペイン・マヨルカ発のシューズブランド、カンペール(CAMPER)を手掛けるアキレス・イオン・ガブリエル。2019年にエクスクルーシブラインであるカンペールラボ(CAMPERLAB)のクリエイティブ・ディレクターに就任後、ひねりが効いたカラフルで造形的なシューズを送り出し、ファッション感度の高いファンを虜にしている。現在はカンペール全体のクリエイティブも監修。来日した彼に、キャリアやデザインフィロソフィーを訊いた。

──シューズデザインの道に進んだきっかけは?

フィンランドの大学でシューズデザインを学びました。実は建築を勉強する予定だったのですが、書類を提出する直前にシューズデザインの学科に変更したんです。母はとても怒っていましたね(笑)。「シューズデザイナーでは生計は立てられないでしょう」と。でも私は頑固なので、その決意を曲げませんでした。工業的な技術を学べる大学だったので、一から靴作りを習得することができました。

──なぜシューズデザイナーを目指したのでしょうか?

有名な建築家は知っていましたが、シューズデザイナーに関しては名前をあげられる人がいませんでした。であれば、自分がなってしまおうと思って。幼い頃から探究心が強く、知らないことをとことん知り尽くしたいと思う癖があるんです。

──これまでのキャリアについて教えてください。

大学を卒業した後、パリに引っ越しました。フランス語が話せないので、就職ができず、自分のシューズブランドのイオン(ION)を立ち上げることにしました。一人で始めたので手探りでしたが、バイヤーが興味を持ってくれましたね。ラインシート(絵型と値段などが書かれた資料)もなかったんですが、ロンドンに店舗を構えるエルエヌシーシー(LN-CC®)のバイヤーが作り方を教えてくれました。その後、デザインの仕事も受けるようになり、マルニMARNI)やスンネイ(SUNNEI)、マリメッコMARIMEKKO)、レイブ(RAVE)といったブランドで経験を積みました。

DOVER STREET MARKET GINZAのエクスクルーシブアイテムとして登場したカンペールラボの人気モデル。革新的な構造により接着剤を使用せず、循環型、ゼロ・ウェイストのアプローチを実現している。「TOSSU」¥51,700/CAMPERLAB

曲線的かつユニークなデザインのソールが 圧倒的な存在感を放つ。「TORMENTA」¥64,900/CAMPERLAB

──2019年にカンペールラボのクリエイティブディレクターに就任しました。初めに、どのようなディレクションを行なったのでしょうか?

カンペールラボ(CAMPERLAB)のデザインを手掛けることが決まったとき、メインラインのカンペールCAMPER)とはしっかり差別化をしたいと思いました。なので、カンペールラボの既存商品は残さず、ロゴも変更して、一からスタートすることにしました。ちなみに、カンペールというブランド名はマヨルカ語で“農夫”という意味があり、カンペールラボのデビューコレクションでは農家の人々からインスピレーションを受けたシューズをデザインしました。

──2022年からはカンペールのクリエイティブ戦略を統括するようになりましたね。

カンペールはしっかりヘリテージのあるブランド。あまり大きくイメージを変更せず、より明確にメッセージを発信することからスタートしました。カンペールラボではより実験的なデザインを発信し、カンペールではブランドのDNAを生かして提案をしています。先日80代の女性が、カンペールラボのヴェンガ(VENGA)ブーツを履いているのを見かけました。20〜30代にも人気の形ですが、私は特定な年齢や性別などのターゲットを設けず、幅広い人々に履いて欲しいと思っていたのでうれしかったですね。

カジュアルにもフォーマルにも活躍するシャープなシルエット。「VENGA」¥85,800/CAMPERLAB

アーティスティックなシルエットが印象的なショートブーツ。カンペールのウィメンズライン 2023-24年秋冬コレクションで新登場した「NIKI」¥39,600/CAMPER

──アキレスさんのデザインは、色使いが大胆で、アートオブジェのように見えるアイテムが数多くあり、見ているだけでも楽しいです。インスピレーションはどのように得ていますか?

日常からインスピレーションを受けますね。私は旅行が好きで、旅先の美術館を訪れたり、普段からたくさんの本を読んだり、映画を見たり。昨日は東京でも抱えきれないほどの本を購入しました。できるだけたくさんのものを見て、特定のものには縛られないようにしています。

Instagram content

This content can also be viewed on the site it originates from.

──個人のインスタグラム@achillesiongabriel)でもご自身のファッションを紹介していていますね。どのようなスタイルが好きですか?

服はいつも感覚で選ぶので、自分のスタイルを説明するのは難しいですね。デザインするのと一緒で、毎シーズン好みは変わりますが、1シーズンで終わるものは好みません。今日はバレンシアガBALENCIAGA)のスーツを着てきましたが、マヨルカ島ではスーツを着ている人はいないので非日常的なアイテム。私は現在38歳ですが、これまでスーツを着用して仕事をすることはなかったので、個人的には新鮮でユニークなんです。

鮮やかなターコイズカラーは2023-24年秋冬コレクションのキーカラー。カンペールのウィメンズライン「BCN」¥35,200/CAMPER

──2023-24年秋冬コレクションについて教えてください。

この前のコレクションが落ち着いた色を使っていたので、その反動から明るい色にしたいと思っていました。秋冬の装いは自然と暗くなるのでぴったり。キーカラーのターコイズは、フリーマーケットで見つけたネックレスをヒントにしました。

トレンドのローファースタイルは遊び心溢れるカラーコンビで人と差をつけたい。「TWINS」¥31,900/CAMPER

Instagram content

This content can also be viewed on the site it originates from.

──ジュリア・フォックスを起用したキャンペーンも印象的でした。空き瓶を頭に叩きつけるビジュアルには、どのような意味を込めましたか?

今シーズンは、「失敗してもいい」というメッセージを込めています。失敗は成功のもとで、学べることがたくさんあります。タイトルは「Fail Winter(失敗の冬)」で、秋冬(Fall Winter)の、フォール(Fall)とフェイル(Fail)をかけた、言葉遊びになっています。

Instagram content

This content can also be viewed on the site it originates from.

私はこの仕事が大好きで真剣に取り組んでいますが、深刻になりすぎるのはよくないと感じます。ちょうど、大胆で勇敢な人を思い浮かべたときに、ジュリアがぴったりだと思いました。撮影のオファーをすると、快く引き受けてくれて。頭で空き瓶を割るシーンは当初2回でお願いしていましたが、満足のいく写真が撮れるまで8回も挑戦してくれました。

自然とアウトドアの世界からインスピレーションを受け、石の自然な曲線を思わせる厚く丸みを帯びたプロテクティブ・アウトソールが特徴。「KARST」¥30,800/CAMPER

頑丈かつ超軽量のEVAアウトソールにかかとの保形性を高めるパーツを組み合わせている。グリップ力に優れ、快適な履き心地が実感できる。「PELOTAS MARS」¥40,700/CAMPER

──今後やってみたいことは?

もうすでに確立された有名ブランドではありますが、しっかりと前進させていくこと。

特にカンペールラボではシューズのカテゴリーも充実してきたので保守的にならず、健全な成長を目指しています。2024年春夏シーズンにはカンペールラボから初のレディ・トゥ・ウェアのコレクションをリリースします。デビューシーズンは少数気鋭の小さなコレクションから開始しますが、たくさんのアイデアがあるので将来的に商品数を増やしていきたいと考えていますね。ぜひ楽しみにしていてください。

カンペールラボ2024年春夏コレクションの展示会の様子。

Info

Profile
アキレス・イオン・ガブリエル
カンペール クリエイティブ・ディレクター。フィンランド生まれ、フィンランドでシューズデザインを学んだ後、2012年に自身の名を冠したイオンをパリで設立。その後、マルニやスンネイ、マリメッコなどのブランドのコンサルティングを行った後、2019年にカンペールラボのクリエイティブ・ディレクターに就任した。2022年よりメインブランドであるカンペールも率いており、プロダクトデザインからブランドコミュニケーションまで、全てのクリエイティブ戦略を統括する。

CAMPERLAB POP UP STORE
会期/2023年10月28日(土)~ 11月22日(水)
場所/DOVER STREET MARKET GINZA 東京都中央区6-9-5 ギンザコマツ西館
問い合わせ先/カンペールジャパン 03-5412-1844
https://www.camper.com/ja_JP

Photos: Dai Yamashiro(Portrait), Courtesy of Camper Interview&Text: Mami Osugi  Editor: Mayumi Numao