世間から温かく迎え入れられ、飛躍的な成長ぶりを見せているシェミナ・カマリ率いるクロエ(CHLOÉ)。そのあまりの反響の大きさに、カマリが戸惑ったとしても不思議ではない。2000年代を風靡した“クロエ・ガール”を蘇らせただけでなく、1970年代にカール・ラガーフェルドが築いたエアリーなスタイルを鮮やかに再解釈した彼女は、各方面から絶賛を受けており、カマラ・ハリスも大統領選挙戦の運動で、カマリが手がけたパンツスーツを何着も着用。とはいえ、カマリにも例外なく、プレッシャーはのしかかっている。昨シーズンと同じように、今季も期待に沿うコレクションを披露してくれるだろうか。そしてそれは、目まぐるしく変わる今の政治・経済情勢をしっかり鑑みたものになっているだろうか。
そういったプレッシャーを感じていることを、プレビューでどことなくほのめかしたカマリは、この1年を振り返り、クロエを“ステレオタイプ”から脱却させ、メゾンが持つイメージをより広げたかったという。「女性のワードローブはある意味、時間とともに自然に進化するものです。綿密に作り上げられるものではありません。時間をかけてアイテムを買って、収集する。大切に取っておく服もあれば、誰かに譲る服もありますし、持っていることを忘れていて、魅力を再発見するピースもあります」と、女性のために服を作るデザイナーならではの発言もした。
たしかに、彼女の言う通りだ。しかし、今回のコレクションはいくつかのテーマに沿っており、カマリが言う“魅力の再発見”はそのひとつに過ぎず、1970年代と90年代の女性たちが実践していた、反骨精神あふれるスタイルに立ち返った。、ヒッピーとグランジを融合させたこのスタイルは、かつてメゾンのクリエイティブ・ディレクターを務めたステラ・マッカートニーとフィービー・ファイロも親しみがあるもので、マリアンヌ・フェイスフルやアニタ・パレンバーグといった、自分の物差しで古き良きものやファッションを楽しんだ、60年代の元祖イットガールたちに代表される。
彼女たちが好んでいた装いを「イギリスらしさや、昔の貴族」に着目するきっかけとなったと語るカマリは、そこからオープニングを飾ったルックに見るスタイルを創出。クローゼットの奥に眠っている、ヴィンテージもののヴィクトリア朝風のジャケットやファーのストール、代々受け継がれてきたジュエリーで着飾り、スリップやナイトガウンをマキシドレスとして纏う、どこまでも自分らしい女性像を打ち出した。フェイクファーもふんだんに散りばめ、新たに発表されたバレエシューズや、ファイロ期を象徴する「パディントン」バッグの復刻版を取り入れたこれらのルックは、現代を生きるイットガールのために、モダンな仕様に進化していた。
それと同時に、カマリは80年代初期のラガーフェルド時代のクロエをインスピレーションに、今のイットガールたちが纏うファッションを独自にアレンジ。当時のランウェイで披露されたドルマンスリーブのレザーロングコートなどを、ファーで縁取られたキルティングコート、クチュール仕立てのバイカージャケットとして再解釈し、ヒップにクリノリンがあしらわれたレースパニエのドレスで、イブニングウェアのシルエットを突き詰めた。
そのままロマンティックなクロエの世界観を展開し続けるのかと思いきや、後半は意外にも、ビッグショルダーやミニスカートに特徴づけられる80年代初期のファッションに焦点をシフトしたカマリ。決して政治的なメッセージを発信するタイプのデザイナーではない彼女だが、元ファースト・レディのナンシー・リーガンやイギリスの元首相マーガレット・サッチャーを彷彿とさせるリボン付きのブラウスは、現代への何かしらのメッセージだろうか。柔らかな強さ、女性を形作る何かを、そこには感じた。
Text: Sarah Mower Adaptation: Anzu Kawano
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