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ココ マドモワゼル、ミス ディオールetc.、誰をも魅了する「シプレー」のフレグランス

クラシックとモダン、二つの顔を持つシプレー。香水の歴史において肝要で鉄板とも言えるこのファセット(※)にスポットを当てたい。※ジェンダーレス化が進む香水のトレンドの背景や主要な7つのファセットについて解説。「プロが教える、フレグランスの選び方ガイド」の記事もチェック。
ココ マドモワゼル、ミス ディオールetc.、誰もを魅了する「シプレー」のフレグランス
Photo: Hiroki Watanabe(TRON)

シプレー 時代を映し出しながら進化し続ける香り

ベルガモットやローズ、ジャスミン、オークモス、パチョリ、ラブダナムの6種の香料がベースとなる、シプレーのアコード。「現在、“モダンシプレー”と呼ばれているものはクラシックタイプと大きく印象が異なります。シプレーのアコードをつくり出す6つの香料のうち、ラブダナムがムスクに置き換わったり、天然香料を使っていたジャスミンやローズなどが合成香料の軽やかなタイプに置き換わり、クラシックシプレーに比べると軽やかで明るい香りだちです」と香りの専門家でありフレグランススクール「サンキエムソンス ジャポン」の代表を務める小泉祐貴子さん。「モダンシプレーは、少し前のフローラル フルーティのように嗜好性の高いもの──つまりみんなが好きと感じるような香りになってきています」。そのモダンシプレーの代表格として挙げられるのが、シャネルCHANEL)の「ココ マドモワゼル」やディオールDIOR)の「ミス ディオール シェリー 」(※生産終了)。これらは2000年代はじめ、モダンシプレーの黎明期と言える頃にヒットし、多くの人を魅了した。「核を担う6つの香料の香り立ちをモダンにし、時代が求める香りに進化しているのです」。時代を映し出すものは色々あるが、香りもその一つであり、魅力だろう。

シプレーのもつ香りの表現力

1917年のコティ(COTY)の香水「シプレ」の発表により、多くの人に認知されたこのファセット。小泉さんは、「女性らしく洗練された、ファッショナブルな香り。大胆不敵な感情や贅沢なムードを感じさせます」とシプレーの印象について語る。また最近、シプレー フルーティの香りが数多く発表されている。「日本では特にフルーティノートを感じるものの方が嗜好性が高く、好まれる傾向にありますね」。モダンシプレーの瀟洒な香りは、華やぎと心地よさをもたらし日々を洗練されたものにしてくれる。

スパイスの刺激的な香りや、華やかで豊かな色彩。モロッコの伝統文化を想起する香りを持たせた。ジャスミンやネロリ、ベルガモットなどによるエジプトジャスミン アブソリュートのセンシュアルな香りに溶け出すのは、芳醇なウッディ。その内に秘めた情熱を見るような芳香に軽やかなトップの印象が浮き上がる。マラケッシュ インテンス パルファム 50ml ¥16,170/イソップ・ジャパン(カスタマーサービス 03-6271-5605)

国産オーガニック玄米エタノールの香りを生かし、ベースに用いた新シリーズ。“心で聞き、内なる己を覚醒する“がコンセプト。国産のヒノキやわずかな苦味を効かせたクラリセージの甘み、ガルバナムの温かさなどが複雑に絡み合い、アロマティックに芳香。肌を包むように馴染みながら、香りを広げる。サウンド スキン パフューム ロイヤルj #マイ アナキズム 50ml ¥19,800(2023年11月14日発売)/アーレス(03-6455-4717)

時代を超越した新しい女性像を描き、2001年に誕生。爽快でありながらセンシュアルな香りは、シチリアのオレンジとカラブリアのベルガモットがはじける。その清新さにパチュリやバーベナなどを散りばめた。真昼の眩い光を想起させる輝くような香りは、洗練とフレッシュな官能性の間を軽やかに吹き抜ける。ココ マドモワゼル オードゥ パルファム 50ml ¥15,400、100ml ¥21,560/シャネル カスタマーケア(0120-525-519)Photo: ©︎CHANEL

主題のイランイランの花の魅力を際立たせる、まろやかな甘みのガーデニア。パチュリやオークモス、ベチバー、サンダルウッド、安息香それぞれの個性を重んじて調香したシプレーフローラル。フレッシュで青々しい花束、あるいは汚れを知らない空気に包まれた森林浴。その静かなエネルギーに美しいコントラストを生むのは、微かな翳り。シプレーフローラルイラン 49 100ml ¥42,900/ル ラボ お客様相談室(0570-003-770)

ベルガモットオイルやピンクペッパーオイルなどが爽やかに香るトップに、ローズペタルエッセンスやゼラニウムオイルなどの溶け出す、シプレ フルーティ。プロヴァンスの壮大なブドウ畑を見下ろす夕暮れ時を想起させる香りは、色づいたブドウと摘みたてのローズが描く、ロマンティックな記憶。レプリカ オードトワレ オン ア デート 30ml ¥11,880、100ml ¥23,540/メゾン マルジェラ フレグランス (03-6911-8413)

※ファセット…香りのタイプのことで全18種ある。同じ分類に属する香料同士をブレンドしてつくられる。

話を聞いたのは……
小泉祐貴子
香りデザイナー。サンキエムソンス ジャポン代表。慶應義塾大学理工学部卒業後、資生堂、香料会社フィルメニッヒを経て、2014年にセントスケープ・デザインスタジオを設立。コンサルティング、香り環境デザイン、香水のプロデュースなどを幅広く手掛ける。近著に『英国王立園芸協会 香り植物図鑑』(Stephen Lacey著 小泉祐貴子訳/柊風舎 刊)。
https://www.cinquiemesens.jp

Text: Akira Watanabe Editor: Rieko Kosai