「30代に入ってから、私は自分の人生について深く考えることが多くなり、変化の時期を迎えたと感じていました。するとある人から「それはきっとサターンリターンのせいですね。大抵の人は28歳から30、31、32歳の間で人生が変化するものです」と言われたのです。サターンリターンのことを何も知らなかった私は“一体それは何? なぜ事前に忠告してくれないの?”と思わず言ってしまいました」
2023年12月、UK版『VOGUE』に自身の近況についてこう語り始めたエマ・ワトソンは、今年34歳を迎える。これまで順調にキャリアを築いて来た彼女だが、映画は『Little Women』(2019)の出演を最後に、2022年にプラダ ビューティのフレグランス「パラドックス」のPVで主演・監督・脚本・ナレーションを務めて以降映像作品への出演はなく、現在もスポットライトから意図的に離れている。
自身の内面に、明らかに大きな変化が訪れている──そう感じた彼女は、取り立てて占星術を信じているわけではないと語りつつも、土星が出生時の位置に戻るサターンリターンが、目下自身の人生に大きく影響しているのではないか?と自身のInstagramアカウントで明かしたところ、瞬く間に多くの“いいね!”が寄せられたという。
Instagram content
This content can also be viewed on the site it originates from.
「私は、変化がめまぐるしいこの業界でずっとキャリアを積んできました。カメラの前に立たないときがなかったので、今のように現場を離れることは私にとって恐怖でしたが、(俳優業から離れて)今は本当によかったと思っています。なぜなら、以前よりずっと自分の信念や作品に自信が持てるようになり、何より自主性を取り戻したような気がするのです」
エココンシャス・ビューティーを牽引
10代の頃からずっと“世界”と人生をシェアして来たエマは、一方でアールエムエス ビューティー(RMS BEAUTY)やリリーロロ(LILY LOLO)、イニカ(INIKA)、ジェーンアイルデール(JANE IREDALE)等のクリーンビューティーブランドをいち早く愛用し、ファッションもエココンシャスを最優先にしてきた環境活動家としても知られる。そして、そのきっかけは学校時代の地理教師の導きが大きく関係していること、そして、自身の”開眼”のきっかけには、学校時代の地理教師の導きが大きく関係していると明かし、特に10代でバングラデシュの縫製工場を見学した時の事は未だに脳裏から離れないと続ける。
「その縫製工場では、私とちょうど同い年の女の子が働いていました。“なんと言うこと! もし私と彼女の生まれる場所が違っていたら、私がここで働いていたのかもしれない。私たちの人生はまったく違うものになっていたなんて!”と、その時強い衝撃を受けたことを今でも思い出します」
その後化粧品の原料をチェックしたり、服を大切に扱うようになるなど、ものに対する向き合い方が大きく変化したという彼女は、業界で活躍するようになってからこの時受けた衝撃を仕事仲間に説いて回った。しかし、その度に笑われたり取り合ってもらえなかったことから、周囲の意識のあまりの低さに幻滅したという。
「当時は、一緒に仕事をした関係者たちにいつもこの話をしました。でも、そのたびに“そんなこと、気にしなくてもいいじゃない”と皆私を笑い飛ばしたのです。だから徐々に“私一人が説いて回ったところで、世界がすぐに変わるわけじゃない”と言う考えに苛まれ、一時は心が折れてしまったこともありました。変化には時間がかかるということを学んだのです」
心のよりどころ、ファミリービジネス「Renais」
しかし、その後も真摯に環境問題に取り組んで来たエマは、現在キャリアの第一線から一旦退き、父クリスがこよなく愛するフランスで展開しているプレミアムジンブランドのRenais(ルネ)の事業に全力を注いでいることをイギリス『Financial Times』紙に明かした。
「私の父親はすごいオタクなんです(笑)。それに、フランスと白ワインのシャブリが大好き。1987年に父はシャブリの素晴らしさと出会ってから、1991年にブルゴーニュにワイン畑を買い、そこから地元の人とともに一大ワイナリーを作り上げました」
父クリスが愛するシャブリは、フランス・ブルゴーニュ地方の7 つの区画に広がる最高峰のグランクリュ(ぶどう畑)で収穫されるぶどうから製造される世界的に人気の白ワインだ。同ブランドのジンはぶどうベースのため、その栽培にこのトップクラスのぶどう畑を使用し、周辺で唯一環境に配慮した有機農法を採用しているという。そして、毎年の収穫期における最高のぶどうを使用し、原料アルコールをボージョレの蒸留所で製造し、その後イングランド北部で蒸留するというプロセスを経ている。
Instagram content
This content can also be viewed on the site it originates from.
「私は映画俳優の道を進みましたが、弟のアレックスにもモデルや映画俳優のオファーがたくさんありました。ですが、16歳の時にレストランやパブで働いてから、ホスピタリティの素晴らしさを知った彼は、すべのオファーを断りました。当時は父親から少額のお小遣いをもらっていた身分でしたから、魅力的なオファーに対し“NO”と言うのは相当勇気が要ったと思います(笑)」
そんなエマの片腕として、現在経営の中心人物となっているのが弟アレックスだ。ジンブランドのタンカレーやウィスキーブランドのジョニーウォーカー等のブレインを務めた彼は、満を持して姉エマとともに事業拡大に参戦。以降順調にビジネスは拡大し続けている。
同ブランドの株主として経営に関わり、毎年ぶどうの収穫にためにフランスに“帰る”たびに幸せな気分に浸ると言うエマ。パンデミックのロックダウン中には詩やエッセイを書き始め、オックスフォード大学でクリエイティブライティングの修士号も取得する予定だという彼女は、2024年には俳優業に復帰する可能性も示唆している。
「俳優をしている間は、正直なところあまり幸せを感じたことはありませんでした。常に何かにコントロールされている感じがしていたからです。これから私の人生がどこへ向かうのかは分かりませんし、きっと間違いを犯すこともあるでしょう。でも今は、ファミリープロジェクトである『Renais』を、弟と一緒に成功させたいだけ。私たちが作っているのは、誰もが楽しめるオーガニックのラグジュアリーなジンで、セレブリティブランドではありません。言い換えればこれは私の心の拠り所でありファミリーのレガシーなのです」
参考文献:
https://abcnews.go.com/GMA/Culture/emma-watson-talks-decision-step-away-acting-glad/story?id=105687920
https://www.vogue.co.uk/article/emma-watson-british-vogue-interview
https://www.latimes.com/entertainment-arts/movies/story/2023-05-02/emma-watson-interview-acting-little-women
https://www.ft.com/content/045a2d24-f207-4cc3-9a55-5d61a9633bf0
https://www.forbes.com/sites/lelalondon/2023/10/26/alex-and-emma-watson-are-not-making-celebrity-booze-at-renais/?sh=76b6e7d6750c
https://intothegloss.com/2017/03/emma-watson-beauty-routine
Text: Masami Yokoyama Editor: Rieko Kosai