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クリス・ジェンナーがSNS全盛時代に築いたビューティー帝国とカーダシアン=ジェンナー家の成功【VOGUE BEAUTY NEXT】

ケンダル&カイリー・ジェンナー姉妹、そしてカーダシアン三姉妹ら実娘をブランド化し、世界一のインフルエンサーに育て上げた“ママジャー”こと母クリス・ジェンナー。いち早く時代の波をキャッチし、SNSを駆使してファミリーとビューティビジネスを成功へと導いた“カーダシアン&ジェンナー帝国のクイーン”の手腕と哲学をクローズアップする。※2024年12月8日(日)に、Z世代とともにプロデュースする、新世代イベント「VOGUE BEAUTY NEXT」を開催。新しい美の価値観を発信するコンテンツが満載の特設サイトもチェックして。
クリス・ジェンナー ケンダル・ジェンナー
Dave Benett/amfAR

「私は、子どもたちが人生を賭けてやりたいことを見つけるためのお手伝いをしただけ。そして、一人ひとりがビューティービジネスを立ち上げ、インフラを構築し、戦略に集中できるようあらゆるサポートをしただけです」

2022年、「フォーブス」誌のインタビューでこう語ったクリス・ジェンナーは、1955年11月5日アメリカ・カリフォルニア州サンディエゴ生まれの69歳。別名“世界一のプロデューサー&インスタグラムの顔”の異名を取る彼女には、世界一のインフルエンサーの呼び声も高いコートニー、キム、クロエ・カーダシアン3姉妹と、ケンダル&カイリー・ジェンナー姉妹、そして息子のロブの6人の子どもたちがいる。

2007年からアメリカで放映され、世界を一斉風靡したリアリティショー「カーダシアン家のお騒がせセレブライフ」がきっかけとなり一気に人気が上昇した彼女の娘たちの総計SNSフォロワー数は現在ゆうに10 億人を超えるという。また、コートニーのプーシュ(POOSH)をはじめ、キムのスキンバイキム(SKKN BY KIM)、ブランドとのコラボレーションを広く展開し、直近ではつけまつ毛ブランド、タッティ ラッシーズ(TATTI LASHES)からオリジナルコレクションをリリースすると発表したクロエ、そしてカイリーのカイリーコスメティクス(KYLIE COSMETICS)など、ファミリーが展開する15のビジネスも、紆余曲折を経て現在順調に利益を伸ばしている。

自分の価値を知ること

メットガラ2024にオスカー デ ラ レンタのエレガントなガウンを纏って現れた、クリス・ジェンナー。

Theo Wargo/GA

「娘たちのビジネスには個別のインフラストラクチャーがあり、会社を中心に構築されたチームがあります。プロジェクト立ち上げの時、私は娘たちにこう言いました。『私は取締役として、あなたたちのために人生をかけて働きます。ですから私は、 利益の10%を報酬として受け取ります。それが私の価値だから』と」

こう語ったクリスだが、現在まで企業の収益や個人の収入に関する財務情報を一切公に開示していない。が、「フォーブス」誌によると、スキンバイキムの1%、カイリーコスメティクスの5%、そしてクロエが共同創設したファッションブランド、グッドアメリカン(GOOD AMERICAN)の10%、そしてかつてはスキンバイキムの前身、ケーケーダブリュービューティー(KKW Beauty)の株式の推定10%を保有していたとされ、2021年1月に同社の株式20%をコティ社に売却した際には推定2,000万ドルを手に入れたとも言われている。

そんなファミリービジネスを成功へと導いたクリスの手腕について、有名人のファンダムと消費行動を研究しているイギリス・レスターのデモントフォード大学のウォルフェイル教授はこう分析する。

「ファンにとって、“推し”とは理想的な友人であり、パートナーであり、自分の欲望を投影する対象です。クリスは、リアリティショーやSNSを駆使して、娘たちとファンの距離をこれまで以上に近づけ、その親近感をセールスへと繋げました。そして彼女は、娘たちの適性を正確に見極め、“ブランド”として実働させる能力に長けています。見方を変えると、クリス・ジェンナーとは、SNS全盛時代における“ウォルト・ディズニー”のような存在とも言えるでしょう」

カーダシアン=ジェンナー帝国の誕生

「カーダシアンとの結婚生活において当時の私には、自由になるお金が1ドルもありませんでした。すべて彼にコントロールされていたため、自分に力のないことをいつも痛感していたのです。だからこそ、晩年はこのような状態から抜け出して、人生の全てを完璧に組織化しようと決心したのです」

複数のキャンドルストアを経営していた家庭に生まれ育ったクリスは、高校卒業後アメリカン航空の客室乗務員として勤務していた。その時に知り合った弁護士のロバート・カーダシアンと結婚した彼女は、ロブ、キム、クロエ、コートニーをもうけたが、1991年に離婚。その後ロバートは1995年に妻ニコール殺害容疑で裁判中の元アメリカンフットボール選手「O・J・シンプソン事件」の弁護団の一員として世界の注目を集めるまでになったが、2003年に他界した。

2010年、当時4歳のケンダルを抱き上げる、ウィリアム・ブルース・ジェンナー。そしてその隣に寄り添うクリス。

Ron Galella, Ltd.

2007年、「カーダシアン家のお騒がせセレブライフ」のプレミア上映会のパーティーに一家揃って出席。

Jeff Vespa

一方彼と離婚直後、元オリンピック十種競技金メダリストだったウィリアム・ブルース・ジェンナー(以下、ブルース)と結婚したクリスは、彼との間に生まれたケンダルとカイリーを含む子どもたちを養うための資金繰りに奔走した。そして、講演会やCMの仕事をとってきてはブルースを表舞台に出すため“プロデュース”していった結果、潤沢な資金を調達できるようになった一家は、カリフォルニアの大邸宅「Hidden Hills」に転居。さらに、当時51歳で子ども服店を経営していたクリスの元に、キャスティングディレクターだった友人から「カーダシアン家のお騒がせセレブライフ」の企画が舞い込み、ついにブレイクのチャンスを掴んだ。が、2015年にブルースは「ケイトリン」と改名し、トランスジェンダーであることをカミングアウトすると同時に二人は離婚した。

失敗から世界一のインフルエンサーへ

コートニーとキムの殴り合いのケンカや、家族の試練をリアルに捉えた同番組は放映開始直後から大当たりしたが、この時点ではジェンナー姉妹もカーダシアン3姉妹もまだ無名に近い存在だった。そこでクリス娘たちの名声をさらに上げるべく、彼女たちの名前を冠したファミリービジネスに乗り出した。ケンダルとカイリーはファッションブランド、ケンダルアンドカイリー(KENDALL+KYLIE)、コートニー・キム・クロエを3姉妹としてブランド化し、2012年にビューティーブランド、クロマビューティー(KHROMA BEAUTY)としてローンチ。しかし、後者はヒット作に恵まれず、店頭でも取り扱われたのはわずか1年だった挙句、著作権侵害等の訴訟に見舞われ、さらには同名のフロリダの会社からブランド名の盗用として1,000万ドルの損害賠償請求をされるなど惨憺たる結果に終わった。

しかし、2014年にゲームソフト開発会社のGlu Mobileから、キムをフィーチャーしたゲーム「Kim Kardashian : Hollywood」の企画が舞い込んできたことから、ファミリーに一発逆転のチャンスが訪れた。ユーザーがモデルや俳優としてハリウッドで成功を掴むまでの擬似体験を楽しめるこのロールプレイゲームが大当たりしたことから、 2016 年にはケンダル&カイリーバージョンをリリース。開発元のGlu Mobile社の決算は、これらカーダシアン、ジェンナーの名を冠したゲームのヒットで過去最高益を叩き出したとも言われており、この成功の根本的な要因について同社のCEOのデ・マシはこう分析している。

「クリスはすでに10年前から子どもたちのブランド化を計画していました。そして彼女もキムもとても礼儀正しく、時間通りに来てやると決めたことを実行します。簡単なことのように聞こえますが、これができるハリウッドセレブはなかなかいません」

成功に年齢制限はなし

バルマン 2105年春夏コレクションショーのフロントローで娘のキム・カーダシアンの隣に座る、クリス・ジェンナー。

Antonio de Moraes Barros Filho

続く2015年、リップキットの爆発的セールスから始まったカイリーコスメティクスの世界的な大ブレイクは、娘のカイリーに“セルフメイド・ビリオネア”の称号をもたらした。同時に、その母であるクリスは50代でファミリーをブランド化し、子どもたちを一流の起業家に育て上げたとして、成功には年齢制限などないことを立証。数々の失敗から学んだ教訓の活かし方と、2度の結婚から学んだ女性の経済力の大切さを身をもって啓蒙したクリスは、50歳を超えて成功を収めた女性たちにフォーカスする米『フォーブス』誌の「50 over 50」に2度目のリスト入りを果たしたとき、こんなふうに語っている。

「人には、自分の力を発揮できる場所とやり方を見つける能力があります。そして、それは自身を前進させるパワフルな力となります。いくつになっても、成功を急ぐ必要は決してないのです」

そして2024年。本格的に俳優業を開始したキムの多忙なスケジュールや厳しい予算等々の問題から、リアリティショーの継続が危ぶまれるなど、またしても大きな注目を集めているカーダシアン=ジェンナーファミリー。一方で、人生の折り返し地点で収めた成功を謳歌しているクリスだが、そんな彼女には一つだけ大きな心配事があるという。それは──。

「実は私には健康上の心配がいくつかあり、気を揉むことが多かったのですが、今はそれも乗り越えました。ですが、私の大きな子ども……私と誕生日が2日違いでつい先日29歳になったばかりの“ケンダル”というのですが、彼女にはまだ子どもがいません。妊娠・出産は、私の人生で最も美しい経験でした。ケンダルも、もう少し落ち着いて欲しいのですが……」
こう語る母クリスに対し、当のケンダルはこう答えている。

「ママ……またその話? もういいから、後にしてね(笑)」

参考文献:
https://www.forbes.com/sites/lisettevoytko/2022/10/14/how-kris-jenner-made-the-kardashians-famous-rich-and-insanely-influential/
https://www.pedestrian.tv/entertainment/kris-kendall-jenner-interview/
https://www.vogue.com/article/kendall-jenner-summer-2024-cover-interview
https://www.coty.com/news/coty-completes-purchase-of-20-stake-in-kim-kardashian-west-business
https://fashionista.com/2018/08/failed-kardashian-businesses-beauty-brands
https://www.glu.com/games/kim-kardashian-hollywood/ 
https://kendall-kylie.en.aptoide.com/app
https://www.yahoo.com/entertainment/kris-jenner-freaking-money-slashed-174420719.html
https://people.com/kendall-jenner-says-mom-kris-needs-to-chill-after-calling-her-out-as-the-last-sibling-to-have-a-baby-8683462