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世界が認める女性建築家・インテリアデザイナーのプロパティを訪ねる【未来を切り拓く女性たち vol.1】

未だ男性優位と感じられる分野においても、狭き門をくぐり抜け、第一人者として世界から認められる女性たちがいる。既成概念にとらわれずに、活躍のフィールドを広げる彼女たちを3週に渡ってフォーカス。第一弾は、建築やインテリアデザインの分野で活躍する女性たち。

【タラ・バーナード】世界のラグジュアリーホテルブランドが絶対の信頼を置くデザイナー

クリエイティブな才能とインスピレーションを結集してデザインする仕事は、映画監督に似ているという。

2023年、19回目を数える米ホスピタリティ・デザイン誌のデザイナー・オブ・ザ・イヤーを受賞したタラ・バーナードは、ロンドンの閑静な住宅街ベルグラヴィアにオフィスを構え、コンラッド、フォーシーズンズやローズウッドなど、名立たるホテルが競うように指名する当代一流のデザイナーだ。学生時代は映画の世界を目指したが、卒業後は不動産ビジネス、そしてインテリアデザインの仕事に就き、フィリップ・スタルクのスタジオYOOを経て、2002年に独立を果たした。

【ローズウッド ミュンヘン】ホテルの空間を使って現代と過去のミュンヘンを対比させた。Photo: Davide Lovatti

グローバルな感性とその土地の風土や文化との調和を大切にするタラの最新作は、旧バイエルン州立銀行本店と隣接するノイハウス プレイジング宮殿という2つの歴史的な建物をホテルに改修したローズウッド ミュンヘン。荘重なロビーの階段、アーチ天井、フレスコ画といったバロック建築の名残りと、モダンなインテリアとの巧妙なバランスは彼女の真骨頂だ。昨年8月、カリブ海に面したリビエラ・マヤにオープンしたマロマ、ア・ベルモンド・ホテルでは、オアハカの手織り織物、サルティヨのタイルなど、メキシコの伝統工芸からインスピレーションを得て、アシエンダと呼ばれる中米の大農場の雰囲気を再現した。

【マロマ、ア・ベルモンド・ホテル】家具やオブジェの80%はメキシコ国内で手作りされたものを使用。

ローズウッド ミュンヘン(Rosewood Munich)
Kardinal-Faulhaber-Straße 1, 80333 Munich, Germany
Tel./+49-89-8000-190
https://www.rosewoodhotels.com/en/munich

マロマ、ア・ベルモンド・ホテル リビエラ・マヤ(Maroma, A Belmond Hotel, Riviera Maya)Carretera Cancún-Tulum, Km 51, 77710 Riviera Maya, Quintana Roo, México
Tel./+52-984-370-0400
https://www.belmond.com/hotels/north-america/mexico/riviera-maya/belmond-maroma-resort-and-spa/

【パトリシア・ウルキオラ】あふれるアイデアを活かして、常にイノベーティブな空間を創造する

ミラノのデザイン界を主導するひとり、アッキレ・カスティリオーニに大学で出合ったことがこの世界に入るきっかけに。Photo: Massimiliano Sticca

スペイン出身のインテリアデザイナー、パトリシア・ウルキオラは、マドリッド工科大学やミラノ工科大学で建築学を学んだ後、デザインの世界に飛び込んだ。B&Bイタリア、アレッシィやフロスなどの家具、照明のデザインを手がけるほか、カッシーナのアートディレクターも務める絵に描いたようなパワーウーマンだ。昨年3月に開業したシックスセンシズ ローマをはじめ、ヴェネツィアのカディ・ディオやコモ湖畔のイル セラーノなど、ラグジュアリーホテルのインテリアも数多く手がけ、英国に拠点を置く世界有数の建築デザイン専門サイトDezeenでは、2023年のインテリアデザイナー・オブ・ザ・イヤーに選ばれた。

【カディ・ディオ】ムラーノガラスなど、ヴェネツィアの伝統を象徴する素材とデザイン要素をインテリアに取り入れた。Photo: Patricia Parinejad

トレンドに流されない姿勢と、湧き出るように生まれる創造性こそが彼女のデザインの核であり、ヴェネツィアのカディ・ディオでは、川面のきらめきを感じさせるカラーパレットをインテリアに取り入れて、水の都に敬意を払った。歴史ある貴族の邸宅パラッツォ・サルヴィアーティ・チェージ・メリーニを改装したシックスセンシズ ローマでは、古代遺跡にも使われている壁材コッチョペストやトレビの泉などで知られる石材トラバーチンなど、伝統的な建築素材とモダンなデザインの融合が見事だ。

【シックスセンシズ ローマ】ローマの古代遺跡にも使われている伝統的な素材とモダンなデザインを調和させた。

カディ・ディオ(Ca’ di Dio)
Riva Ca' di Dio, 2183, 30122 Venezia, Italy
Tel./+39-041-09-80-238
https://vretreats.com/en/ca-di-dio/

シックスセンシズ ローマ(Six Senses Rome)
Piazza di San Marcello, 00187 Rome, Italy
Tel./+39-06-8681-4000
https://www.sixsenses.com/en/hotels/rome

【東利恵】その土地の文化や歴史を、ホテルの非日常空間に取り込む

星のや軽井沢を皮切りに、星のや富士、星のや東京なども手がけ、ブランドの画一性より施設ごとの個性を追求。

名建築家・東孝光の長女であり、後継者として「東 環境・建築研究所」の代表を務める東利恵は、これまで星野リゾートのプロパティを数多く手がけてきた。どの施設においても「ゲストにどう過ごしてもらいたいか」を考えるところから、設計をスタートする。彼女が常に大切にしているのは、ホテルに求められる非日常性と、その土地の文化、歴史のコンテキストだ。

【星のや沖縄】海の近さを感じる、全室低層でオーシャンフロントの客室。Photo: Nacasa & Partners

JIA 優秀建築選に選ばれた星のや沖縄では、ホテルの敷地としては異例ともいえる約1kmにもおよぶ海沿いの細長い土地に、海岸線の風景と一体化した建物を並べ、沖縄の史跡「グスク」から発想を得たグスクウォールで周囲を囲った。地元の建築には欠かせないこのコンクリート製の壁は、無機質な素材で構成されながらも、激しい風雨から家を守ってくれるという安心感の象徴でもある。2023年土木学会デザイン賞優秀賞を受賞したOMO7大阪 by 星野リゾートでは、駅に面した緑豊かなガーデンエリアと、「OMOベース」と名付けた2階のパブリックスペースを緩やかな坂で繋げて、あえてホテルと街の境界を曖昧にした。2階は駅のプラットフォームと同じ高さにあり、電車という日常の風景とホテルという非日常の空間が交錯する。

【星のや沖縄】光の入らない深海のブルーをイメージしたレセプション。Photo: Nacasa & Partners

星のや沖縄
沖縄県中頭郡読谷村儀間474
Tel./050-3134-8091
https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/hoshinoyaokinawa/

OMO7大阪 by 星野リゾート
大阪市浪速区恵美須西3-16-30
Tel./050-3134-8095
https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/omo7osaka/

Text: Yuka Kumano  Editor: Sakura Karugane