【ジョルジアナ・ヴィウ&ルージュ】広告業界から美食の世界へと転身。西アフリカ出身の異色の女性シェフ
2023年のミシュランガイドで新たに星を取った44店のうち、南仏の都市ニームの1つ星「ルージュ」は、チームではなく単独の女性シェフが獲得した唯一の星だ。スターシェフの仲間入りを果たしたジョルジアナ・ヴィウは、1977年に西アフリカのベナン共和国で生まれ、22歳でパリに留学したが、通訳を夢見ていた彼女の心をつかんだのは、語学ではなくフランス料理だった。いったんはマルセイユの広告代理店に勤めたものの、料理の道に転身。10年間で3軒のレストランを立ち上げた後、2021年にルージュをオープンした。
ニームは、古代ローマの橋や神殿、今でも闘牛やコンサートの会場に使われている円形劇場などの遺跡が数多く残る観光都市。店はその円形劇場から直線で200mほどの場所にある。ジョルジアナの料理は、ブイヤベースが有名なマルセイユの地中海料理と、自身のルーツであるベナンの料理の融合。ただ“フュージョン”という言葉は好まず、あくまで彼女自身の自由な発想から生まれるモダンでクリエイティブな料理だ。最高品質の旬の食材を駆使したプレゼンテーションは、まるで一枚の美しい絵のようだ。
ルージュ(Rouge)
Margaret - Hôtel Chouleur, 6 rue Fresque, 30000 Nîmes, France
Tel./+33-4-48-27-08-00
https://www.margaret-hotelchouleur.com/
【ジネブ・ハッタブ&KLE】スイス・チューリッヒに彗星のように現れたプラントベースの1つ星
スイス最大の都市チューリヒのミシュラン1つ星「レストラン KLE」のシェフ、“ジジ”ことジネブ・ハッタブのキャリアはユニークだ。モロッコ移民の娘としてスペインで生まれ、バルセロナで工学を学んだのち、スイスに移住してソフトウェアのエンジニアになった。料理は、バルセロナの学生時代に作り始めたが、しだいに彼女の心のなかで大きな存在になり、エンジニアを2年で辞めて、料理の世界に飛び込んだ。イタリア・モデナ、スペイン・ビルバオ、ニューヨークなどの一流レストランを転々としながら技術を身に着け、2020年にスイスに戻ってKLEを開店した。
築200年の小さな家を改修して始めたKLEは、わずか数週間でゴー・エ・ミヨの「今月のシェフ」に選出され、2年後にはミシュラン1つ星を獲得、弱冠32歳でスターシェフの仲間入りを果たすという快挙を成し遂げた。アットホームで居心地のよい店は、すべて“完全菜食主義”のヴィーガンレストラン。ジジのルーツであるモロッコの伝統料理、幼少期のスペインや修業期間のイタリアで触れた料理、NYで身に着けたメキシコ料理などがミックスされた多国籍でモダンな料理だ。尽きることのない彼女の探求心は、さらに豊かでバラエティーに富んだ料理を生み出し続けている。
レストラン KLE(Restaurant KLE)
Zweierstrasse 114, Zürich 8003, Switzerland
Tel./+41-44-548-1488
https://www.restaurantkle.com/
【杉山あゆみ&アクサン・ターブル・ブルス】独創的なレシピの料理と繊細なテクニックのデザートのコラボレーション
パリ2区のブルス・ド・コメルスの近く、フェイドー通りにある「アクサン・ターブル・ブルス」は、杉山あゆみがオーナー兼シェフ・パティシエールを、ロマン・マイが料理長を務めるミシュラン1つ星のレストラン。北欧料理の影響を受けつつ、大胆な発想で海山の幸をミックスする料理は、ロマンの完全なオリジナルだ。熟成させた肉やキャビアを使うかと思えば、自家製の魚醤や味噌、黒ニンニクをアクセントに用いるなど、ユニークなフリースタイルを展開する。店名はフランス語でアクセントの複数形。さまざまなアクセントを持った素材が集まって一つのものを創り上げるという意味が込められている。
杉山あゆみは、21歳で初めてフランスに渡り、飛び込みで働いたレストランを皮切りに、吉野建シェフのステラ マリスや5区のル・トリュフィエールなどでパティシエールの研鑽を積んだ。2016年にアクサンをオープンし、その3年後にミシュラン1つ星を獲得。季節ごとにフィリングの素材を変えるスペシャリティ「ビュル・ドゥ・シュークル」など、フレンチをベースにしつつ、日本料理の繊細さと優しさを併せ持つデザートが絶妙。プティフールのシフォンケーキも大人気だ。
アクサン・ターブル・ブルス(Accents Table Bourse)
24 rue Feydeau, 75002 Paris, France
Tel./+33-40-39-92-88
https://accents-restaurant.com/
Text: Yuka Kumano Editor: Sakura Karugane