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時代は“オーダーメイド”へとシフト中。セシリー・バンセンやモリー・ゴダードが作る、待つ価値のある服

モリー ゴダードMOLLY GODDARD)やセシリー バンセンCECILIE BAHNSEN)などのデザイナーをはじめ、APOCストアといった小売店は今、オーダーメイドに注力している。スローファッションへのアプローチのひとつとして改めて注目されるサービスの魅力とは。
Photo: @Hans-Peter Henriksen

今を生きる若手デザイナーにとって、ビジネスを営むのは決して簡単ではない。あるレポートによれば、毎年150億から450億着もの服が売れ残っているということからも、現在の小売モデルの在り方は崩壊していると言っていいだろう。

そんななか、消費者に直接販売し、製造上の無駄を省くことができるオーダーメイドサービスに力を入れるデザイナーが増えている。カルト的人気を誇るデンマークのデザイナー、セシリー バンセンCECILIE BAHNSEN)はその流れを牽引するデザイナーの一人だ。今年3月、アーカイブ、ランウェイ、ブライダルの3つのカテゴリーからなるオーダーメイドサービスを開始した彼女は、専門のチームとともに各クライアントのニーズに合ったプロセスを提供している。彼女曰く、「よりゆっくりと服を作り、オートクチュールの伝統に敬意を払うことができるサービス」だと言う。

顧客にとって“待つ価値のある服”

Photo: Matt Healy

一方、ロンドンを拠点とするモリー ゴダードMOLLY GODDARD)もまた、ここ数年の間にオーダーメイドのビジネスを着実に成長させている。「顧客からの要望に応えるため、数年ほど非公式にやっていたことなのですが、近年はひとつのサービスとして公表するようになりました」とゴダード。なかでも2021年春夏コレクションで発表した「Pierre」ドレスは人気の一着だそうだ。「より手間のかかる作品を依頼されることが多いですね。前シーズンに買い逃したことを後悔していた方や、着用するのに最適な機会を待っていた方などからよくリクエストを受けています」

ゴダードもバンセンも、オーダーメイドピースの制作には最長12週間を要するというが、これは私たちの多くが慣れてしまった「今買って翌日に受け取る」という消費文化に対する必要な解毒剤だと言えるかもしれない。

Photo: @Hans-Peter Henriksen

ジャワラ アレイン(JAWARA ALLEYNE)、ナディーン モス(NADINE MOS)、リチャード・マローンRICHARD MALONE)といった気鋭デザイナーを扱うAPOCストアでは、ラインナップの35〜40%をオーダーメイドで展開している。共同設立者の一人であるイン・スエンによると、たとえ納期が長くなったとしても、クライアントの多くは待つことに抵抗がないと気づいたという。「私たちがビジネスを始めたとき、誰もがうまくいかない、顧客は待つことを嫌がるだろうと口を揃えました。でも実際にやってみて、そんなことはなかったんです。顧客は自分が気に入ったもの、ユニークなもののためなら2カ月でも待ってくださいます」

また、シーズンレスなアイテムやアーカイブピースの需要は高まりを見せているのも事実。「ひとつひとつのアイテムが、アトリエで丁寧に仕立てられています。私がデザインするコレクションは元々、トレンドに左右されたものではありません。ですから、みなさんがほかの何よりもクラフツマンシップ、デザイン、ユニークさを評価してくださるのは素晴らしいことです」とゴダードは言う。「ひとつひとつの作品にとても多くの労力が費やされているので、制作できる数は決して多くありません。そういった事実を伝えられるというのは、重要なことだと感じています」

よりパーソナルでサステナブルなファッションシステムへ

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現在、卸売業者に販売するブランドは材料費と製造費を負担しなければならず、注文の代金は数ケ月後に支払われるケースがほとんど。加えて、卸売店のバイヤーもどれだけの商品を販売できるかを見積もる必要があり、シーズンの終わりには最大40%もの余剰在庫を抱えることがあるという。こういったビジネスの運営の観点からも、デザイナーが消費者から直接注文を受けた商品を生産することは理にかなっていると言える。

「APOCを立ち上げるにあたり、私たちはデザイナーたちへのプレッシャーを減らすことで柔軟性を与え、純粋にサポートしたいと考えました」と共同設立者のジュール・ヴォレバーグは説明する。「駆け出しのデザイナーで過去の販売データが限られている場合、(オーダーメイドなら)より少ないリスクでより多くのセレクションを販売することができます。過剰生産を避けるための堅実な方法です」

オーダーメイドへの移行は、よりサステナブルなファッションシステムへ回帰することでもある。「オーダーメイドを展開するようになってから、私たちはよりパーソナルな一対一のサービスを提供できるようになりました」とバンセンは言う。「顧客と対話し、グローバルなコミュニティと永続的な関係を築くことが重要なのです」

Text: Emily Chan Adaptation: Motoko Fujita
From VOGUE.CO.UK