──アニメーション版『ライオン・キング』(1994)をご覧になったことはありましたか?
当然ですよ。むしろ、知らない人はいないでしょう? 私の場合は特に娘がちょうど世代だったのと、映画が大好きだったので、彼女と一緒に何度も観ました。その後は息子とも観ています。
──『ライオン・キング:ムファサ』には、どのような経緯で出演することになったのでしょうか?
1本の電話です。監督のバリー(・ジェンキンス)が私のどこに価値を見出してくれたかはわかりませんが、彼とスカイプで話をしたんです。物語の概要について教えてくれて、すごくいい感じで会話がはずんでいたときに、彼はおもむろに「ところで、歌は歌えますか?」という殺し文句を発したんです。当然私の答えは「ノー。いいえ」ですよ。でも彼は試しに一度歌を聴かせてくれてというので、仕方なく私は携帯に自分の歌声を録音して、それをバリーに送りました。すると彼はすごく喜んでくれたんです。ただ、彼が喜んだところで、私には不安しかありませんでした。バリーは歌手ではないですし、共演相手はビヨンセですからね。出演が決まってからは、みなさんに迷惑をかけないように早起きをして歌の練習をしました。
“北欧の至宝”がついに歌う
──今作であなたが歌声を披露するのか否か、ファンの間では当初大きな話題になっていました。ビデオゲーム「デス・ストランディング」で歌声を披露したことはありましたよね。てっきり歌には自信があるのかと思っていました。
とんでもない。今作を引き受ける上で、私にとって最大のチャレンジが歌でした。「デス・ストランディング」は、本当に鼻歌レベルだったので、今作の「歌う」とは比較になりません。若かりし頃はダンサーだったので、ミュージカルの出演経験は豊富ですが、メインのシンガーたちの背後で踊ったりする脇役でしたから(笑)。
──こういう作品で「歌う」というのは、より「演じる」という形に近いのでしょうか?
歌手であろうと俳優であろうと、演じるキャラクターにフォーカスを当て、歌を通してそのキャラクターをどう表現するか模索していくものだと思うんです。ただ、決定的に違うのは、歌うシーンにおいては、歌手の方のほうがキャラクターになりきるためのツールを、私なんかよりもはるかに多く持っていることです。ですから、私のような人間は100%キャラクターに集中し、あとはどれだけ曲に合わせて歌うかなんです。音程やリズムが合わなかったら、ひたすらやり直す。その繰り返しなんです。
──ちなみに一人のときに車中で歌ったり、カラオケで歌うようなことはないんですか?
ほとんどないですね。日本はカラオケ文化がアツいですが、デンマークでは韓国や中国レストランにあるくらいで、あまりなじみはないです。
──あなたの声でキロスに命を吹き込んだわけですが、ジェンキンス監督とは作品やキャラクターについてどのような会話を交わしたのでしょうか?
バリーとの会話は、主に物語についてでした。その会話を通して、今作は非常にシェイクスピア的な物語であることを感じました。物語の中心となる二人の兄弟の愛、裏切り、異なる性格……。ムファサとスカーというキャラクターが、いかにして誕生したのかというところに、観ている人たちを誘っていくのです。
──キロスが歌う「バイバイ」はとてもノリの良い楽曲ですが、憎しみや怒りの感情を込める必要もあったと思います。歌う際に意識したことはありますか?
人生で最も大切なものを失ったライオンの思いなので、怒りと復讐、一方で自分の獲物をからかって楽しむ気持ちのすべてをミックスして表現するようにしました。歌やセリフはスカイプを通して共演者やアニメーションと合わせました。撮影はコロナ禍だったので、実はキャストはもちろん、バリーともリモートでしか会ったことがないんです。ロンドンのプレミアで、初めてみんなとリアルに会えるので、とても楽しみにしています。
悪役の極意とは
──過去にインタビューで、「ヴィランやルーザーを演じるのは、気持ちがわかるから楽しい。ハリウッドでヴィランを演じ、ヨーロッパで自分の好きな役を演じればいい」とおっしゃっていました。ハリウッドがあなたにヴィラン役ばかりをオファーするのは、なぜだと思いますか?
ハリウッドは、一つの作品を観て気に入ると、それを別のキャラクターや作品でも再現しようとする傾向があるからです。それから、どの作品を観てもそうだと思いますが、ヴィランというのは大抵奇妙なアクセントのある人物でしょう? 私はそれを完全に受け入れています。
──例えば、ハリウッドで「こういう役をやりたい」と希望するようなことは?
代理人がいるわけでもないですし、誰にその希望を伝えていいかもわからないので、そういうことを言ったことは一度もありません。ハリウッドでは来る作品を拒まず、求められる役を演じればいいんです。私はヴィランであろうとヒーローだろうと構わない。演じるキャラクターに何がしかの人間的な魅力を感じられれば、それが演じたいと思う理由になるのです。
──ヴィランを演じることが多いですが、そんなあなたを怖がらせるものは?
怖いことはたくさんあります。そもそも、人生自体が怖いものですから。でもその恐怖にとらわれずに、人生の良いことに目を向けて、喜びや素敵な側面にフォーカスするのが大事だと思っています。
──あなたは『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』でディーエージング技術を体験されていますが、今作もデジタル技術のすごさしか感じない作品になっています。完成映像を観た感想を教えてください。
技術的なことはまったくわかりませんが、『インディ・ジョーンズ』のときには、私の容姿を映像内で若返らせるということをしています。ところが、今回はライオンに変身させられているんですよ! ってそれはもちろん冗談で、今作は元がアニメーションでそこに私が声を乗せているわけですけど、当初はわずかに動くだけのアニメを見せてもらい、それに合わせて最初のテイクを撮ったんです。そこから制作側がインスピレーションを得て、映像を膨らませていった。その作業を4~5回繰り返したのですが、その作業のたびにどんどん映像が進化していくんです。最終バージョンを観たときは、それはもう度肝を抜かれました。
──デジタル技術の進歩について、映画の可能性や未来と合わせて、俳優として思うことはありますか?
例えばデジタル技術が発達しすぎて、俳優が不要なんてことになれば話は別ですが、今作のようにアニメーションの場合は、映像は素晴らしいほどいいのでうれしい限りです。ただ、映像技術を駆使して、役者の演技は二の次になるような作品には興味はありません。
──今作は親子の物語でもあります。あなたのお子さんたちはすでに成人されていますが、子育てをしている間、ミケルセン家にはどのようなルールや子育て方針があったかを教えてください。
子育ての現役ではなくなってしまったので忘れてしまったな。(何度も頭をかしげながら)うーん……。やはり責任問題というのが一番大きかったと思います。子どもたちには、何をしてもいいのではなく、自由には責任がついて回ることをきちんと自覚することを、強く教えていたと思います。
──今作は自信を持つことの大切さも描いていますが、自信を持てなかったり、喪失したときにどう乗り越えるべきか、アドバイスがあったら教えてください。
私は医者でも学者でもないので、自分の経験から話すとするならば、完ぺきな未来を思い浮かべないことです。もちろん野心や夢を持つことは大事です。ただ、綿密な計画を立ててそこに向かって諸突猛進せずに、気楽な気持ちでゆっくり成り行きに任せることが大事だと思います。ゴールばかりを意識していると、目の前の大切なものや仕事を疎かにしがちです。私は計画を立てたことがありません。目の前にある毎日の仕事を一つ一つ大切にすることで、キャリアにつながりました。一日一日を大切に生きるようにすれば、それがやがて人生となるんです。
──「ハンニバル」では料理の腕を、『アナザーラウンド』ではダンスのスキルを、そして今作ではついに歌声まで披露されています。マッツ・ミケルセンに不可能という言葉はないのでしょうか?
私は本当に嘘をつくのが上手なんです。なんでもできるように見せる詐欺師みたいなものです(笑)。ただ、全然上達しないのがスキーの腕前です。ある程度は滑れるのですが、自分が思っているようには滑れない。スキーに関しては、本当に才能がないんだと思います。
Interview & Text: Rieko Shibazaki
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