「止まっていてはダメだと学んだ」
30周年プロジェクトが進行中の「美少女戦士セーラームーン(以下セーラームーン)」。1991年に漫画連載が始まり、すぐにテレビアニメ化され大ヒット。世界的なカルチャーアイコンたちからの支持も厚く、2023年はファッションブランドとのコラボレーションも続いた。作品は人々をエンパワーメントし続ける存在として国や世代を超え、注目され続けている。
作者の武内直子は、「母が私に図鑑や文学全集、映画やディズニーアニメを勧め、年上のいとこたちが70年代の少女漫画を山ほど勧めてくれ、その元気で強くて生き生きした女性キャラクターに釘付けになった」少女時代を過ごす。
世界を魅了する側に回って久しい武内に、「セーラームーン」を描き続けるなかで、意図的に変えてきたこと、大切にしてきたことを聞いた。「私はキャラクターが自由に大胆に考え、動くことが理想だと思っていますが、年齢や考えや衣装や呪文は少しずつ変化させていきました。小さな変化、新しさのほうが、ファンにはうれしさがあるようです。変えないと決めていたことはおだんご頭や、セーラー服のアイデンティティ、昔からの仲間の友情とか。大切にしたことは、そのときの自分の好きなものを詰め込むこと。好きな表情、好きな台詞、ファッション、場所や音楽、好きな画材と好きな色で描くこと。自由に好きなように描かせていただきました」
かつて楽しんだ映画や漫画に登場する女性は「生き生きしてとにかくよく動いていた。止まっていてはダメだと学んだ」と振り返る武内は、「セーラームーン」を描くようになり、「女性の強さってどんなもの?」と、改めて悩んだという。「個体差があり、人それぞれで答えは出ない」と前置きしつつ、最近、娘のレポート課題のために読んだという福澤諭吉の『女大学評論』に対する感想をこう語る。「世界と同様に日本も200年前から変わらず女性の地位が低く自由がない。毎日ニュースを見て思うのは、この星は女性にとって生きるのが辛すぎる。この星の社会のありようが厳しくて女性が強くならざるを得ない仕組みだと思う。いつか複雑で余計なものが多すぎる社会を有理化したら、強さ=母性=優しさ、というシンプルな式でシンプルな解答が得られるのでは」と提言する。
そんな武内の願いが込められた作品世界で、セーラー戦士たちは「連帯」し、その強さを発揮する。「女性が男性や異星人と対等に体を張って戦えるわけはなく、もちろん戦ってほしくないと思っている。女性は何か魔力というか魔法の力を内部にもっていると信じていて。力の発現には呪文やアイテムも必要。そして強く祈る。祈りが悪を消していく、これが理想かと思っています。強く祈り続けたい。最近特に思います」
Profile
武内 直子/漫画家
1986年「なかよし」(講談社)でデビュー。1991年『美少女戦士セーラームーン』を連載開始後、世界数十カ国で単行本が出版され、アニメも世界各国で放映される。第17回講談社漫画賞少女部門を受賞。2024年2月2日(金)から福岡市博物館を皮切りに、連載開始からの軌跡をたどる大展覧会「美少女戦士セーラームーンミュージアム」巡回展を開催予定。「美少女戦士セーラームーン」は漫画・アニメの枠を超え、音楽、ファッション、アートなど世界のカルチャーシーンに影響を与え、多くの人たちをエンパワーする存在に。2023年にはJIMMY CHOOとのコラボレーションをはじめ、BLACKPINKのメンバー、JENNIEのスペシャルソロシングル「You & Me」のジャケットを武内直子が描き下ろしたことも話題に。
⚫️お問い合わせ/ヴァレンティノ インフォメーションデスク 03-6384-3512
Photo: Takahiro Igarashi Styling: Shizuka Yoshida Hair: Chiharu Yada Makeup: Chacha at Beauty Direction Text: Midori Suiren Illustration: ©Naoko Takeuchi Editors: Yaka Matsumoto, Rieko Shibazaki