品のあるスタイルを決定づける、透明感とツヤ
本質的な価値を楽しみ、静かな品格を滲ませる「クワイエット ラグジュアリー」のスタイルは、マインドのあり方を大きく問うものと言えるだろう。それは当然、ビューティーの姿勢にも影響していく。たとえば、ロゴやモチーフを抑えた上質な素材をゆったりとまとうとき、必然的に身につける人の個性を強く語るのが“肌”だ。
スタイリストの上杉美雪さんは「その人なりの透明感やツヤが備わったごく自然な美しい肌は、たおやかな素材の服を違和感なく着こなす上で重要」と断言し、エステティシャンの田中由佳さんは「肌は、質感やトーンといった表層的な個性だけでなく、その人の思想や歴史、ものごとへの向き合い方までを透けさせてしまうもの」と語る。「今の自分と向き合い、たとえばうるおいが足りない、くすみが気になる、むくみやすい、赤みが出やすいなど、無理をしている部分や改善していきたい部分はどこなのかをしっかりと観察することです。ときにはプロの力も借りながら。現在地がわかれば、指針もおのずと定まっていきます」(田中さん)
具体的な方向性を決めたら、まず取り入れたいのが美容液だ。「効果が明確で、かつブランドの思念や技術がもっとも詰まっているものだから」(田中さん)。流行や他者を見てなんとなく選ぶのではなく、自分の理想への道標はこれなのだとはっきり決める。そうすればそこに意識が働き、自分へのよき影響が増幅していくという。名品スキンケアが持つ魅力は、決して肌への物理的な効果にとどまらないのだ。「確固たるスタイルを持つブランドの製品には、必ず洗練やエレガンスが息づいています。テクスチャーや香り、佇まいに至るまでが計算されていて、手に取る人の内面に、自分もそこに行きたい、きっと行けるのだという向上心を芽吹かせるんです。それは自信にも繋がっていくはず」とメイクアップ・アーティストの松井里加さんは話す。
幸い、めざましい進化を遂げているスキンケアプロダクトの数々は、実感のスピードも早い。変化の兆しが見えずに挫折することも少ないはずだ。とはいえ美しい素肌が一夜にして作られることはない、とスペシャリストたちは声を揃える。「日々、コツコツと積み上げていく姿勢や習慣がいちばん強いです。どんなにスペシャルな施術を受けていても、毎日の手入れがおろそかでは美しさは育っていかない。反対に、何かトラブルがあったとしても継続の努力をしてきていればリカバリーも早いです」(松井さん)。
そこで、心から恋い焦がれるようなプロダクトを手に取ることの重要性が浮き彫りになる。「多忙な日々が続くと、どうしても殺伐とした気持ちが生まれます。でも、決意をもって手に入れたラグジュアリーなものなら雑に扱うわけにはいかない。丁寧に、ゆっくりと楽しみながら使うことになるはずです。日々にその時間を持つことで、自分自身を慈しむ姿勢が少しずつ育まれ、扉の閉め方、歩き方など、所作にも心地よい動きを込められるようになります。自分にも優しく、人にも優しくなって、心が豊かになり、表情だって変わっていくのではないでしょうか」(田中さん)。上質な素材をまとったときに露出する、首やデコルテ、手指の重要性も忘れてはいけない。「化粧水やクリームはデコルテまでのばし、パーツケアを怠らないことに加え、しぐさにも気を配って。人と会うときは背筋を伸ばし、指先まで意識を巡らせる。動きを大きくするだけでも違います」(田中さん)
スキンケアの先にある、喜びの実感
私たちは、自分の至らない部分にばかり目を向けがちだ。加齢や環境に起因するネガティブな変化を恐れるあまり、そこに執着してしまうこともある。ブレイクスルーのヒントとして、ポジティブな変化の兆しを見逃さないでほしい、と田中さんは話す。「心地よいテクスチャーのクレンジングで丁寧に汚れを落とせば、化粧水や美容液の効き方に大きな差が出ますし、マッサージでむくみを取るとその人らしい綺麗なラインが見え始める。コツコツの先に、“私は変われる”と確信できる瞬間が必ず待っています」。憧れから手を伸ばしたアイテムを、少しずつ使いこなせるようになり、次第に、それにふさわしい自分になっていく。そこには、自分自身を生きているという大きな喜びの実感が伴うだろう。
話を聞いたのは……
MIYUKI UESUGI
上杉美雪。本質を掴む圧倒的なセンスで、数々のモード誌・ブランド・広告のヴィジュアルを手がけるスタイリスト。2023年よりアパレルブランド「newnow」のクリエイティブ・ヴィジョン・ディレクターに就任した。また、ヨガをライフワークとする。
RIKA MATSUI
松井里加。メイクアップ・アーティスト。NYを拠点に世界のバックステージで活躍した後、2006年帰国。広告やモード誌、セレブリティのメイクを手がけるほか、ブランドのコンサルティングも行う。2022年よりスキンケアブランド「SELALY」を手がける。
YUKA TANAKA
田中由佳。三宿のエステティックサロン「サロン・ド・スウィン」オーナー。整形外科、大手エステサロン勤務後に独立。医療やスピリチュアルにも精通し、多角的な美容と健康の可能性を追求。心と体に響くトリートメントをひとりひとりに合わせ提供している。
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Photos(image): Yuki Kumagai Styling(fashion): Tomoko Kojima Styling(prop): NAZUNA Hair& Makeup: Yoko Okuno Text: AYANA Editor: Toru Mitani
※『VOGUE JAPAN』2024年5月号「贅沢が宿る、クワイエット・モーション」転載記事。

