タナー・リッチーとフレッチャー・カセルによるブランド、タナー フレッチャー(TANNER FLETCHER)初のブライダル・コレクションは、本人たちも認めているように「型破り」だ。ノーマ・デズモンドのワードローブから飛び出てきたようなハリウッド・リージェンシー・スタイルのローブに、花嫁も花婿も纏えるユニセックスなシアートップ。ベルベットのタキシードは色とりどりのパステルカラーで展開され、ヴェールはタナー フレッチャーの世界観に欠かせないリボンがあしらわれている。まるでトルーマン・カポーティが敬愛し、「スワン」と呼んでいた社交界の女性たちが着るブライダル衣装のようにすべてがヴィンテージ風だが、しっかりとモダンに昇華させている。
コレクションのアイデアは結婚式を控えた何組かのカップルから、カスタムルックのオーダーが舞い込んだことから芽生えた。依頼はそれぞれ違えど、カップルたちには共通点があった。それは、一般的に出回っているブライダルウェアとは「どこか違う」ものを求めていることだ。言わずもがなだが、ニューヨークには高級ブライダル・アトリエが何十軒とある。しかし、そのほとんどは、ゲストを百人単位で招待する伝統的なウエディングを挙げる人たちを相手にしている。では、そうでないカップルはどこで当日のルックを求めればいいのだろうか。世の中には裁判所で簡単な式を挙げた後にレストランで少人数でお祝いのディナーを楽しむ人たちもいれば、愛らしいドレスではなく白いスーツで特別な日を迎えたい同性カップルもいる。クールでレトロな装いで決めたいファッション好きの新郎新婦も当然いるだろう。「昔ながらのブライダルショップでは手に入らない、よりヴィンテージテイストを求める花嫁が多いのです」とリッチーは言う。
ビジネスパートナーであり人生のパートナーでもあるリッチーとカセルはまた、クィアカップルはルックの選択肢が少ないことを知っている。「クィアカップル向けのものを展開しているところが、そもそも思い浮かばないのです。考えてみると、もし自分たちが結婚するとしたら、どこでルックを買えばいいのかわからないですね。もちろん、自分たちで作るとは思いますが、皆が皆できることではありません」
コレクションで特に目を引くのは、第二次世界大戦時のラブレターがプリントされたガウン。ファッショナブルであり、イギリスの言い伝え「サムシングフォー」の「サムシングオールド(古いもの)」と「サムシングニュー(新しいもの)」をロマンティックに解釈している1着だ。
「ウエディング仕様でありながら、一味違うデザインを求めている人たちをなるべくターゲットにしようとしています」とリッチーは言う。彼らが新たに開拓しようとしているこの顧客層は右肩上がりだ。ウエディング・インスピレーションの宝庫であるピンタレストは2023年のトレンドレポートで、“アンチ花嫁ウエディング”の検索数が490%も上昇したと発表した。ほかのカップルの結婚式写真をSNSで見かける日が多い昨今では、伝統を再解釈し、他人とは違う式にしたいと思う人が大勢いる。結婚式でも自分らしさを演出してくれるタナー フレッチャーのコレクションは、まさに現代に必要なブライダルラインなのだ。
Text: Elise Taylor Adaptation: Anzu Kawano
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