隈研吾が打ち出したコンセプトは「織る」
銀座といえば、今やハイブランドのフラグシップが立ち並ぶ世界有数のファッション発信地。グルメシーンの中心でもあり、東京のミシュランの星付きレストラン183軒のうち34軒は銀座にあるという。ただ、渋谷や六本木など、ほかの人気エリアと異なるのは、古くから脈々と紡がれてきたこの街特有の歴史に彩られていること。新旧のカルチャーが交錯し、世界のどこよりも華やかで優美な街なのだ。
今回、「東京エディション銀座」を手がけるにあたり、隈研吾が打ち出したコンセプトは「織る」。銀座は「世界の最先端と日本の伝統文化が織り成す街」だと考える隈は、街全体を織り上げ、世界へと繋げていく新たなランドマークとして、このホテルをデザインした。
「東京エディション銀座」は、銀座中央通りから一本中に入ったあづま通りに位置する。銀座の中では比較的静かなエリアだ。外観は重厚感のある格子状のメタルに覆われているが、エントランス付近に配されたグリーンがオアシスを思い起こさせる。ドアマンに誘われるままにドアを通り抜けると、ロビーを兼ねるバーの「Lobby Bar」、右奥に20世紀初頭の屏風絵を背にしたコンパクトなチェックイン・デスクが配されている。
このホテルには、ユニークな4つのレストラン&バーがあり、それぞれがイアン・シュレ―ガーの唱える“ロビー・ソーシャライズ”の場となっている。それを最も象徴する、ホテルの心臓部ともいえる「Lobby Bar」、カクテルの原型といわれるパンチにフォーカスした日本初のバー「Punch Room」、来春に一足遅れでオープンする季節営業の銀座初ナチュラルワインバー「The Roof」、そして地産の食材や日本の食の伝統に敬意を払うモダンブラッスリー「Sophie at EDITION」の4つだ。
アイボリーの布張りのアームチェアと大きなソファーに囲まれた「Lobby Bar」には、早朝から夜遅くまで、銀座をテリトリーとするさまざまな人々が集う。地元のロースタリー「Little Nap COFFEE ROASTERS」とコラボレートしたコーヒーのほか、恵比寿の「LESS」によるパネットーネや「Maison Landemaine」によるペストリーやヘルシーなジュース、軽い朝食を取ることも可能だ。洗練された隠れ家は、人との交流を謳うエディションにとって重要な役割を担う。
日本初!パンチが主役のラウンジバー「Punch Room」
1階の「Lobby Bar」からひと際目立つホワイトメタルの階段で2階に上がれば、「Punch Room」の象徴的なシャンデリアスタンドが出迎える。そこはダークウォールナットの格間に囲まれ、トパーズやサファイアのようなビビッドなカラーのタフテッドソファやチェアの置かれたムーディーな空間。パンチは、もともとはスピリッツ、スパイス、柑橘類、ティー、シュガーの5種類をミックスした飲み物で、カクテルの原型のひとつともいわれているが、このパンチを主役にした「Punch Room」は世界中のエディションで展開され、今回日本初出店となる。19世紀のロンドンのプライベート・クラブで使われてきたレシピに、日本酒、緑茶などの国産の素材や世界各地のスパイスを使って独自のアレンジを加え、銀のパンチボウルにレードルを添えたシェアラブルカクテルとして提供する。
ルーフトップのバー「The Roof」は、来春のオープンに向けて準備中。オリーブやシダなど、たくさんのグリーンに囲まれ、東京タワーの美景を見渡す銀座初のナチュラルワインバーになる予定だ。
気軽に立ち寄りたいモダンブラッスリー
14階には、ブロンドオークと白い漆喰による直線的なインテリアが明るい空間を構成する「Sophie at EDITION」がある。「東京味噌」や「銀座はちみつ」など、地元産の食材と和の伝統に敬意を表するモダンブラッスリーだ。重厚感のある「Punch Room」とは打って変わって、明るくナチュラルなトーンで、鈴木達朗、パク・ハン、川音真矢など7人のアーティストによる東京のストリート写真が、奥の壁をタイル状に覆っている。
朝食メニューのあんことホイップクリームを添えた「抹茶フレンチトースト」、ランチメニューの「ステックフリット」、グリュイエールチーズ、ベーコンが詰まった「タルトフランベ」など、カジュアルなレシピも、銀座らしい洗練したスタイルに仕上げて、宿泊客に限定せず、ビジターでも気軽に立ち寄ってもらえる価格帯で提供する。
家のようなくつろぎを感じさせる客室
客室は、独立したリビングルームを備える広々としたスイートから、銀座エリアのホテルとしては突出する全室41㎡以上のスタンダードルームまで、全86室が用意されている。室内は重厚感のあるウォールナットの床と壁を基調とし、トラバーチンやクリーム色のレザーを使ったカスタムメイドの家具など、ミニマルなインテリアで統一。隈研吾の得意とする直線的でシャープなディテールに、やわらかな印象の円のデザインを取り入れた。壁に飾られた丸山サヤカとTakay Photographyのアートが、シンプルモダンなインテリアに彩を添えて、どこかの邸宅に招かれているようなくつろぎを感じさせる。
115㎡を有する13階のペントハウスは、ホテルの至宝ともいえる存在。開放感のあるリビングルームやダイニングエリア、充実したパントリー・キッチンを備え、快適な長期滞在や親しい友人とのパーティーなどにも利用可能だ。
バスアメニティは、「Le Labo」がエディションのために特別に調合したブラックティーの香り。エントランスを入った瞬間から香る「Le Labo」のフレグランスは、世界中のエディションに共通であり、この香りとともにエディションを記憶に留めてもらいたいという願いが込められている。
隈研吾が語る「東京エディション銀座」
──銀座のホテルをデザインするにあたり、どのようなことを考えましたか?
銀座という街自体が、僕にとっては特別な場所。親父が日本橋育ちで、銀座を自分の庭のようにして遊んでいたので、子どもの頃はよく連れて来てもらいました。もうとうに亡くなっていますが、親父に捧げる気持ちもあったかな。
──そんな銀座の街に、どのようなホテルを作りたいと思ったのでしょうか?
銀座をよく知っている人ほど、ブランドのショップが立ち並ぶ中央通りよりも、路地裏の店なんかに自分の居場所を見つけて自慢したりする。一本入ったストリートにこそ魅力を感じるんです。このホテルも、ストリートとホテルの空間が連続しているような、そういう場所になればいいなと思いました。
──イアン・シュレ―ガー氏からラブコールがあったそうですね。
実は、僕がコロンビア大学に留学していた1980年代に、NYでイアンと会ったことがあるんです。彼は忘れていましたけどね。彼は伝説のクラブ「Studio54」や「パラディウム」で大成功していて、世界中で誰もやったことのない新しいカルチャーを創造している人だと思っていた。そこで、ある雑誌のインタビューという形で会ったんです。当時は目が鋭く、豹みたいな感じで、すごく怖かった。それから40年近く経っているわけですから、不思議な縁を感じますね。
──仕事はどのようにして進めたのでしょうか?
役割の線引きはわりと曖昧でした。お互いに信頼しているので、アイデアを出し合い、ベストなところに着地させながら進めることができました。僕は光をとても大事にしているので、通常なら照明デザイナーに任せてしまう、光の延び方や間接照明の当たり方なども、自分でチェックするんです。でも、イアンも僕と同じように光にはすごく繊細なので、彼に任せていたら安心。そういう人は滅多にいないんです。だから僕はこのホテルの光は、本当に完璧だと思っています。
──ゲストには、このホテルをどのように利用してほしいですか?
長く付き合ってくれるといいなと思います。銀座の店に通う人たちは、世代を超えて、親の代から贔屓にしている店に通う。お店と長い付き合いをする人が多いんです。僕も親父から引き継いだ店に未だに通っている。店であって家のようなインティメイトな関係こそ、銀座の奥深さであり、そういう関係がこのホテルでも生まれてほしいと思います。
東京エディション銀座
東京都中央区銀座2-8-13
Tel./03-6228-7400 料金/1室1泊120,000円〜(税・サ別) ※2023年12月現在
www.editionhotels.com/tokyo-ginza/
Photos: Kohey Kanno Interview & Text: Yuka Kumano Editor: Rieko Shibazaki