ヴァレンティノ(VALENTINO)のピエルパオロ・ピッチョーリは、メゾンを刷新しつづける意思を見せている。今シーズン、白とゴールドを基調にしたサロンで登場したのは、黒で統一された全63ルック。「ヴァレンティノ ル・ノワール」というテーマのもと、テクスチャー、カッティング、刺繍、パターンによって、それぞれが異なるパーソナリティを放ち、奥深い黒の世界へと案内した。
ピッチョーリは、色彩の巧みさにおいて他の追随を許さない、繊細で優美なクリエイションで感動的なコレクションを生み出してきたが、ショーのフィナーレやレッドカーペットでは、ほとんどいつも黒の服で登場。ショーのステートメントで、黒という色に対する考えを彼自身の言葉で次のように語っている。
「黒をひとつのユニフォームとして意識的に身に着けています。というのも、黒を身に着けることによって周囲の物事にフォーカスできますし、それが好きです。黒という暗闇から光を求め、黒という暗閣の中で視界を研ぎ澄ませます」
ジャケットとショートパンツを合わせたテーラードのデイスーツから始まり、タフなロングコート、反骨的なレザーのセットアップ、ロマンティックなネイキッドドレスまで、女性たちが自分の体を好きなように見せることができる複数の選択肢を広げているかのようだった。
ロゼット、フリル、刺繍、レースなど、ヴァレンティノの女性らしさを表すあらゆる要素は、黒という色で再定義され、新しいパワーが吹き込まれた。非の打ちどころのない厳格なシルエットは、肌を露出したバックスタイルにまで表れている。
ピッチョーリのステートメントは次のように締めくくっている。「私は黒をキャンバスとして捉え、その上にレイヤーや構造、シルエットを構築する出発点としました。それはむしろさまざまな個性を組み合わせた合成物。合唱音楽の構造のように、もっとも崇高なシークレットとして光を湛えます。暗闇に身を置いて初めて、光を探すことができるのです」
ルックにエフォートレスな躍動感を与えていたメタルのイヤリングは、不規則なフォルムを帯び、光のような煌めきに。また、音楽はフランスの著名な作曲家、アレクサンドル・デスプラとソルレイに依頼し、今回のコレクションから着想を得たサウンドがショーを盛り立てていた。
今シーズンの黒一色というアプローチは少し大胆すぎるようにも思えるかもしれないが、創設者のヴァレンティノ・ガラヴァーニが1968年に白い服だけを発表した「ホワイトコレクション」が、トップデザイナーとしての地位を確立するきっかけとなったことは有名だ。反逆的な精神を持ちながらメゾンの重要な歴史への敬意を形にすると同時に、黒のもつ多様な側面を通して女性たちに力を授けるあらゆる手段を提案しているように感じた。