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『ウィキッド ふたりの魔女』来日インタビュー。シンシア・エリヴォ、アリアナ・グランデ、ジョン・M・チュウ監督が語る「時代が求めた作品」と「自己表現」について

第97回アカデミー賞で主演女優賞、助演女優賞、作品賞を含10部門にノミネートされている映画『ウィキッド ふたりの魔女』。世界中で大ヒットを記録している今作の主演を務めるシンシア・エリヴォアリアナ・グランデ、そしてジョン・M・チュウ監督が来日し、撮影秘話などたっぷりと語ってくれた。

──ジョン・M・チュウ監督は、『ウィキッド ふたりの魔女』が今の時代に求められている理由を「まったく正反対な二人の女性が、お互いの違いを超えて友情を結ぶ。これは世界中の人たちが強く切望していることだからだと思う」と話していましたが、お二人はどう思われますか?

シンシア・エリヴォ(以下エリヴォ) 監督が「切望」という言葉を使ったのがすごくいいなと思っています。今の時代は誰もが自分を理解してほしい、ありのままを受け入れてほしいと思っている、優しさと理解を求めている時代だと思うんです。そんな時代において本作は、自分とは異なるものを持っている人に、自分の考えを変える力があること、外見的な違いなどによって人を判断すべきではないといったことを、話し合うきっかけになっていると思います。そして、不当な扱いを受けたときに赦し、新たな一歩を踏み出すとはどういうことなのか、人を見た目や外見だけでなく、内面から見るとはどういうことなのか、そういう議論の道も開いてくれると思います。だからこそ、みんなが今作のような物語に憧れ、切望するのだと思います。本作はそれが可能だと教えてくれるから。

アリアナ・グランデ(以下グランデ) あまりに多くの分断が生じている今の時代だからこそ、私たちは今まで以上に、シスターフッド(女性同士の連帯)、友情、味方になってくれる人、寄り添ってくれる人たちが必要だと思うんです。そして、人々がこれほどまでに分裂している中で、いかに人間関係を育み、より善良に、思いやりの心を持てるかという重要性を本作は描いていると思います。友人は自分自身を映す鏡でもあります。その人を通して、自分は一体どんな人間なのかを自問自答することができます。恐ろしく、ときに危険すら感じるこの時代を生きて行く中で、友情は力強い味方になってくれる。私自身、困難な時期はいつでも友情に支えられてきましたし、そこには常に愛があるので、そういう点からも人々は今作に感情移入し、共感するのだと思います。

私は、この物語が人間らしさについて問いかけてくるところも好きなんです。今の時代は物事の背景や前後関係をおろそかにし、細かい大切なニュアンスが削除され、タイトルなどの見出しに焦点が置かれがちです。でも、それこそ『オズの魔法使い』の西の悪い魔女は実際は邪悪ではないことが本作を観たらわかるように、人間というのはそう簡単なものではなく、育った環境などによっても大きく変化する。作品の前半の方では、グリンダは自分が善い人間だと思いこんでいますが、裕福な環境で育ってきたので、その特権によってさまざまなことに盲目になっており、本当の自分になるためには、その特権を手放さなければなりません。

この物語は、人間は複雑な要素が絡まりあってできているので、一つの枠で括るのは不可能だということを提示しています。人はどのように成長し、どう変化していくのか、ヘイトに対してどう反応するのかなど、今の時代に求められる重要なテーマであり、同時に『オズの魔法使い』の時代から変わらぬ普遍的なテーマでもあることを伝える、大切な物語だと思います。

映画『ウィキッド ふたりの魔女』は3月7日より日本公開。

Photo: © Universal Studios. All Rights Reserved.

──今回は二人の稀代のシンガーの生歌を聴けるという、貴重な時間をいただけた気がしますが、監督は生歌でいくというご自身の判断をどう感じていますか?

ジョン・M・チュウ(以下チュウ)私たちにとっても最高でベストな判断だと思っていますが、同時にとても自然な流れでもありました。というのも、これらの楽曲の真実に迫るには、生歌でやるのが一番よかったからです。世界最高のシンガーと俳優がいて、会話と歌がなんの違和感もなく、どちらの世界も自由かつ自然に行き来できるのであれば、映画監督にとってそれは最強の武器になりえるんです。彼女たちが歌い、セリフに戻ってくるとき、何か違和感がありましたか? 音楽もセリフも一つのアートのように感じさせるところが本当に素晴らしいと思いました。

そして、ミュージカル映画を通して観客がそれを体験できることは、とても稀なことです。なぜなら、通常セリフと歌は分かれているから。それが、今作で私が得た最大の発見のひとつだと思います。今作を観た方たちは、ミュージカル映画における音楽の力を大いに感じてくださっていることでしょう。フィジカル面でも長けている二人だったので、いとも簡単にやっているように見えるので忘れてしまいがちですが、二人がやっていることは本当にすごいことなんです。

──今、監督が「簡単にやっているように見える」とおっしゃっていましたが、「実はこの曲のこの部分は本当に大変だった」というエピソードがあれば教えてください。

エリヴォ 歌いながら飛ぶことほど、チャレンジングなことはなかったと思います。「ディファイング・グラヴィティ」のような声を張るような歌を歌う際には、肺や筋力、そして重力が必要なのですが、宙づりになっているのでその重力がなく、地に足がついているときと同じように体を使うことができませんでした。なので、その代わりにいつも使わない部分を使い、息継ぎも普段しないところでしたりして対応しました。空中でクルクル回りながら歌うなど、大きな挑戦となりましたが、同時にものすごく楽しくもありました。新しいスキルも習得したので、これからはどこでも歌えると思うと、それもまた最高ですね。

グランデ 私は彼女がその撮影をしている姿を見られて、生の歌声を聴けたことが最高でした。音楽が乗っていないアカペラでシンシアの生歌を聴けたのは、監督と現場のスタッフ、そして私だけだったんです。あれは撮影の中でも最高の瞬間でした。ただ、彼女自身は逆さまで宙づりになっていたので、クレイジーではありましたけど(笑)。

Photo: © Universal Studios. All Rights Reserved.

──オーディションを受けられた時の心境を教えてください。

グランデ 私はオーディションを楽しみにしていました。この役を獲得しなくてはと思っていたので、オーディションの前にやれるべきことはすべてやっておこうと、3カ月前からボイストレーニングを始めました。というのも、グリンダ役はオペラが必須ですが、私はオペラを歌ったことがなかったので。正しい呼吸法や声の使い方、筋肉の動かし方など、オペラを歌うのに必要な新しい技術をすべて学び、もしこれで結果がダメだったとしても、自分は全力を尽くしたと思えるように、可能な限りの準備をしました。そうしたら、監督から最初の電話がかかってきて、また次も、そしてまた次と……。

チュウ (苦笑)。本当に、何度も何度もすいませんでした。

グランデ 嫌味じゃなくて、本当にうれしかったんです(笑)! そして、オーディションを経て、撮影後もこうして毎日色々なものを得ることができていることに感謝しかありません。この作品を通して得たすべての体験に感謝しています。

──二人の息の合ったパフォーマンスに感動しましたが、どのようにしてスクリーン外の友情を育んだのか、エピソードを教えてください。

エリヴォ 出会って即座にお互いにつながりを感じましたが、それを育んでもいきました。というのは、例えば「この人と馬が合うな」という出会いがあったとしても、それを保つ努力をしなければ友情を育むことはできないからです。私たちは努力をして友情の芽を育て、真の友になりました。そのためには時間も会話も必要ですし、テキストメッセージを送りあったり、お互いを気にかけるということをしっかり続けなければいけません。それがいつしか当たり前になったことで、我々は深い友情を育むことができました。これまで行ってきたプレスインタビューで語っていること、お互いへの愛、それはすべて本物なんです。こういう出会いはそうあるものではないので、「この人は自分の人生にいるべき人なんだ」と感じたときは、その関係性を大切に育みケアしていくことが大事だと思います。

グランデ 本当にその通りで、今回は二人のこの関係性が作品にも通じたんだと思います。役作りはもちろん個々に行いましたが、そこに友情があるからこそ、安心した環境で撮影に臨むことができました。演技面でも環境面においても、根底にある友情がすべてをいい方向へとつないでくれたと思います。今作を通して今まで世界中でいろいろなインタビューを受けて楽しい時間を共有してきましたが、私たちが本当に大好きなのは、プライベートで交わした会話です。この関係は、私たちがキャスティングされたその日から始まりました。私たちはすぐにフェイスタイムで話し、花を贈りあい、常にお互いを気にかけてきました。私はこの関係を築けたことを本当に誇りに思っています。

──シンシアさんの中にある“エルファバらしさ”、アリアナさんの中にある“グリンダらしさ”とは?

エリヴォ 映画の序盤の方のエルファバは、自分の脆さをさらけ出すことを恐れている部分がありますが、それは私にも共通していたと思います。今作を作り上げるプロセスの中で、よりオープンになるということを学びました。また、彼女は苛烈なほどに愛する人たちを守ろうとしますが、私も同じです。そして、エルファバは優しい心の持ち主ですが、私もそうだったらいいなと思います。

グランデ 私にこの質問を答えさせて! シンシアほど優しい人を私は知りません。 シンシアは実際にエルファバのような優しい心の持ち主です。善の心を持った人で、ほかの人を守ろうとする優しさがある。本当に魔法の力の持ち主なので、彼女こそ本物の魔女だと思うんです。

エリヴォ では、私からグリンダとアリアナの共通点を言わせてください。グリンダという役は、最初は明るい光に照らされてフワフワとした、コミカルな部分が目につきますが、その根底に本物の光が宿っているんです。例えば、誰かが落ち込んでいるときや、場の空気が暗いとき、その場の雰囲気をパッと明るくしてくれる。そういうところが、アリアナと共通しているところだと思います。また、新しいことを学ぼうと前進を続けるのはとても勇気を必要とすることですが、グリンダ同様、アリアナもその勇気を持ち合わせた人です。なぜなら、本格的な映画出演がこれほどまでの大作というのは、なかなか他の人には難しいと思うんです。それでいて現場の彼女はいつも大らかで、コメディシーンは何の躊躇もなく完全に振り切って飛び込んでいく。私は今まで、そこまでやる共演者は見たことがありません。また常に現場に居る人たちが、居心地がいいように気を配る。つまりアリアナは、グリンダがなりたい女性なのだと思います。

Photo: © Universal Studios. All Rights Reserved.

──劇中グリンダが頭を揺らして髪を振る仕草が印象的でしたが、あのフリのコツを教えてください。

グランデ あれは「トストス(TOSS TOSS)」と呼ばれている、自己表現なんです。これまでさまざまな人たちがグリンダを演じてきましたが、それぞれ自分流の「トストス」を持っています。なので、自分が一番良いと思う表現こそが、あなたの「トストス」になるんです。自分らしさの表現なので、ぜひ自分の分は自分で考えていただきたいですが、脚の動きをつけてもOKですし、ウィンクを入れこむなんていうのもアリだと思います。あくまでも自分らしくというのがポイントです。私は撮影中、思いっきり頭を前から後に振り上げるトストスをやってみたのですが、本編からはカットされてしまいました。腰を痛めるところだったのでよかったですが(笑)。

チュウ 腰を痛めたら保険代が高くなるので、保険の都合上カットしました(笑)。

エリヴォ エルファバの「トストス」は指の動きがカギになっています。自分を表現する際には指を動かすんです。ダンスシーンもですが、彼女がホウキを掴むときなどは指に注目してみてください。

──『ウィキッド』ではエルファバもグリンダも魔法使いになるという夢を抱き、みなさんも自分たちの夢を実現して今に至っています。現実世界で夢を掴むために必要なことは何だと思いますか?

エリヴォ 「ノー」と言われることを自分が許容しないこと。「ノー」と言われたからといって、自分から夢へ向かう道から外れてはいけません。夢を叶えるためには当然努力は必要で、それを怠ってはならない。そして、その瞬間がやってきたとき、きちんと掴むことが大事です。また、チャンスを得て夢に近づいても、努力は継続しなくてはいけません。夢が叶う瞬間というのは突然やってくるものではないので、それまでの積み重ねはとても重要です。何がなんでも手に入れたいという強い気持ち、そして努力を重ねて頑張り、自分らしくあることのすべてが組み合わさることで、見えてくるものだと思うんです。なので、あるべき自分になれたら夢は見えてくるし、そのときは自分の心の準備もできていると思います。夢はフワフワした、空に浮かぶ雲のようなイメージを抱く人もいるかもしれませんが、実際は大地に根差したもっとリアルなものだと思うんです。なので、フワフワした現実味のないものでなく、手に取れる確かなものだという意識を持てば、また変わってくるのではないでしょうか?

Text: Rieko Shibazaki

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