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「まだ世の中に存在しないものを創造する」。ヨウジヤマモトがアウトドアウェアに見る、洗練と温もり【2025-26年秋冬 メンズコレクション】

パファーやキルティングなど、実用的な素材を用いたルックがランウェイを占めた、ヨウジヤマモトYOHJI YAMAMOTO)の2025-26年秋冬メンズコレクション。シグネチャーであるエレガントな佇まいは残しながら、かつてないタウンユースファッションを提案した。
Photo: Isidore Montag / Gorunway.com

ヨウジヤマモトYOHJI YAMAMOTO)の巧みなデザインは、シーズンによって詩的さの度合いや実用性が異なる。例えば今季のショーで登場したのは、機能性に全振りしたような、悪天候をしのぐためのさまざまなルック。普段の反骨精神を体現する、えも言われぬ美しいシルエットに代わって、膨らんだフォルムの多目的なワークウェアが披露され、現実世界に生きる男性を包み込む「温もり」を追求した。

「今回は、雨や雪の中を歩く人たちについて考えていただけです」と言う山本は、この日もいつもの調子で、どこか面白がるようにバックステージで報道陣の質問に応じた。

Photo: Isidore Montag / Gorunway.com
Photo: Isidore Montag / Gorunway.com

2000年、そして2024年に前年を遥かに上回る年間降雨量が記録されたパリでは、パファーやキルティングを多用したアイテムは重宝される。山本曰く、それは東京でも同じだ。しかし、本人は市場に出回っているパファー類に眉をひそめる。今回、制作の主な原動力となったのも、そんな既存製品に対する抵抗感だ。「どれもポリエステル製で、とても……安っぽく見えます」と後半は口を手で覆いながら囁いた。「だから、特別なものを作りたかったんです」。はっきりと聞き取れる声でそう続けた。

シーンは変わっても揺るがない、ヨウジヤマモトのエレガンス

Photo: Isidore Montag / Gorunway.com

一般的には防水性が低いとされている素材のみを用いることで、山本は今季のコレクションを特色づけた。柔らかな光沢がある、ヴィンテージ加工を施した灰白色の生地や、ライトベージュのシルクとリネンの混紡素材。激しい雨の中で着るにはあまりにも繊細な生地を使用しているからこそ、アイテムの多くはリバーシブル仕様になっている。

Photo: Carlo Scarpato/launchmetrics.com/spotlight

ショーのところどころで、モデルたちはアウターを脱ぎ、裏返し、対面から歩いてきたモデルと交換。裏表と表裏、ふたパターンの着こなしを披露した。そして細いメタルチェーンが揺れるアイテムもまた、ほかとは一線を画すデザインだ。

こともなげに服を分解し再構築する山本だが、飾り気のないアウトドアとシティ仕様、2つの対極的なスタイルの衣服を展開した今回は、デザインを組み立てるにあたって、普段とは全く異なる難しさを感じたに違いない。「決して簡単ではなかった」と本人も認める製作プロセスだったが、「タウンユースの服も、エレガントであるべき」という思いから、いつもの創作への姿勢を貫き通した。

Photo: Isidore Montag / Gorunway.com

エレガンスを徹底して追い求めたものの、唯一避けて通れなかったのが、スーツやスポーティーなフォルムに落とし込まれたパディングの無骨なボリューム感だ。ゆえに、パンツなどのシルエットはいつにも増して太く、ルックには軽やかさよりも重厚感が漂う。バレエダンサーのユーゴ・マルシャン、詩人でアーティストのロバート・モンゴメリー、フォトグラファーのモハメド・ブーロイサ、リュック・タイマンスとカルラ・アロチャの画家夫妻など、ランウェイを歩いたあらゆるモデルたちがその重みに包まれ、一種の一体感がそこにはあった。

Photo: Armando Grillo / Gorunway.com

「Sadness and suffering are the flowers of life(悲しみと苦しみは人生に咲く花)」「I’m trying to create something that does not exist in the world.(まだ世の中に存在しないものを創造しようとしている)」。そう書かれたアウターたちからは、山本耀司というデザイナーの真髄、そして着る人たちを人生の荒波から衣服で守ろうとする温かみが感じられた。