ぶれない体から生まれる多幸感とタフなメンタル
ここ数年の環境の変化で、他人より自分、美しさより心地よさ、外側より内側に意識が向き始めた私たち。ボディに関してもそう。そして心地よくヘルシーな体なくして、幸福感は得られないことも知っている。目指したいのは、前向きな思考を生む馬力のある体。そのためにまず必要なのが筋肉だ。産婦人科医でスポーツドクターでもある高尾美穂先生がレクチャー。
「意思が伝わる筋肉は、努力次第でコントロール可能。筋肉量を増やすと基礎代謝が上がり、脂肪が勝手に減る燃費のいい体に。疲れにくく、熱を生みやすいので冷えも改善。さらに運動には血中のコルチゾール濃度を下げ、ストレス解消効果があります。ヨガの片足立ちやスクワットなどの多関節トレーニングは体に意識が集中するので、悩みから離れられるメリットも」。今回のアンケートでは、週に2時間以上の運動習慣があると答えた人は、わずか17%。でもその7割以上が運動により気持ちが上向くことを実感している。そんな筋肉は男性ホルモンと関係が深いことはよく知られているが、実は女性ホルモンの影響も受けているそう。
「骨格筋細胞にエストロゲン受容体があることがわかっています。エストロゲンの分泌が正常な人は成長ホルモンやテストステロンを産生しやすく、筋肉量も増えやすい傾向が」。ただし女性ホルモンは揺らぎの原因でもある。「メンタルが落ちるのは、ホルモンが変動するタイミングです。毎月の生理前、妊娠中と産後、さらに女性ホルモンがアップダウンしながら減っていく45歳から55歳くらいまでの更年期」。アンケートでも、6割を超える人がホルモンバランスの乱れによりネガティブ思考になると回答。それを跳ね返すためにも、自分の体との付き合い方を知っておきたい。さらに、心身のコンディションと連動するのが、呼吸。「緊張や落ち込みがあると、肺を膨らませる深い呼吸がしづらくなります。交感神経が優位になり、血管が細くなるため体の末端に血流が巡りにくく、消化管の働きが悪くなるので便秘になりやすい」
そしてもう一つ、血肉となる栄養にもフォーカスしたい。栄養コンサルタントの細川モモさんが解説。「現代女性が意識すべき栄養素の筆頭は、鉄。月経で毎月失っているのに、摂取量が大幅に不足し、女性の4 ~ 5人に1人が鉄欠乏性貧血であり、7割が貧血のない貯蔵鉄不足といわれます」。アラフォーになると、腸内環境を含む消化器官に異変を感じることも増える。「善玉菌が減少し、悪玉菌が増えることで腸内環境が悪化しやすくなります。また、ストレスが腸内環境を悪くさせ、便秘と下痢を繰り返したり、膨満感や残便感が残るようになることも」。それは、体を根本から変えるタイミング。食生活も見直しが必要だ。
「甘味は善玉菌が喜ぶオリゴ糖、水分・質の良い油分・ミネラル・食物繊維を意識した食事、発酵食品も毎日取り入れたいもの」。幸せ感にアプローチする栄養素も知っておこう。「午前中の日の光を浴びるとハッピーホルモン“セロトニン”が分泌されますが、セロトニンの材料であるアミノ酸のトリプトファンは体内では作り出せないため、毎食片手手のひら一盛りのたんぱく質を目標に。鉄もセロトニンの合成に必要だし、DHA・EPAもうつ病対策に役立ちます」。幸福感を高めるためには体内時計も大切。「英国の研究によると体内時計が狂っている人ほど、大きな孤独感や気分の不安定、うつ病などのリスクがあることが確認されています。朝日を浴びて朝ごはんを食べることで体内時計はリセットされるもの」。我慢や頑張りはいらない。太陽、栄養、運動、呼吸を意識して過不足のないバランスボディを育て、前向きなハッピーマインドを。
100人の女性に聞いた、運動習慣&健康事情
Q1. 1週間トータルで2時間以上運動の習慣はありますか?
週に2時間ということは、平均すると1日あたり20分未満。しかし30代、40代ともに「ある」を「ない」が大きく引き離し、7割以上が運動をしていない、と回答。習慣にできるのは月1回程度?
Q2. 運動習慣があると答えた人は、運動でメンタルに良い影響がありますか?
運動習慣があるのは少数派だが、その8割近くが「メンタルに良い影響がある」と感じている。運動にストレス解消効果があるのは明らか。重い腰を上げさえすれば、ポジティブなマインドはすぐそこに。
Q3. 生理周期やホルモンの乱れでネガティブ思考になりますか? 対策はしていますか?
6割以上が「ネガティブになることがある」と回答。しかし、特に対策をしていない、対策をしてもうまくいかない人が大半を占める。気分がダウナーになるのは仕方がないこと、と諦めている様子。
話を聞いたのは……
高尾美穂
産婦人科専門医。医学博士。婦人科スポーツドクター。女性のための統合ヘルスクリニック「イーク表参道」副院長。メディアを通じて心身の健康の重要性を説く。アシュタンガやマタニティヨガ、パワーヨガを学び、指導者としても活動。
細川モモ
予防医療・栄養コンサルタント。一般社団法人・ラブテリ トーキョー&ニューヨーク代表。生理の不調と食生活の関係や、自分でできるPMS改善法などを掘り下げた著書『生理で知っておくべきこと』(日経BP)も話題。
Text: Eri Kataoka Editor: Yu Soga
(※アンケート 編集部調べ)
※『VOGUE JAPAN』20223年2月号「欲しいのは、ポジティブなボディ」転載記事。
